プロローグ
*
「で、なんでやったの?」
丑三つ時の午前二時。男はとある派出所の奥の部屋で質問されていた。
質問しているのは警官の制服を着ているお巡りさん。今は帽子を机の上に置き、センター分けの前髪を晒していた。
職務質問されているのは、若い男だった。十代を卒業するかどうか、そのくらいに見える。
が、しかし。
着ている服装がおかしかった。
「どうして女装なんてして、深夜の町を徘徊してたの?」
お巡りさんが言ったとおり、男はどう見ても女装としか思えない服を着ている。形だけなら、襟とカフスが分かれているメイド服。それを改造したような服装だった。
首は白い襟に、細いリボン。胸元は鎖骨まで開いたエプロンドレスに、大きな胸元のリボンがフワリと付いている。袖はエプロンに付いたフリルと童話のお姫様が着ていそうなふんわりとしたヤツ。さらに下を見れば、フリルの沢山付いたエプロンと、フワフワを通り越してモコモコとしているスカートがあった。さらにその下は黒の柄入りストッキングをはいている。靴はストラップシューズで、所内にある蛍光灯の明かりでテカテカと光っていた。
男は机の上に脱いだカツラを見ながらボソリと言った。
「……パトロールです」
「それは俺たちの仕事だから」
冷静にお巡りさんが言えば、男は悄然としながら「そっすね」と呟いた。彼もその辺りは重々承知らしい。
「もしかして、最近ネットで噂の『アイドル戦士』って、君のこと? 確か……うーだん」
「うーたんです!」
ガタン! と椅子を鳴らしながら男が立ち上がる。鬼気迫る形相に、少し唖然としたお巡りさん。そこまで怒るとは思ってなかったらしい。
男は少しだけ考えるように、仁王立ちしたままだった。しかし、すぐに机の上に置いていたカツラとメガネをかけてから、見せ付けるようにクルリと一回転してみせた。
「夜道を歩く弱者の味方! 戦うアイドル! メイド戦士うーたんっ! 参上っ!」
パチーン! と、ターン後にウィンクを飛ばし、決めポーズらしき奇怪な仕草をする男。実に嬉しそうな笑顔を浮かべ、ポーズを決めた自分にだろうか、どこか誇らしげに胸を反らし、お巡りさんを見た。
そこには、とても冷たい笑顔があった。
「……調子に乗って、すみませんでした」
「うん、お兄さん別にポーズとってくれとは言ってないからね」
ボールペンを高速でノッキングしながら、お巡りさんは相手の男をもう一度座らせる。今度はカツラを脱がずに座った。それを奇妙なモノを見る目で見ながら、お巡りさんは尚も質問し続ける。
「で、君。なんでこんなこと始めたの?」
「……そうですね」
男は、女装し始めた経緯から、語り始めた。