表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DRAW!  作者: ヒロ
4/10

第4話

4.


「……あれ?」


「おう、気が付いたかよ」


 奈々は目覚めると、自室のベッドに横たわっていた。

 傍らには、机に置いてある物を見分している勝也がいる。

 室内に明かりは付いておらず、外はそろそろ日暮れのようで、オレンジ色の光だけが室内に差しこんでいた。

 そこまで現状を把握して、奈々は自分に起こった事もついでに思い出す。

 身体を起こした奈々は、髪をくしゃくしゃにしながらつぶやく。

「そっか、あたし、こけたんだっけ」

「あぁ。そりゃもう無様にな。しかも頭打って白目向いてたからな。ブッサイクな顔してやがったなー」

「うっさい。白目向いててもイケメンな奴なんていないわよ」

 ともかく、頭を強く打って気を失った奈々は、勝也によって運ばれ、今ここにいるという訳だ。

「つーか、何レディの部屋をジロジロ見てんのよ。変態」

「あ? 何を今さら。ガキん頃はよくここで決闘してただろ?」

「そりゃ、そうだけど……」

「相っ変わらず、趣味の部屋だよなー。何だよあの壁のポスター?」

「うっせぇ見んな」

「何言ってんだ。あんなデカデカと貼られて、“見て下さい”って言ってるようなもんじゃねぇか」

「あんたに見て欲しい訳じゃねーよ! あーもうっ!!」

 奈々はのけ反るように両手を振り上げ、そのまま両方の拳をベッドに叩きつけた。

 そして顔を掛け布団に押し付けながら、呻いた。


「最低……」


 今日は本当に、最低だった。

 友人との他愛ない雑談から何だか落ち着かなくなって、勝也の前で弱みを見せてしまって、終いにはレース中、こいつが何もしてないのにずっこけて、頭打って、あまつさえ、こいつに部屋まで運ばれる始末……。


(なにやってんだ、あたし……)


「……悪かったわね」

「あ? 何だって?」

 勝也は本棚を物色していて、何を言われたか分からなかったらしい。

 普段ならここでキレて舌戦の火蓋とするところだが、奈々は繰り返し、言った。

「運んでくれて悪かったわねって言ったのよ」

「は? 別に? ……何だよ。やけに殊勝じゃねぇか」

「……そうね。今日のあたしは、何か変なのよね」

 最早、勝也の台詞の上げ足を取る気力も無い。

 奈々はそのままベッドに倒れ込んだ。

 太陽が沈み、室内は段々と暗くなる。

 若い男女が同じ部屋にいて、ベッドがあって、邪魔者は何もない。

 なのに、その手の危ない気配は全く無い。

 まぁ、当然だ。

 勝也にとって、奈々は女では無い。

 好敵手。宿敵。人生における最大のライバルであり、幼なじみ。

 何の好敵手で、何の宿敵で、何のライバルなのか、もう忘れてしまったけれど、幼なじみ。

 その関係のまま、これまで、数々の戦いを繰り広げてきたのだ。

 いつ決着がつくかも分からず、いつ果てるとも分からない戦いを、10年も。

 だから、勝也は奈々を、襲ったりはしない。

 そんな形で全てを終わらせる事なんて望んでないから。

 望んでいるのは、きっちりと、しっかりと、シロクロはっきり付くような、決着。

 あるいは、これからも永遠に、敵同士として、相対する事。

 多分、そうなのだろう。


(こんなになるまで、付き合ってきたあたしもあたしだけど……)


 奈々は寝返りを打ってうつ伏せになる。


 今頃になって、と言うか、今日になって、気づかされた事がある。

 あるいは、思い出した事がある。

 そして、色褪せてしまった、思いがある。

 枕に顔を埋め、闇の中に去来するのは、過ぎ去った過去と、今日の出来事。


 勝也にとって、奈々は女ではない。

 では、奈々にとって、勝也は何なのか……。


「勝負……、しばらく止めとくか」


「えっ?」

 枕から顔を上げた奈々の視界の先で、勝也は壁のポスターを眺めていた。

 ポケットに手を突っ込み、だらけた立ち姿のまま、勝也は、奈々をちらとも見ずに言う。


「いや、お前頭打ったし、しばらく休んどけよ。本調子じゃねぇ奴を潰しても、嬉しくも何ともねぇ」


 それに、と、右手をポケットから取り出し、頭をボリボリと掻きながら、続ける。


「今のお前じゃ、絶対に俺に勝てねぇもん。だから、一時休戦」


 その言葉は普通、いがみ合っていた者同士が歩み寄り、一時的とは言え争いを止める、奇跡的な時間の事だ。

 なのに奈々はその言葉に、言い知れぬ不安を感じた。

 歩み寄るどころか、このまま疎遠になってしまいそうな、不安感。

「……何それ? 武士の情け?」

「まぁそんなトコだ。勝負は、まだ付いてねぇからな」


 勝也は、もう喋らなかった。

 奈々が何か言うのを待つように、ただぼーっとポスターを見るだけである。


「……もう寝る。帰れ」


 そう言うと、勝也は黙ったまま、素直に部屋を出ていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ