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思考封印迷宮ーー言葉で降りる冒険譚  作者: 颯音ユウ


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7話 重さに掴まれました


「……重い」


「足が、沈む……」


「膝が曲がったまま戻らないわね」


「……空気も重いです。息が、遅れます」


「——落ち着こう。

 今の“重い”を言葉にして揃えよう」


「揃えるって、何を」


「感じた順でいい。膝、息、武器」


「……剣が重い。握るのに力が要る」


「呼吸も。吸うのに胸が痛いわ」


「……踏んだ瞬間に重くなる感じです」

「段階があるかもしれません」


「段階?」


「はい。一定じゃありません。

 ……上がったり、戻ったりします」



「……一歩」


「うわ、また増えた」


「増えたって言うなよ。増える」


「言う。増えた」


「……今、重さが一段上がりました」


「どこで」


「床の継ぎ目です。線みたいに見えます」


「線、またか」


「六層の線と同じ匂いよ。境目がある」


「——境目を言おう。“今、重い”“今、軽い”。

 それだけでも助かる」


「軽いなんてあるのか」


「……あります」


「あるの?」


「……ここ、軽いです」


「軽いって、助か——」


「助かる、じゃないわね。踏ん張れない」


「うわっ」


「滑った!」


「軽い床、足が逃げます」


「……軽いのに、怖いって何だよ」


「重いは動けない。軽いは止まれない。嫌な二択ね」


「——二択なら、言葉で三択にしよう」

「重いなら短く動く。軽いなら寄って受ける」


「寄って受ける、は分かる」


「短く動く、は難しい」


「難しいから、言う。……でも、強制はしない」


「じゃあ、やる」



「……ミレイ、鑑定で分かる?」


「重さそのものは見えません」

「でも、変化の癖は拾えます」


「癖?」


「上がる前に、床が鳴きます」

「金属みたいな響きが増えます」


「鳴く床、もうやめろ」


「でも言う。言えないと、判断が遅れます」


「判断遅いの、ここで致命傷だな」



「……撤退も考えたいわ」


「エルナ?」


「重さが続けば、握力が先に死ぬ。

 呼吸も削れる。ここで消耗したら、次がきついわ」


「……正しい。撤退線は要る」


「ただ、今は——この層の癖を掴みたい」


「癖を掴む?」


「前の階層で“短い合図”を作った。まだ使える。

 言葉も繋がってる。——今のうちに、

 重さのルールを言える形にして抜けよう」


「言える形」


「重い、軽い、押された、

 落ちる。……それで足りる」


「……足りるなら、やるわ」


「やるしかねえな」


「……やれます。言えます」



「……来ます」


「もうかよ」


「金属音です。壁から」


「壁?」


「壁、歩く音だわ」


「……壁歩きの甲冑です」


「甲冑が歩くとか、冗談だろ」


「冗談じゃありません。……歩いてます」


「——じゃあ、落ちてくる」


「落ちてくる?」


「重い層で、上から落とすのが一番早いわ」



「……影」


「見えた!」


「来る!」


「重い!」


「重いなら、受けろ!」


「受けるって——うっ!」


「……金属、落ちました。

 床が鳴きました。次、重くなります」


「次って、いつ」


「今の音の、二拍後です」


「二拍後って言うな、心臓が早いんだよ!」


「早いなら言え。呼吸が先だ」


「息、浅い!」


「言えた。——レイ、短く。跳ばない」


「跳ばねえ! ……重いと跳べねえ!」



「来るぞ、二拍!」


「うわっ……!」


「床が沈んだ!」


「……今、重いです。動きが鈍ります」


「甲冑、こっち見てる」


「目があるの?」


「目が無くても、狙うわ」


「——レイ、受け流せる?」


「落ちてくるなら、返せる。

 ……ただし、足場が要る」


「足場なら作れるわ」

「三相弾——氷寄り!」


「……床が白くなった」


「滑りが減った。踏ん張れる」


「いいわ。ここは“踏める”」



「……冷たい霧」


「霧じゃない。気配がいる」


「……幽鬼です」


「幽鬼?」


「落下させる幽鬼。押します」


「押す?」


「背中に、手が来るわ」


「嫌すぎる」


「——押された!」


「今!」


「軽い床だ! 踏ん張れない!」


「風、短く!」


「風圧——!」


「押し返した!」


「……幽鬼の押し、弱まりました」


「弱まるって、分かるのか」


「空気が戻りました。

 ……押しの前に、温度が落ちます」


「温度が落ちる?」


「はい。背中が冷えます」


「冷えたら言え。押される前に」


「言う。……背中、冷い」


「今それ、助かるわ」


「甲冑、また来る!」


「落ちる!」


「——重い!」


「重い、って言うだけで息が詰まる!」


「息が詰まるなら言って。短く」


「詰まる!」


「言えた。……十分」



「……甲冑、壁を滑ってます。

 落下の角度、変わります」


「どっちに落ちる」


「右寄りです。軽い床の方へ落とします」


「軽い床に落とされたら、受けが飛ぶ」


「——じゃあ、軽い床を避ける。踏める面に寄ろう」


「踏める面って、どこ」


「氷の白い床。そこは踏める」


「白い、ね」


「白は安全、じゃなくて“踏める”ね」


「言い直しが偉いわ」



「幽鬼、また来ます」


「背中、冷い!」


「来る!」


「風、もう一回!」


「風圧——!」


「……押し返せた」


「押し、消えた?」


「消えてない。避けただけ」


「避けられるなら、勝てるわ」



「——この層、敵が組んでる」


「甲冑が落とす。幽鬼が押す。軽い床で転ばす」

「嫌な連携だな」


「嫌でも、言えば崩せる」


「崩す方法は?」


「押しを“利用”する」


「利用?」


「……幽鬼は、押す位置を選べません。

 近い背中を押すだけです」


「つまり、背中を向ける場所をこっちが選べばいい」


「そうです。甲冑が落ちる位置も、誘導できます」


「——誘導しよう。ここから先、

 “重い”区画に寄せる」


「重い区画に寄せるって、こっちも動けなくなるぞ」


「動けない代わりに、敵も動けない。

 甲冑には不利じゃない?」


「甲冑は重いほど強い」

「だから“落下”だけ使わせる。落ちた瞬間に止める」


「止める?」


「氷で足を取る。風で姿勢を崩す。レイが返す」


「返す、は得意だ」



「……次、重くなります」


「合図みたいに言うな」


「合図です。……二拍後」


「二拍、覚えた」


「俺の心臓が先に二拍叩くわ」


「叩くなら言って。息も」


「息、浅い!」


「浅い、確認。……進む」



「甲冑、来る!」


「落ちる!」


「重い!」


「白い床、踏め!」


「踏める!」


「踏めるなら受ける!」


「——来た!」


「返し刃!」

「……硬っ!」


「硬いのは甲冑よ」


「知ってる!」


「……幽鬼、背中に来ます」


「背中、冷い!」


「押される!」


「その押し、使う。——少しだけ、受けて」


「受けるって……」


「転ぶなよ、レイ」


「転ばねえ!」


「——風、短く」


「風圧——!」


「押しが横に逸れた!」


「逸れた先、重い床だ!」


「……甲冑、落下角度、固定されました」


「固定?」


「幽鬼の押しで、位置が揃いました」


「揃ったなら、今だ」


「氷寄り、床を“噛ませる”」


「三相弾——氷寄り!」


「……白が広がった」


「踏ん張れる!」


「甲冑、落ちる!」


「二拍!」


「来る!」


「返し刃——!」


「うっ……!」


「レイ!」


「耐えた!」


「今、甲冑の足が止まってる」


「止まってる?」


「……氷で足首が噛んでます」


「関節は?」


「関節、動きが鈍いです。今が隙です」


「——短く決める。レイ、落下の“芯”を切って」


「芯って何だよ!」


「落ちた瞬間の継ぎ目!」


「分かった!」



「斬閃!」


「……割れた!」


「割れた音が、重い」


「重い音は今だけでいいわ」


「……甲冑、崩れました。壁歩きが止まりました」


「——よし…って言いたいけど、まだ幽鬼がいる」


「いるわね。冷いのが残ってる」



「幽鬼、押しだけで終わらない」


「落とす気だ。軽い床へ」


「軽い床、どこだ」


「右。踏ん張れない」


「……右の反響、軽いです」


「反響で軽いって、もう意味が分からない」


「分からないなら言う。右、軽い」


「背中、冷い!」


「来る!」


「——風」


「風圧——!」


「押しが止まった?」


「止まってない。逃がしただけ」


「逃がした先、壁際」


「壁際は重い」


「重いなら、幽鬼も鈍る?」


「鈍るわ。気配が重くなる」


「じゃあ、凍らせる」


「氷寄り」


「三相弾——氷寄り!」


「……空気が白い」


「幽鬼、見えた」


「見えたなら切れる!」


「斬閃!」


「……冷えが消えました」


「押す手が無くなった」


「やっと、背中が自由だ」



「……重さ、変わった」


「軽い?」


「いえ……普通です」


「普通、って言葉が嬉しい」


「嬉しいって言うと裏切られるわ」


「もう十分裏切られてる」


「……でも、今は戻ってます。段階が消えました」


「消えたってことは、抜けた?」


「——たぶん。……出口じゃないけど、区切りだ」


「区切りって、何」


「……扉があります」


「扉?」


「開かない扉、ってやつか」


「——先に言っておこう。

 重さより面倒かもしれない」


「面倒の種類が変わるだけよ」


「変わるだけで助かる、と言いたい」


「言うな」


「……言いません。……でも、進みます」


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