夢の隙間(3)
暗闇に淡い光がいくつも浮かんでいる。
虹色の光の泡は、意味ありげな風景をその身に映し出し、私のそばを素知らぬ顔で通り過ぎる。
音まで見入るような静寂の世界。
滲むような光と影の境界線を目でなぞりながら、黒服の老人は静かに語り始めた。
「この場所は、お前たちが普段、見ている夢の奥の奥。
集合意識とでも呼べばいいか、つまりは夢の生まれる場所なのだ。
信じられないかもしれんが、すべての夢はつながっているのだよ」
老人はもったいつけるように、咳払いをひとつ。
「夢の種は心の深い場所で生まれ、空を目指すように上へ上へと昇っていく。
人々はそれを受け取り、自分というフィルターを通すことで、夢として見る。
分かるか、ここは世界の秘密の生まれる場所なのだ」
老人の口調には徐々に熱がこもり、視線は意識を預けるようにして、光の進む遥か先を見つめている。
「本来であれば、簡単に訪れることの出来るような場所ではない。
特にお前のような若造なら、なおさらだ。
一体どんな偶然でこの場所にいるのか。まったく迷惑な話だよ」
老人はうんざりだといった表情で、私に視線を落とした。
こうまであからさまに迷惑顔をされると、私の方もかえって腹が据わってくる。
私は老人の言葉を軽くいなすと、老人が一体何者なのかを尋ねた。
すると老人は理解できないといった風に、一瞬動きを止める。
いくつかの光が小さな音を立てて弾けた。
「私はここで語られる世界の秘密に、ただ耳を傾けている、それだけだ。
夢の種は時に狂気を含み、時に憎悪を含み、時に激情を伴う。
人々は夢に引きずられるようにして、現実を生きている。
無意識の集合によって、世界は回っていると言ってもいい。
私はその根幹に触れる者だ」
老人の目には、光の泡と同じ色が浮かんでいた。




