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玉響の音

ある少女は眼前の光景から瞳を逸らせずにいた。


美しいもの、綺麗なもの、高価なもの。

裕福な名士の家に生まれて育ってきた彼女にとって、そんなものは飽きるほど見てきたはずだった。本物と贋作を見分ける目だって養ってきたし、ごく一握りの本物に満たないような下等品などすぐにでも切り捨てるような冷たい感性も持ち合わせていた。


けれど、視界の先に佇む二人の少女からは目が離せなかった。

これまで自分が気にもかけてこなかったような、自分が競うべき相手とも認識していなかったような少女たちだった。そんなものに目を奪われているというプライドすら消え去ってしまうほど、その光景は圧倒的に美しく、心を奪われた。


この国で最も神聖な場所、この国を守る唯一神である女神に神楽を奉納するための舞台の上で、少女たちは他の誰よりも煌めき、神々しさすら纏っている。


その片方は長い黒髪を肩口まで伸ばした可憐でお淑やかな少女。

まだ幼い顔立ちに小動物的な雰囲気も相まって愛らしさを感じさせるのだが、背後から差し込む後光のような明るさを纏ってすっと背筋を伸ばして佇む姿は愛らしさ以上にその美しさを際立たせ、まるで女神がその場に降臨したかのような錯覚すら与えてくる。


もう片方は同じ黒髪をポニーテールに結っている凛々しく利発そうな少女。

もう一人と同じく小柄ながらもその全身からは自信と人を惹き付けるオーラが溢れていて、照明が落とされて暗くなった神楽堂でも薄い光を浴びてその美しい所作を保っているから、まるで女神のお付きの侍女かなにかではないかとすら思えてくる。


そして彼女たちが奉納しているのは舞踊ではなかった。

下手で大きく胸を張って立つ少女が奉納しているのは歌。その小さな喉から紡がれる水晶なような美しく澄んだ音色が神楽殿とその一帯を支配するほどのカリスマ性を見せつけている。


そして上手で不可思議な楽器を演奏するもう一人の少女も悠揚な身のこなしから聴衆を虜にする華やかな、それでいて美しい音色を奏でれば、二人の音が重なり合って天から金色の雨を降らせるがごとくこの空間を染め上げていく。


そんな光景と音楽に、少女は見惚れていた。

深く澄んだ幽玄な音色が全身に浴びせられて絶え間なく脳へと送り込まれ、目前では神とも思えるほどの眩く神々しい光を受けた少女が音色を紡ぎ、まるで神託を授けているかのよう。


信心深い人間もそうでない人間も等しくその場で立ちすくみ、思考と行動の一切を停止してしまうほどの極限の美。その光景に少女以外に誰もが唖然として言葉を失う。


そしてその視線の先で今もなおそれを奏でる二人の少女。


運命的な出会いを果たした二人が、どのようにしてこの美しく神聖なる境地へと辿り着いたのか。これから語られるのはそんなお話。

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