夢の隙間(2)
意味ありげな沈黙が流れる。
どうすることもできない私は、黙って立っていることしか出来ないが、相手も口を開く気配はない。
私の呼吸する音だけが、二人の沈黙の間をつないでいた。
ふと、ほとんど何も見えない暗闇だった空間が、ぼんやりと見えるようになってきたことに気づく。
目が慣れてきたのかと思ったが、どうやら違うようだ。
視線を落とすと、足元から薄っすら虹色がかった光を放つ、泡のような球体が湧き出ている。
人の頭くらいある球体は、次々に足元から生まれ、私の側を通り過ぎると、真っ暗な空へと昇っていった。
目の前を浮かんでいく泡の中では、見慣れない風景が揺れていた。
私は半ば無意識に手を伸ばしていた。
もう少しで手が触れるというところで、
「触るな」
鋭い声が響いた。
「それに触るんじゃない」
確かめるように、もう一度つぶやく。
それまで影だったものは、柔らかな光に照らし出され、はっきりとその姿を現した。
年齢は、70歳くらいだろうか。
使い込まれた木製の椅子に腰掛け、手には杖を持っている。
全身を黒のスーツに包み、服にはシワひとつない。
眼光は鋭い光を含み、私を真っ直ぐに捉えていた。
老人は考え込むように目を閉じると、深いため息をついた。
「こうなっては、無闇に動かれる方が迷惑だ。
ここのことを説明してやるから、とにかくアレコレ触ったりしてくれるなよ」
私は黙って軽く頷いた。




