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思考封印迷宮ーー言葉で降りる冒険譚  作者: 颯音ユウ


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11話 門番がいました


「……この先、やけに儀式っぽいな」


「言い方が嫌ね」


「嫌でも、似てる。磨かれた床。金具。整列する音」


「……玉座に続く道みたいだな」


「言うなって。……でも、分かる」


「……扉が二枚。どっちも、同じ形です」


「同じ?」


「同じなのに、距離が違うわ」


「距離?」


「片方は近い。片方は——近づくほど、遠い」


「意味が分かんねえ」


「意味は後。今は、焦らない」


「焦らないと、届く?」


「……届くかもしれません。

 焦ると、音が揃って、擦れ音が増えます」


「擦れ音、さっきから気になる」


「……金属が動く音です。

 見えない誰かが、姿勢を正す音」


「……扉の前に、線がある」


「線?」


「床の溝よ。——まっすぐ、二枚の扉まで」


「溝が何だって」


「……溝が“歩幅”を決めます。乗ると、揃えられる」


「揃えられるって言い方やめろ」


「やめたいけど、合ってるの」


「……一歩」


「音、硬い」


「……勝手に同じ音になっていく」


「揃うな」


「揃わない。——ずらすわ。半歩、外」


「半歩?」


「溝に乗らない。溝に合わせない」


「……了解です」

「了解よ」


「……俺は、分かったって言えばいいのか」


「いつも通りでいい」



「……擦れ音、増えた」


「増えたって、どこ」


「扉の脇。壁」


「壁?」


「……鎧があります。並んでます。飾りみたいに」


「飾りが、音出すかよ」


「……出します。金具が、触れてます」


「触れてるだけ?」


「触れてる“だけ”なら良いわね」



「……近い扉、動いた」


「開くのか?」


「開いてない。……でも“開くふり”をしてる」


「ふり?」


「取っ手が、こちらに伸びたように見えます」


「見える、だけか」


「……触れる距離じゃありません。

 なのに、触れた気になりそうです」


「嫌だな」


「嫌でも、言えば止まれる」



「……扉、近い」


「近いのは罠よ」


「罠でも、抜けられるなら」


「抜ける前に起きるわ」


「起きる?」


「……擦れ音の正体。鎧」


「鎧、起きるのかよ」


「起きる“準備”が、今」



「……来ます」


「来るな」


「来ます。動く音です」


「……カンです」


「鳴った」


「……金具が当たった音です」


「……聞こえてるわよ」


「当たっただけなら——」


「……違う。立ったわね」


「……復活衛兵です」


「復活って、倒しても起きるやつか」


「はい。それです」


「ここに来て、それかよ」


「ここだからよ」



「数は」


「……左右に二体。奥に、もう二体」


「扉の脇に揃ってるの、性格悪い」


「迷宮に性格はない」


「悪意はある、だったわね」


「……近い扉、また動いた」


「見せて、引く」


「引く?」


「近づくほど遠い方が本命だ。……多分」


「多分、は言うなって」


「言う。……多分でも、方向は揃えられる」



「衛兵、来るぞ」


「歩幅、崩す。溝に乗らない」


「分かってる!」


「分かってるなら、溝から外」


「外してる!」


「……外してるのに、音が揃う」


「揃うって、どうして」


「……床が、こちらの足音を拾ってます。

 反響で、合わせてきます」


「床が指揮してるのかよ」


「指揮されるの、嫌ね」


「——散らすわ」


「エルナ」


「風圧——散れ!」


「……音が、ばらけた」


「衛兵の歩き、ズレた」


「ズレたなら、通る」


「通るって、扉へ?」


「扉へ、じゃない。——列を切る」


「レイ、手前」


「分かってる。……斬閃!」


「硬っ」


「硬いのが鎧よ」


「でも、切れた」


「切れたところで、止まらないわ」


「止まらない?」


「……再起動します」


「門番じゃなくても?」


「この層の衛兵は、します」


「嫌すぎる」


「ミレイ、どこが起動源だ」


「……足首です。床の溝と、繋がってます」


「繋がってる?」


「……溝が“回路”です。踏むと、起きます」


「じゃあ踏むな」


「踏まなくても、揃うと踏んだ扱いになるわ」


「最悪——」


「言わない」


「揃えられる前に、切る。回路を」


「回路、切れる?」


「……石の溝です。切るなら、埋める」


「埋める?」


「氷寄りで固める。滑りを変える。音を殺す」


「殺すって言うなよ」


「言い方が強いだけ。……やるわ」


「三相弾——氷寄り!」


「……溝が白くなった」


「足音、吸われた」


「吸われるのは嫌な記憶だな」


「今は、味方よ」



「……衛兵、止まった?」


「止まってない。……でも、揃いにくい」


「揃いにくいなら、押し返せる」


「レイ、短く」


「短く、な……返し刃!」


「当たった!」


「当てて離れる。粘ると、揃えられる」


「もう一体、左」


「見えない」


「見えないなら、風で位置を作るわ」

「風圧——!」


「……鎧の輪郭が浮いた」


「そこだ。——斬閃!」


「……倒れた」


「倒れても、起きるんだろ」


「……起きます。床が鳴ると」


「じゃあ鳴らすな」


「鳴らさないために言うの」



「……近い扉が、また“手”を出した」


「気持ち悪い」


「近い方に行かせたいのよ」


「行きたくなるのが、余計に腹立つ」


「腹立つなら、行かない」


「遠い扉は?」


「……遠いままです」


「遠いなら、どうする」


「……横に行く。溝を跨がないで、円を描く」


「回り道?」


「回り道に見せて、距離の罠を外す」


「言い方が賢い」


「褒めてないわ」


「褒めてない。観察」



「……衛兵、起きました」


「早い」


「……回路が鳴きました」


「鳴くって」


「音が揃いかけた」


「揃う前に、崩す」


「崩すなら、風」


「崩すなら、俺の足でもいいか」


「いい。——わざと外して、音をズラせ」


「ズラせって、踊れってか」


「踊らなくていい。歩幅を変えるだけ」


「それが一番難しいんだよ!」


「——揃った!」


「揃ったら、立つ!」


「立った!」


「来る!」


「来るなら、列を切る」


「列?」


「二体を、別々にする。寄せない」


「エルナ、右の足」


「拘束——!」


「……空気が絡んだ」


「右、止まったわ」


「左は俺が——瞬強!」


「強化は大丈夫?」


「この層は反転じゃねえ! 大丈夫だ!」


「言い切るな」


「言い切る。今は大丈夫!」


「斬閃!」


「……左、倒れた」


「倒れた、だけ」


「だけでも、今は足場だ」


「ミレイ、扉までの距離、変わるか」


「……変わります。急ぐほど、遠い」


「急がなければ?」


「……近づきます。ですが——」


「ですが?」


「足音が揃うと、また起きます」


「じゃあ、急がず、揃えず」


「矛盾みたいだな」


「矛盾でも、できます。四人なら」


「歩き方を分けよう」


「分ける?」


「リズムを揃えない。

 ——レイ、二拍。ミレイ、三拍。

 エルナ、四拍。俺は、その間」


「音楽みたいね」


「音楽は嫌いじゃないわ」


「今は嫌いだろ」


「今は嫌いよ」



「……行きます」


「一、二——」


「三、四、五——」


「……足音、揃いません」


「揃わないなら、勝ちだ」


「勝ちって言うな。まだだ」


「……扉、少し近いです」


「近づいてる」


「近づけるの、腹立つな」


「腹立つなら、言って」


「腹立つ」


「それでいい」



「……遠い扉の前、床が黒い」


「黒い?」


「……影です。立ってる影」


「影だけ?」


「影だけじゃない。

 ……金具の擦れ音が、そこだけ濃い」


「門番だ」「……門番です」


「見えないのに分かるの、嫌だな」


「嫌でも、備えられます」


「備えたくねえ」


「備えないと、剥がされるわ」



「……見えました」


「やっとか」


「鎧が一体。衛兵より大きい。

 ……扉の前に、最初から立っていたみたいに」


「立ってたのに、見えなかった?」


「見せなかったのよ」


「……鑑定します」


「頼む」


「……危険度、高。動きは硬い。

 ですが、硬いのに“速い”です」


「硬いのに速いって、何だよ」


「嫌なやつだよ」


「……技は『再起動』

 倒しても、一定で立ち上がります」


「衛兵と同じか」


「同じじゃない。

 ……“止めないと終わらない”やつです」


「止める方法は」


「……胸。留め金が一つ、違います。そこが核です」


「核、って言っていい?」


「いいです。今は、それが一番近い言葉です」


「よし。——核を狙う。倒す、じゃない」


「倒さなくていいの?」


「倒す。でも、止めるために倒す」



「門番、動いた」


「足音、重い」


「……重いのに、近い」


「近い、ってことは、扉守ってる」


「守ってるって言うな」


「守ってる、じゃなくて、通さない」


「レイ、正面は受けない」


「受けないって、避けるしかねえだろ!」


「避ける。——受け流す」


「受け流すのは得意だ」


「得意を使って」



「——来た!」


「速っ」


「斬り下ろし!」


「受けるな!」


「受けねえ! 返し刃!」


「……火花」


「火花、って言うなよ。怖い」


「怖いなら言う。火花」


「言ったら増える気がする」


「増えない。……多分」



「ミレイ、核、見えてるか」


「……見えてます。胸の留め金。銀が一つだけ黒い」


「黒いのが核?」


「……黒いのは“吸う”金具です。

 音が、そこに寄ってます」


「音が寄る?」


「……足音も、呼吸も。

 そこへ“揃えよう”としてくる」


「だから整列が嫌なんだよ」


「嫌でも、合わせない」


「エルナ、床」


「分かってるわ。溝、凍らせる」


「三相弾——氷寄り!」


「……足音、沈んだ」


「沈んだ?」


「響きが減った。揃いにくい」


「揃いにくいなら、行ける」


「レイ、胸は短く」


「短く、って……」


「突き」


「また突きかよ」


「ここは突きが強い」


「……分かったよ!」


「門番、腕を上げた!」


「来る!」


「避けるわ。——風圧!」


「……押し返した」


「押し返したのに、門番、踏ん張った」


「踏ん張るのが門番よ」


「レイ、今」


「突き!」


「——カン!」


「当たった!」


「……核、削れました。ですが——」


「ですが?」


「……すぐ立ち直ります。再起動が早い」


「じゃあ、止める」


「止め方」


「……核を“冷やして固定”です」


「氷寄りか」


「はい。ですが、厚くすると刃が入らない」


「薄く固定して、刺す」


「……薄くが難しい」


「難しいのが、ここよ」


「エルナ」


「分かってるわ。薄くする」


「三相弾——氷寄り、浅く!」


「浅く、って言い方が器用だな」


「器用じゃない。……器用にやるの」


「……核の周りだけ白い」


「固定できた?」


「固定したわ。——でも、時間は短い」


「短いなら、今」


「レイ」


「突き!」


「——割れた!」


「割れた音、嫌だ」


「嫌でも、必要な音だ」


「門番、膝ついた」


「倒れた!」


「……倒れました。ですが——」


「立つ?」


「……はい。息三つで立ちます」


「数えるなよ」


「数える。数えれば、合わせられる」


「一」


「二」


「三——」


「立った!」


「早い!」


「——拘束」


「拘束——!」


「……止まった」


「止まったなら、もう一回」


「核、どこ」


「……今、露出してます。胸の奥」


「露出って言うな」


「言わないと、刺せません」


「レイ」


「分かってる!」


「返し刃!」


「——砕けた!」


「……再起動が、止まりました」


「止まったって、言い切れる?」


「……言い切れます。

 核が“無音”です。……動きません」


「無音、って」


「……もう、揃えようとしません」


「門番、崩れた」


「崩れる音が、静かすぎる」


「静かすぎるのが、この層の“正解”かもね」


「正解って言うな」


「言わないと落ち着かないのよ」


「……遠い扉、近い」


「本当に近い?」


「……近いです。今は、距離が素直です」


「素直が怖い」


「怖いなら触って」


「触る」


「……冷たい。硬い。取っ手が、普通です」


「普通、って言葉がありがたい」


「ありがたい、って言うと裏切られるわよ」


「もう裏切られてきた」


「……扉の縁、紙の匂いがします」


「また事務かよ」


「事務じゃない。……契約の匂い」


「言うな」


「言う。次で来る」


「開くか?」


「……開きます。押してません。勝手に」


「勝手に開くの、嫌だな」


「嫌でも、通る」



「……奥、広い」


「広いのに、音が吸われる」


「吸われる、じゃない。……飲み込まれる」


「また嫌な言葉」


「嫌でも、合ってる」


「——最後に一つ」


「何」


「ここまで来た。だから、いつも通りでいい」


「いつも通り?」


「見えたことを言う。起きそうなことも言う」


「……言葉で降りる」


「そう」


「……行こう、リオン」


「——行く」



「……次の階段、見えます」


「見えるのが怖い」


「怖いけど、行ける」


「……行きます」


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