Trade.12
「そっか。山下さんが」
私の話をきいたミナトくんは、難しい顔をして顎に手をやった。
バスケ部の活動が終わったあと、私たちはふたりで学校近くの喫茶店に入った。
優しい顔のマスターが、美味しいコーヒーをいれてくれるお店。
付き合いはじめた時からよくここで過ごしたけれど、こうやって二人きりで向かいあうのは久しぶりだ。
「それはミユちゃんが危険だな。
わかった。
なんとかしよう」
「私にも協力させて。
待ってるだけじゃいやなの」
そう告げると、ミナトくんはすこし驚いたような顔をして。
「ユイ、成長したよなあ」
「もう何なの、同い年でしょ」
「そうだけど。
こういうこと、ひとりで抱え込まずに俺に相談したし、えらいえらい」
「むう。バカにされてる気がする」
口を尖らすと、ミナトくんは私の頭をぽんぽんと撫ぜた。
「ミナトくんのそれ、癖だね」
「え?」
「頭ぽんぽんするの。
もしかして、無意識?」
ミナトくんは私の問いに、ふわりと笑みを浮かべ。
私の頭に置いた手を、そのまま髪にすべらせて。
「今だけ、恋人トレード、ナシでいいかな」
私の髪にそっと唇を寄せた。
「好きだよ、ユイ」
「だめ、ミナトくん……まだ、トレード中。浮気になっちゃうよ」
「ユイとなら浮気して、何もかも捨ててもいいかな」
冗談とも本気ともつかない調子で、ミナトくんはそう言った。
私は、ミナトくんが好き。
胸が苦しくて、切なくて。
恋は甘いだけじゃない。
苦しいこと、苦いことのほうがよっぽど多い。
だけど恋をせずにはいられないのは、目の前の貴方が愛おしいから。大切だから。
今すぐ、その腕のなかに飛び込んでしまいたい。
そんな衝動を必死に押さえた。
胸につかえていることがある。
リントにキスされたことだ。
突然過ぎて動けなかったとはいえ、拒否することもできたのに。
友達に嫌われるのがいやで、私はリントのキスを受け入れてしまったんだ。
大好きなミナトくんにこのことを黙っているのはとても苦しくて。
吐き出してしまいたかった。
「ミナトくん、あのね……」
意を決して、私が口を開いたそのとき。
ミナトくんと私のスマホが同時に震えた。
「リントからだ」
「こっちはミユからみたい」
いやな予感がする。




