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DRAW!  作者: ヒロ
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1/10

第1話

1.


「……てめぇ、もう一回言ってみろ」

「あぁ、何度だって言ってやるよ」


 市立○○学園高等学校の廊下に、緊張が走る。

 そこでは、二人の男女が互いに額を寄せあい、痛烈なガンのくれ合いを演じていた。

 片や、坊主寸前まで刈り上げた髪と頬に入った無数の傷跡が目を引く、ガタイの良い男。

 片や、セミロングの黒髪と気の強そうな麗しい美貌が目を引く、男ばりに身体の引きしまった女。

 二人は今日の授業が終わるや否や、それぞれの教室から黙って立ち去り、廊下で出くわして以降、ずっとこの膠着状態である。

 事情を知らない生徒たちは触らぬ神に祟りなしと言ったように、なるたけ素早く廊下を通り抜けようとし、事情を知る者は、巻き込まれない程度に距離を取り、しかし決して見逃さないよう、二人を注視していた。


「アリエッ○ィの方が絶対に面白い!」

「かーっ! ありえねぇ! 前々からセンスの欠片もねぇ女だとは思ってたが、ここまでたぁな! あんなヌル映画なんて見る気も起きねぇ! 今映画っつったら“インセ○ション”だろ!」

「ちょっと、それ以上ジブリ馬鹿にするとファン代表としてあたしが殺すわよ!? つか、あんたにセンスどーこー言われたくないんですけど? なんとかって言ったっけ? あんなのアクションとCGの派手さだけじゃない!」

「そこがいいんじゃねぇか! 映画なんて高尚な気持ちで見るもんじゃねぇ、楽しめりゃそれでいいんだよ! 血沸き肉躍るようなカッケー映画! それが全てなんだよ!」

「うっわキモッ! つーか何その偏見!? 宮崎映画に眠る数々の命題と、それを伝える素敵な世界観を理解できないなんて! あーヤダヤダ!」

「あん!? てめぇがそんな事言うか? 何気取っちゃってんのお前? キメェんだけど」

「うっさいし、臭ぇし、きめぇのはそっちの方なんだけどー」

「……」

「……」


 二人は同時にガンの飛ばし合いを止め、額を離した。

 そして、示し合わせたように間合いを取る。


「アリ○ッティ」

「インセプ○ョン」


 女子の放った予備動作ナシの眼潰しを、男子は寸前で腕を掴んで防ぐ。

 同時に、男子の放った本気のフックを、女子は腕の始点を手刀で抑えて封じる。


 互いの攻撃が封じられたと見るや、二人はまたも同時に「ふん」と、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ゆずる気は、無いってワケ?」

「たりめーだ」

「だったら、いつものやつで、“勝負”よ」

「あぁ望むところだ!」


 言って二人は、互いに右手に拳を作り、それを左手で包む。

 それを大きく後ろに振りかぶり、そして、


「「じゃんけんポン!!!」」


 解放した。

 笑みを浮かべたのは、女子の方だった。


「ふふん、じゃ、あたしの先行でいいわね?」

「けっ……、だがまぁいい。どっちから見たって、俺のの方が面白ぇに決まってるからな」

 

 一方男子の方は、じゃんけんに負けたショックで廊下に座り込みながら、不機嫌そうに言う。

 単なるじゃんけんでも、負け惜しみがこぼれてしまうようだった。

 しかし、再び立ち上がった時には、男子は再び闘志の炎を目に宿しながら女子を睨んだ。

「決まったならさっさと行くぞ。俺を後攻にした事を後悔させてやる! てめぇをド迫力の映像でイかせてやんよ!」

「ふん、あんたこそ、ジブリの感動でヒーヒー言わせてやるわよ!」

「けっ、やれるもんならやってみろ。んで、その後はカラオケに付き合ってもらうからな。こないだの10曲採点レースのリベンジを挑むぜ!」

「はん、あんたの超絶音痴を聞かされるのは不快だけど、まぁいいわ。また地獄の絶望感を味わわせるのも気味がいいし。その代わり、その後はゲーセンでストⅡのリベンジさせてもらうわよ! 新技で叩きのめしてやるわ!」

「はっ、んなもん返り討ちにしてやるよ!」

「うっさいハーゲ!」

「黙れドブス!」

「単細胞!」

「性悪!」

「豚!」

「糞!」


 互いに互いをののしりながら、二人は全く同じ歩調で、学校の昇降口に向かっていく。


 その様子を教室から見届けていた一人の男子は、二人が行った後で、自分の机に戻る。

 そして机の中から一冊のノートを取り出し、記入を始めた。


 ノートの表紙には“カツヤ君×ナナさんのストロベリー報告書”と書かれていた。


「えーと、本日のおデートの予定は、映画鑑賞×2、徹カラ、ゲーセン……と。丸一日いちゃつく気まんまんじゃねぇか」


 まぁ、傍から見たら、ただいがみ合ってるだけにしか、見えねぇんだろうけどな。

 と、ノートをまとめた男子はぼやいた。


「しっかしよくもまぁ飽きもせず、毎日毎日やってるよなぁ。他に友達いねーのかよ。あ、オレ友達じゃん。カツヤ君の」

 男子はそうぼやくと、はぁーと溜め息を付いた。


 片や、坊主寸前まで刈り上げた髪と頬に入った無数の傷跡が目を引く、ガタイの良い男。名前は、陣内勝也(ジンナイ カツヤ)


 片や、セミロングの黒髪と気の強そうな麗しい美貌が目を引く、男ばりに身体の引きしまった女。

名前は、天坂奈々(アマサカ ナナ)。


 この二人、幼なじみ同士である。


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