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DRAW!  作者: ヒロ
3/10

第3話

3.


 その日の放課後、勝也は正門の門扉によりかかり、仏頂面で突っ立っていた。

 腕組みをしながら、ずっと校舎の方を睨んでいる。

 彼を知らない無垢な後輩達を(無自覚に)ビビらせながら、勝也は一人の女を待っていた。

 そして、そろそろ日が暮れようという頃に、

「よ、よう」

 その女はやってきた。

 言わずもがな、天坂奈々である。

「おう、遅かったな。ったく、早くこっち来い! 今日は通学路Bで障害物レースだろーが!」

「あ、あぁ、分かってる。分かってるんだけど……」

 奈々の煮え切らない物言いに、勝也は首をかしげた。

 どうも、様子がおかしい。

 口調もそうだが、目線が泳ぎがちである。手も足も微妙に揺れていて落ち着きが無い。

 何か、迷いのようなものを持っているようだった。

(演技……か?)

 油断させ、自分を出し抜くための演技をしているという可能性も、あるにはあった。

 しかし、あいつがここまで高度な演技の出来る奴ではない事は知っている。

 自分の知っている奈々なら、こいつの今の挙動不審は演技ではない。

 しかし演技じゃないなら、目の前にいる奈々は、別人と言っても良かった。

「んだよ? 何きょどってんだよ気色悪ぃ」

「う、うっさいわね! き、今日は、気分が乗らないから、普通に帰りたいだけよ!」

 やはり、様子がおかしい。

 普通に帰りたい?

 通学路をコースに見立てた、妨害障害何でもアリアリの鉄人レースしながら帰るなんて、それこそ俺らの“普通”ではないか。

 奈々は依然、勝也と目を合わせようとしないまま、校門をくぐろうとする。

 当然、勝也はそのまま通すつもりなど、無い。

「何だそれ、敵前逃亡かよ? お前らしくもねー」

 目の前に立ちはだかった勝也は、真っ直ぐに奈々を見下す。

 その言葉に流石にカチンと来たのか、奈々も眼光を鋭くする。

「勝手に“あたしらしさ”とか決めつけてんじゃねーよ。カス」

 トーンの低い、ドスの効いた台詞。

「はぁ……」

 奈々も一言言い放ったおかげで若干殺意は回復したものの、それでもまだ、気分が上がらなかったらしい。

 勝也と同じくらい似合わない溜め息を吐きながら、奈々はうつむく。

「いや、今日……イヤな話、聞いてさ。それも、途轍もなく、反吐が出るくらい嫌な話でさ」

「あ? 話?」

「なんか……あたしと、あんたが、出来てるとか出来てないとかって、そういう……」

「ん? あぁ、何だ、噂の事か。俺も今日、ダチからそんな話聞いたぜ?」

 奈々は驚いたように顔を上げた。

 目の前にいる、幼なじみにして宿敵であるその男は、不敵に笑っていた。

 10年間、変わらない笑みだ。

 奈々が10年間、見続けた笑顔だ。

「あんなもん放っとけや。あんなもん同学年のバカ共のバカ共によるバカバカしい妄想だろ? ったくよーどいつもこいつもやれ惚れたの腫れたのウゼーっつの。なぁ?」

 お気楽に言う勝也とは対照的に、気だるげに勝也を見やる奈々。


「あんたさぁ……」


 奈々は何かを言いかけて、止めた。

 一瞬握った拳を、だらりと解く。

 そして奈々も、不敵に笑う。

 ただし、より倦怠感の漂う、危うい笑顔であったが。

「さっきの言葉、取り消すわ。いつものレース、やろうか」

「……んだよ? 何か言いかけたじゃねぇか。言いたい事あんならはっきり言えや」

「いーのよ。どーせくっだらねー事なんだから。合図は、いつものでいい?」

「あ、あぁ。ったくワケ分かんねー女だ―――」


「位置についてヨーイドンっ!!」


 一瞬。

 一瞬で勝也の脇をすり抜け、奈々は校門を飛び出していった。

 虚を突かれた勝也は、しかし即座に何をされたか判断し、自分も一気にスタートを切った。

「オイ! てめそれヒキョーだろ! 待てコラァ!」

 全力疾走しながら叫ぶ勝也の声に反応して、5メートル程先を行く奈々は、背後を振り返った。

 その表情は、さっきまでのような危うさの無い、笑顔。

 屈託の無い、花が咲くような笑顔だった。

「うっせぇバーカ! あんたが全部悪ぃんだよボケが!!」

「んだコラァ! それどーいう意味だコラァ!!」」

 勝也は混乱しながら、心のどこかで安心していた。

 やはり目の前にいるのは、本物の奈々である事。

 自分が昔からよく知る、奈々そのものである事に。


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