1話 迷宮に入りました
「噴水、左。祈り柱、右。——黒い扉」
「……ここね」
「嫌な寄り方です。入口、呼吸してます」
「呼吸って何だよ。扉だろ」
「扉よ。……でも、風が“吸われて”るわ」
「つまり、入れって言ってる?」
「入る」
「リオン……一応言っとく。戻れない可能性、ある」
「分かってる」
「じゃあ、行こう」
「——待て。入ったら、まず“言う”」
「言う?」
「見たもの。聞こえたもの。数。方向。全部」
「「了解」」
「……扉、開けるぞ」
「押すの? 引くの?」
「レイ、今それ?」
「いや、だってさ——」
「——静かに。来ます」
「……気配、増えました。
入口狩りの可能性があります」
「入口狩りかしら?」
「入った瞬間に囲むやつだろ。最悪じゃん」
「最悪でも、最初に言う。——入る」
「……暗い。匂いが変わった」
「足音、右2……いや、3」
「影が揺れたわ。天井からも来る」
「喋れる。……なら、作戦は組める」
「——言え。今、見えた現象を」
「床、湿ってます。滑ります」
「正面、牙。……群れだ」
「数、増えてる。やばい」
「怖がる暇はないわ。縛る」
「——合わせろ」
「瞬強! 剣で切り開く!」
「鑑定します。弱点——喉です!」
「右、2! 後ろ、1!」
「……今の、考える前に口が動いた」
「それでいい。思考が遅れるなら、言葉で先に行く」
「来る! また増えた!」
「——言え。レイ、増え方を言え!」
「右から2、正面から3! 天井ー1!」
「……床、滑ります。足を取られます」
「風、回すわ。足元、止める」
「縛風——!」
「動き、鈍った!」
「瞬強! ——斬閃!」
「待て、レイ! 奥が——」
「奥?」
「……鑑定。弱点は喉、で合ってます。ですが——」
「ですが?」
「“群れ”じゃない。
——“群れを呼ぶ”のが混じってます」
「呼ぶ?」
「鳴き声、違う。……合図役です」
「つまり、そいつを落とせば増えないわね」
「リオン、指示!」
「——合図役を探せ。声だ。声の主を落とす」
「声……どこだよ!」
「上です。梁の影」
「風で落とすわ」
「三相弾——氷寄り!」
「——落ちた!」
「今だ。崩し!」
「連断! 重ねろ!」
「瞬強! 返し刃——!」
「……数、減りました」
「次、来る。息が——」
「息を言うな。——言え。周囲」
「左、1! 足、速い!」
「鑑定——喉!」
「切る!」
「……倒れた」
「止まった。増えない」
「……静かになったわね」
「静か、って言うなよ。嫌な予感しかしねえ」
「フラグではありません。観察です」
「観察で怖いこと言うな」
「……リオン。今の、思考封印の影響?」
「分からない。だが——」
「だが?」
「決めた手順が、口に出さないと抜ける」
「……そうね。さっき、縛るって言う前に、
何を縛るか一瞬抜けたわ」
「私は“右”を見てたのに、
“右”って言うまで確信できなかった」
「俺は、斬った後に『なんで斬れた?』って思った」
「……それが、ここ」
「なら、ルールを増やす」
「ルール?」
「迷ったら、言う。考える前に、言う」
「言葉が先。思考は後」
「「了解」」
「——進む。入口は?」
「……見えません。……背中、壁です。閉じました」
「閉まった?」
「閉まったわね。風が戻らない」
「は?」
「戻れないってこと?」
「可能性が高いです」
「……最悪じゃねえか」
「最悪でも、進むしかない」
「ミレイ。索敵、下り口はあるか」
「……あります。右奥です。
下から冷たい風が上がっています」
「冷たい? まだ一階層よね」
「温度ではなく、感触です。——嫌な冷たさです」
「嫌な寄り方と同じカテゴリかよ」
「同じです」
「……足元。整いすぎ」
「整いすぎ?」
「石畳が綺麗すぎます。
踏ませるために“作った”感じです」
「つまり、罠の匂いってこと?」
「断定はしません。……でも、線があります」
「線?」
「継ぎ目が、一定間隔です。
——踏む順番を誘導してます」
「誘導? 迷路とか?」
「まだ言い切れないわ。
——ただ、素直に下りたら痛い目を見る」
「じゃあどうする」
「言う。見えたものを言う。——それで道を作る」
「——扉前で言ったのを、もう一度」
「——見たものを言え。起こるものを言え。
言葉で降りる」
「壁、左右、三歩。影が濃いです」
「床、線。……罠の作りです」
「風、下へ吸われてるわ。階段の奥、息してる」
「俺の心臓、うるさい」
「……うるせえって言いそうになった」
「言ってません。えらいです」
「褒めるな!」
「褒めてません。観察です」
「ミレイ、先に一歩」
「……はい。踏みます」
「エルナ、縛風は温存」
「了解よ」
「レイ、突っ込むな。受ける準備」
「分かってる」
「——行こう。下へ」
誰が言ったか分からないセリフは、
誰が言っても良いことにしてください。




