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奏水のとある一日

いや、朝はほんとに苦手だ。

目覚ましで起きても大体悪夢から解放されただけで休んだ気にならないし、そこから正気になるまで結構時間が掛かる。朝から早く起きてご飯作ってる琥珀はすごいな。自立した大人って感じ。


というわけで私一条奏水の一日はボケながら顔を洗うところから始まる。

冷水でばしゃっとやって強制起床。そこから髪をポニテにまとめて、身軽になったところで着物に着替える。流石にもう慣れて一人でも着替えられるようになった。


ポニテにしてるのは基本自宅だけだったんだけど、こっちに来てからは別に外でやってもいいかなと思ってそのまま外出している。華仙では珍しい髪形なので注目を集めるにはちょうどいい。

あと動きやすいしね。曲書く時に髪が邪魔になって集中が途切れることがない。ヘッドホンを付けるのにも向いてる。……あれ、やっぱり私音楽馬鹿なのかな? 実生活より音楽のこと考えてる?


そこから朝ご飯は白米か玄米。琥珀は健康志向で時々玄米も混ぜる。そこに野菜と魚。肉は朝からは出ないな。夕飯ならあるけど。まあ朝としては魚くらいがちょうどいい。


そこからシンセ弾いて腕が落ちないように練習、そこから機材を神力DIYで造ったり、新曲の構想を練ってデモ書いたり。午前中はそうやってるとあっという間に過ぎる。


お昼は二人揃ってお茶漬けとかでさらっと済ませることが多い。

そんなにお腹空かないし。私たちは結構燃費の良いコンビなのかもしれない。


そこから午後は一緒だったり別行動だったりで日によってまちまちだが、今日は琥珀が部屋にこもって趣味の裁縫にいそしむというので、私は私で自室に引っ込んでまったり曲制作に励んでいる。


琥珀の裁縫は着物も自分で作れちゃうくらいすごいんだよね。今私が着ているものも既存品を琥珀がアレンジしたものだし、琥珀自身が着てるやつは一から自分で作ったんだって。すごすぎる。


着物とか作り方なんて考えたこともなかったや。

そもそも映画やアニメの中でしか見ないし。非現実的っていうか。


しかしクリエイトなら私も負けていられない。

なんたって作曲家の端くれであり、編曲家の卵でもある。琥珀に負けないように頑張るぞ!




―――





(といっても次どうしよっかな……)


白紙の画面の前で悩む。唸る。嘆く。

この世界で曲を書くのは思ったより難しい。


ただ単に曲を書くだけなら自分好みにすればいい。

聴かせる相手も自分だけ、誰に評価を求めるものでもないし、音楽なんてそれくらい軽い気持ちで作ればいいと思っているのが私のスタンス。


しかし、今回は話が違う。

琥珀と一緒に出世するための音楽が必要。その過程では世間の人気を得ることが求められるから、独りよがりでやっていてはいけない。良い音楽かつ人気の出る音楽、両方の要素が必要だ。


これは元の世界でも同じで、趣味で音楽をやるなら何を書いたってどんな曲にしたって自由だ。自分の想像を形に出来る、音に出来る、それはとても素晴らしく楽しく嬉しいこと。

でも商業で音楽をやるのなら話は別。ビジネスであればお金を稼げる音楽でないといけない。人からお金を払ってもらえる音楽を作ることが求められる。


これは皮肉でも批判でもなく、ただ単純にビジネスだから。

色んな人を動かして、たくさんのコストをかけて、ひとつの音楽を作る。それに見合う対価が得られなければ商売にはならない。赤字になるだけ。それでは企業は成り立たない。企業が成り立たないということはその社員と家族が路頭に迷うことと同義だ。


作家は自分の好きなもの、納得のいくものを作ると同時に、それがお金を稼げる音楽であることが求められる。このジレンマに苦悩する作家は決して少なくないだろう。


そしてそれは今の私も同じ。

好きな音楽を、でも琥珀と一緒に演奏して人気と名声を得られるような音楽を、作らなくてはいけない。だから悩む。好きだけではやっていけない。結果が残せないと。


(一曲目はいろは唄モチーフ、二曲目は弦楽フォーク歌謡。次はどう攻めればいいかな……)


しかも次の目標は大洲宮の中での演奏だ。

巫女候補や役人に聴かせてそれでもなお唸らせることのできる曲を用意せねば。


となると逆だ。何を書くかではなく、何が聴衆の心を打つかを考える。

巫女候補に役人、きっと女神への信仰が厚い人たちだろう。なれば詞も曲も世俗的な仕上がりでは刺さらない。もっと宗教音楽というか、神聖な感じを出さないと。


でもそれで雅楽に走ったら既存の音楽と同じだ。

じゃあ雅楽を土台にしてピアノやバイオリンを入れる? クラシックと雅楽の融合という線だ。ただそれだと音数が多くてぐちゃぐちゃしそう。琥珀の歌も映えない。


じゃあいっそのこと雅楽を捨ててポピュラー音楽の楽器で攻めるか?

でもそれじゃあ馴染みもないしスルーされちゃうか。


(はあ……思ったより悩むなあ……)


うーん、やっぱり和楽器に戻す?

でも和楽器オンリーバンド編成とかにしちゃうと先鋭的すぎ?


うーん、じゃあやっぱり三味線とか龍笛を使うか。

でもそこに刺激を……なんか「おおっ!」ってなるやつを……


…………


はっ!! 閃いた!!


和楽器はそのまま、音色を弄らずに鳴らして……そこに土台で未来感を出しちゃう!! そうっ、例えばリズム隊を鼓じゃなくてシンセベースにしてみるとか!!


…………


行けるっ、これは行けるぞ!!

よっしゃあアイディア降ってきたぁっ!! 書けるっ、久々のEDM制作タイムだぁぁ!! よーし大洲宮ダンスフロア揺らしちゃうぞウイスキーのショットいっちゃうぞぉぉ!! まあ未成年だから飲めないけどね!! あとこの国にウイスキーとかないけどね!! というか別にシンベ鳴ってるだけならEDMじゃないね! でもいっか!! だってなんかノれるし!!


よおおし高まってきた打ち込みするぞループ素材バシバシ貼っちゃうぞいえぇーーい!!

おおっ、楽しいっ、シンベガンガン鳴らしてその上で三味線遊ばせちゃうの最高! 良いっ、たまらんっ、龍笛にリフ吹いてもらって琥珀の主旋律とユニゾンでダブルクリスタルサウンドやっほー!! ダブルクリスタルサウンドって何だろうね!! まあなんでもいっか!!


はぁはぁ、打ち込み楽しすぎてやめられん……うおぉ、三味線のフレーズ考えるの楽しいぃぃ!! シンベは私が弾くんだろうけど弾くの楽だろうし二台目で楽太鼓とか鳴らしちゃうっ!? いいね最高だねえお嬢さん天才だねえ!! 将来は華仙ナンバーワン売れっ子作家になっちゃうねぇ!! こいつあおばさんもびっくりだぁ!! 夢の印税ライフまで一直線だぜぇ!!


うぉぉ、デモ出来ちゃったぁっ!? いいぞっ、流しちゃうぞっ、再生ぽちっとな!!


…………お、おおぉ!! 良いっ、重低音たまらんっ、シンベの音色良すぎぃっ!! そこに乗っかる和楽器チームが良い味出してるぅ!! 踊れるっ、飛べるっ、これはもう自室ダンスフロアで手挙げながらノリノリになっちまいますぜ親方ぁ!! 踊れっ、最高に跳ねろっ、グッドナイトベイベー!! こんな良い曲書いちゃってもう最高すぎてたまr


「奏水っ? おやつにしましょ…………へ?」


…………え? 琥珀? あ、襖開けて、ぴたって止まって、ぽかんって口開けて、こっち見て……


音楽だけ続いてて、私全然動けなくて、手挙げてうぇーいってなったまま静止して……


…………


「……えっと、失礼しました。おやつはやめにしますね」

「……ま、待ってっ!!! 琥珀っ、これは誤解でっ!!」

「奏水がどんな趣味でもわたしは気にしませんからね? どうぞご自由に……」

「違うっ!! これは違うの!! 説明するからっ、待ってお願い待ってください琥珀さんっ!!」

「…………え、あ、はい」


違うの、待ってっ、お願いだから待ってぇぇぇっ!!!

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