Trade.2
「ユイ、いる?」
放課後。低めの優しい声が響く。
ざわざわしていた教室が一瞬静かになった。
「あ、ちょっと廊下にいるの、『王子様』じゃない?」
「きゃー!高柳くん、やっぱイケメン!」
「うわ綺麗ー。脚ながー」
クラスメイトが、興奮したような囁きをもらす。
そんな中で、『王子様』はもう一度私の名前を呼んだ。
「あ、いた。ユイ、帰ろう」
そう、廊下から、私をまっすぐ見つめていたのは。
「……ミナトくん」
何人もの女の子をとりこにした、『王子様』スマイル。
「わ、ユイ呼ばれてるよっ!
王子様のお出迎えだねっ、優しいー、さすがあ」
「もう、そんなんじゃないってば。……私先に帰るね。じゃあまた明日ね、ミユ」
「はーいっ!ばいばい、気をつけて帰るんだよー?」
「ありがと、ミユもね」
ミユと、新しくできた何人かの友達に手をふって、教室を出た。
ミナトくんと並んで廊下を歩く。
……背がまた高くなった、かも?
私も163センチと、女子としては背の高い方だけど。それでもプラス15センチくらいはミナトくんの方が高い。
彼の横顔をそっと盗み見る。
スッと高い鼻、切れ長の涼しい目。
人形のように整っている。
そして、しなやかな体つき。
高級な猫みたいだと、いつも思う。
高柳湊。
学業優秀、スポーツ万能な生徒会長。
今日の入学式では式辞を読んでいた。
私はそのミナトくんと、中3のときから付き合っている。
「ミナトくん、迎え、ありがと。……A組の感じはどう?」
「もとから仲いいやつが結構同じクラスにいた。
まあ、俺は器用だからどこでもうまくやれるけどね。
俺のことよりユイだろ。B組はうるさい奴が多いらしいし」
「うん、すごいにぎやか。でも楽しいよ。新しく友達もできたし」
「友達?誰?」
「んーと、須藤みゆきちゃん。
ちっちゃくて明るくて優しいの」
ふーん、と相槌をうつミナトくん。
要領もよくて、大人うけもいい。
穏やかで、誰にでも優しい。
でも真面目過ぎなくて、冗談もちゃんと通じるから、友達もたくさんいる。
そんな完璧なミナトくんだけど、ひとつだけ欠点がある。
「まあ、気をつけなよ。ユイは人を見る目がないからね。ちょっと優しくされると、コロッとだまされるから」
……気を許した相手には、毒舌。
どこが『王子様』なの!
見た目だけじゃない、ホントに!
人のこと言えないけど。
「だまされませんよーだ。
ミユはいい子だもん。
ミナトくんみたいに意地悪じゃないし」
「俺の意地悪はユイ限定だよ。
ユイは特別。よかったね」
「なにそれ全然嬉しくない……」
すねてうつむくと、ぽんぽんと軽く頭を撫でられた。
あたたかい大きな右手が、そのまま私の左手をとらえる。
……恋人つなぎは、いまだに慣れない。
「ほら、信号変わる」
校門を出た私たちは、そのまま横断歩道を走った。
ミナトくんは自然に私の速度に合わせてくれる。
口は悪いし、二重人格だけど、やっぱり優しい。
にまにま。
ゆるむ頬がおさえられない。
「ところでユイ、部活決めた?」
「へ?」




