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Rache・Witch  作者: 晶ノ
ミラウ アーヴァント編
61/79

憎悪の果てに

「この有様じゃ、魔法犯罪人撲滅委員会にも引き渡せんな 」


「…ですよね、これからどうしましょうか…?」


「せやなぁ、俺は魔法ツバメ学校に戻るわ また会おうな 授業待ってるで」


八村先生は姿を消した 恐らく帰ったのだろう


「瑠美、福岡魔法病院に戻って 遥斗と玲於を迎えに行くぞ」


「あ、うん分かった…」


まだ少し腕がヒリヒリして 神経に痛みが来る


身体に魔法を纏う場合 肉体に負担がかかる為

それが代償となる


しかし、瑠美はそれ以上に今

気にしている事がある

それは、まだ胸の奥で

何かが鳴っている事だ 何かは分からないが 気にしている

「空港に行くぞ そこから飛行機に乗り 福岡に行って 魔法病院に行って 迎えに行こう

恐らくもう傷は治って 動けるはずだからな」


「あ、うん、そうだね…じゃあ行こうか」


2人は空港に向かい 福岡行きの便の飛行機に乗り 福岡に到着する

「……着いたな」

吾郎が短くつぶやく。

その声には疲労と、どこか張り詰めた響きが混じっていた。


「うん」

瑠美は頷きながら、自分の左腕を軽くさすった。

まだヒリつく感覚が残っている。

皮膚の奥で雷の名残が疼いているようだった。


二人は空港を出て、博多行きの快速電車に乗り込む。

夜の車内は思ったより空いていて、窓の外では街の明かりが次々に流れていった。


吾郎は窓際の席に座り、腕を組んで外を見つめたまま、静かに口を開く。

「アーヴァントの特級呪具……あれは、魔法犯罪人撲滅委員会に引き渡すことにした」


「……そう」

瑠美はわずかに視線を落とした。

機内で聞いたときと同じ言葉。けれど今は、少し違う響きに聞こえる。


車輪の音がリズムのように続く中、二人の間には静寂が流れていた。

言葉が要らないほど、互いの胸に残るものが重い。


瑠美の胸の奥では、あの時から続く“ざわめき”がまだ止まらない。

怒りでも恐怖でもない。

ただ、何かが壊れて、別の何かが生まれようとしているような感覚。


窓の外に映る自分の顔を見つめながら、瑠美は小さく息を吐いた。

その瞳の奥に、微かに雷の光が揺れていた。


博多駅に着いて 電車を降りる

博多駅を出て 博多駅周辺を歩いて

30分ぐらい歩いた所に 福岡魔法病院に着く

そして 遥斗がいる病室に入り 遥斗のいるベッドに向かうと


病室の扉を開けると、

そこにあるはずの気配が——なかった。


「……遥斗?」

瑠美がベッドに近づく。

シーツは整えられたまま、温もりもない。


「な、なんだと……あいつがいない? 退院は明日のはずだろ、今日じゃない!」

吾郎の声が震える。

冷や汗が頬を伝い、心臓が激しく打ち始めた。


「ナインも繋がらない。音通不信ってやつだ」



「……あいつは、勝手にどこかへ行くような奴じゃない。約束は、守るやつだ」

吾郎の拳が小さく震えていた。


瑠美は冷静に部屋を見回す。

「ベッドの温度も、暖かくない。出てから一日は経ってる」


「一日……じゃあ、もう福岡にはいないのかもな」


その瞬間、扉が勢いよく開いた。

「あっ、あのっ!」


息を切らした衿が、廊下から飛び込んでくる。

顔は真っ赤で、言葉が詰まりながらも必死に叫んだ。


「遥斗くん、玲於ちゃんも魔法ツバメ学校にいます! 先に帰って、サプライズしようとしてて……!」


「な、なんだと?」

吾郎の肩が一気に抜ける。


「……仕方ない。東京に帰るか」


「え、えぇ、また移動?」

瑠美が小さく眉をひそめた。


「仕方ないだろう 衿も魔法ツバメ学校に通ってるのか?」

首を傾げながら質問する吾郎に 衿は答える


「は、はい…私も通ってます」


「じゃあみんなで帰るぞ」


飛行機のエンジン音が、低く腹の底に響いていた。

夜の空を切り裂くように、機体は福岡を離れていく。


瑠美は窓際の席に座り、ぼんやりと遠くの灯を見ていた。

街の明かりが小さくなり、やがて闇に溶けて消える。


隣では吾郎が腕を組み、目を閉じている。

表情はいつも通り無口で冷静 けれど、眉間に寄る皺がそれを裏切っていた。


「……遥斗のやつ、ほんとにサプライズのつもりだったのかね」

吾郎の呟きが、いつもより弱々しい


「さぁ。でも、遥斗なら……やりそう」

瑠美は小さく答える。

声には笑みの気配があったが、目は笑っていなかった。


衿は通路側の席で、疲れたように眠っていた。

胸の上に置かれた手が微かに震えている。

彼女もまた、不安を隠しきれないでいるのだろう。


窓の外。

黒い雲の合間から、雷が一瞬だけ閃いた。

それが、瑠美の瞳に淡く反射する。


(……あの時からだ)

胸の奥で鳴っていた“何か”が、再び強く脈打つ。

痛みとも違う。怒りでも、恐怖でもない。

それはもっと原始的な、違和感だった。


誰かが、自分たちの“帰り”を待っている。


そんな感覚が一瞬、胸を締めつける。

瑠美は息を飲み、外を見つめた。


「どうした?」

吾郎が気づく。


「……ううん、なんでもない」

瑠美は小さく首を振った。


だが、胸のざわめきは止まらない。

雷光が再び閃き、雲の中を走る。

それがまるで“警告”のように見えた。


飛行機は雲を抜け、やがて東京の灯を映し出す。

だが――

その灯が、どこか“血のように赤く”見えたのは、気のせいだったのだろうか。


夜明け前。

飛行機は東京に着陸した。

空はまだ暗く、街の光だけがぼんやりと地上を照らしている。


「……行くぞ」

吾郎が短く言い、瑠美と衿は無言で頷いた。


タクシーを乗り継ぎ、魔法ツバメ学校の正門前に着いたのは午前1時過ぎ。

霧が校舎を包み、見慣れたはずの建物がどこか異様に見える。


「……妙だな」

吾郎が呟く。

本来なら、警備用の魔力灯が青く点滅しているはずだった。

だが今は、すべて消えていた。


風が吹く。

その風に混じって、焦げたような臭いが漂ってくる。


「……魔力の残留反応。最近、誰かが戦った跡だ」

瑠美が地面に触れ、低く呟く。

指先に微かな電流が走る。

確かに、ここで魔法が使われた。


「遥斗……」

衿が不安げに名を呼ぶ。

その声があまりにも静まり返った校内に吸い込まれていった。


「とりあえず、校舎の中を確認するぞ」

吾郎が先に歩き出す。


廊下に足を踏み入れた瞬間、

瑠美は鳥肌が立つのを感じた。


——音が、ない。


夜の学校なら多少の風音や機械の作動音があるはずだ。

だが、今は何も聞こえない。

まるで誰かが“音”そのものを消したかのように、完全な沈黙が支配していた。


「……おかしい」

吾郎が眉をひそめる。

「監視魔法も反応がない。通信も……死んでる」


「まさか……襲撃?」

衿が震える声で言う。


「いや…そんなまさか…でもこの時間は確かに…先生はほとんどいないからな…家に帰ったり 寮にいる先生はいるが…数人だ…」



廊下の奥から、鋭い悲鳴が響いた。

反射的に3人は駆け出す。靴音が静寂を切り裂く。


「玲於っ!?」

吾郎が叫んだ瞬間、視界に飛び込んできたのは

誰かに首を絞められ、もがく玲於の姿だった。


「やめろっ!!」

吾郎が叫ぶと、影がゆっくりとこちらを向く。


薄暗い廊下。月明かりが窓から差し込み、相手の輪郭を照らす。

見覚えのある背丈。見覚えのある声。

だが、まさか そんなはずはない。


「……っ、お前は……!」

瑠美の声が震える。


影が一歩前に出るたび、床に血のような赤い魔力が広がっていく。

その顔が、闇の中からゆっくりと浮かび上がった。


「仕方ない……貴様らも、ここで始末してしまおうか」


玲於の体が、影の腕の中で力を失っていく。

瑠美が叫び、吾郎が駆け寄ろうとした瞬間――

男が顔を上げた。


月明かりが、ゆっくりとその顔を照らす。


「……あ、あんた……まさか……」

瑠美の声が震えた。


笑みを浮かべていたのは――

つい数時間前まで共にいたはずの、八村先生だった。


「せ、先生……どうして……?」

玲於がかすれた声で問う。


八村は無言で手を離し、玲於の体を床に落とす。

その音が、廊下に乾いた衝撃を響かせた。


「どうして、か……」

八村の声は低く、どこか冷めていた。


「お前らはまだ知らんのやろ……この腐った魔法界の本当の姿を」

「……ヴィラは、その“毒”を洗い流すために存在するんや」


「……ヴィラ……! お前、ヴィラの一員だったのか……!」

吾郎の目が見開かれ、歯ぎしりする音が響く。


「そや。ワイは最初から“そっち側”や。

せやけどな、教師として過ごすうちに――ほんの少しだけ、迷ったんや」


「……けどな」

八村は血に染まった手をゆっくりと見つめ、歪んだ笑みを浮かべる。


「迷いなんて、どうでもええ。世界を壊して作り直す――それが“ヴィラ”の理想や」


瑠美の胸の奥が軋む。

あの名を聞いただけで、全身を走る電流のような怒り。


「……お前らヴィラのせいで……私の家族は……!」


空気が震え、雷鳴のような音が小さく鳴った。


「お前ら、ほんま騙されすぎやで」

八村は鼻で笑いながら、ゆっくりと歩み寄る。


「いくつか怪しい点、あったやろ?

部屋に監禁されたこと。

“ヴィラ”って名前を聞いても、ワイが大して驚いてへんかったこと。

気づいてもよかったんちゃうか?」


口角がゆっくりと吊り上がる。


「……まあ、あいつらも“ヴィラ”の一員や。

でももうどうでもええわ。

お前らみたいなガキが知ったところで、何も変わらんからな」


八村の声が低く響き、空気がどす黒く濁る。

廊下に漂う魔力の圧が、重くのしかかるように三人を包み込む。


「貴様…! 私たちがどんな思いで……戦ってたか、分かってるのかっ!」

瑠美の声が震え、雷のように廊下に響いた。

怒りで全身が熱を帯び、空気がピリピリと揺らめく。


八村はわずかに首を傾け、心底どうでもよさそうにため息をつく。


「知らんがな」

冷たい声が返る。


「知ったところで何になる?

お前らの感情なんざ、世界を変えるには“雑音”でしかないわ」


その言葉に、瑠美の目から感情が爆発する。

雷が一瞬、彼女の掌を走り、光が八村の顔を照らした。


吾郎が問いかける——

「八村。お前は、俺の両親を殺した連中のことまで知っていたのか?」


廊下の灯が揺れる。八村は静かに目を細め、まるで昔話でもするように口を開く。

「……ああ、そうや。お前の家族。その件は、直接手を下したのは俺や。懐かしいな、よく覚えとる」


その言葉は笑いと冷たさを含み、決して軽くはない。

吾郎の肩が微かに震える。八村は続ける。


「お前らに近づいた理由は 簡単や。

動きを見て、始末するタイミングを計っとった。

だがな、一度“生かして”観察した方が面白いと思うたんや。……だが、

今それが露見した。ここで終わらせるしか選択肢は残っとらん」


瞬間、八村の姿が――消えた。


「……!?」

吾郎の目が見開かれる。

次の瞬間、背後から風が裂けるような音。


「遅いわ!」

八村の声が耳元で囁かれ、吾郎は反射的に岩の盾を展開する。

背中に炸裂音。火花のように魔力が弾け飛んだ。


「ワープ……!?」


瑠美が叫び、手から雷が走る。

しかし、放たれた稲妻が八村に届く前に、空気が歪む。

八村はまた消え、別の場所に現れる。


「反応はええな。けど、残像に構う暇あるか?」


声が次々と方向を変え、左右・

上空・背後――どこからでも聞こえる。

瑠美は息を呑み、雷を纏った瞳で辺りを睨みつけた。


「……卑怯者……! 正面から戦え!」


「正面? 戦いに正面も裏もあるかい。生き残ったもんが正義や」


八村の言葉と同時に、再び姿が消える。

床に魔法陣が刻まれ、八村の影が広がる。

その中から現れた八村の瞳には、冷たい殺意が光っていた。


「終いや、雷のガキ」


八村の手のひらに黒い渦が巻く。

その魔力は空気を歪ませ、瑠美の視界が揺らいだ。

体はもう動かない。

出血と魔力の消耗で、脚の感覚が薄れていく。


(……ここまで、か)


八村が笑う。

「ま、悪く思うな。恨むなら、運命でも恨め」


その拳が振り下ろされようとした、その瞬間――


轟音。

地面を突き破るように草の蔦が伸び、八村の腕を弾き飛ばした。


「ッ!?」


風が走り抜け、土煙の向こうから声が響く。


「教師が生徒殺すとか、マジで頭イかれてんじゃねぇの?」


緑の魔力が爆ぜ、そこに立つのは――遥斗。

草魔法の余波が空気を震わせ、瑠美の頬を撫でた。


「……遥斗……!」


「ごめんごめん 勝手に帰ったのも悪かったし 遅れたのも悪かったな。まったく、勝手に死ぬなよ」

遥斗が口角を上げる。その目は、怒りで真っ直ぐに燃えていた。


八村が鼻で笑う。

「二人目か。草魔法で俺に勝てると思っとるんか?」


次の瞬間、八村の姿が消えた――ワープ。

遥斗の背後に現れ、拳が振り下ろされる。


だが、その拳は“硬い壁”に阻まれた。


「……甘い」


低く、冷たい声。

背後から岩の破片が浮き上がり、八村の拳を砕くように弾く。


土煙の中から歩み出たのは、吾郎だった。

岩の魔力が身体を包み、瞳は鋭く光っている。


「瑠美を傷つけた報い、覚悟しろ」


「おいおい、三人かよ。ガキ共が群れても無駄や」

八村が笑う。だが、額には一筋の汗。


「群れてるんじゃない」

遥斗が前に出て、拳を握る。

「これが、俺たちの“戦場”だ」


「……全員、殺す」

瑠美の掌に雷光が走る。


雷、草、岩――三人の魔力がぶつかり合い、空気が震える。

八村がワープし、三人の視界から消える。

だが、もう誰も怯えない。


「行くぞ…!」

「おう」

「……必ず倒す」


雷鳴と地鳴りが重なり、再び戦場が爆ぜた。


八村の姿が次々と消え、現れては攻撃を仕掛ける。

雷光と蔦、岩の破片が入り乱れ、夜の空間が歪んでいた。


「くっ……!どこにワープした!?」

「見えねぇ、魔力反応が途切れた!」


遥斗と吾郎が必死に周囲を警戒する。

その間にも、瑠美の身体からは魔力が抜け落ちていく。

一瞬の隙を突かれれば、再び致命傷は避けられない。


「……マズい、このままじゃ……」


瑠美の膝が崩れた。

雷の輝きが弱まり、手のひらの光も消えかける。


その時――


「――もう、倒れないで」


静かな歌声が、夜の闇を包み込んだ。

まるで風が囁くような柔らかな声。

振り向くと、そこには 白髪の髪をを揺らす**えり**の姿があった。


彼女の手には光るペンダント。

そこから青い粒子が舞い上がり、空気を震わせていく。


「歌魔法・《リヴィエール》」


その言葉と共に、歌が空間全体を満たした。

淡い音の波が広がり、戦場の喧騒を溶かしていく。


♪「君の手に光を、君の胸に命を……」


瑠美の体が、柔らかな光に包まれた。

傷口がじわりと閉じ、失われた魔力が戻ってくる。

同時に、吾郎と遥斗の体にも力が流れ込んだ。


「……これは、魔力が……戻ってる……!」

「衿、お前……!」


「もう、誰も失いたくないの」

衿の目には涙が滲んでいた。

「だから、戦って。私の歌で、君たちは何度でも立ち上がれる」


瑠美がゆっくりと立ち上がる。

雷光が再び手の中で弾けた。


「……ありがとう、衿」

声は低く、しかし確かな決意に満ちていた。


遥斗が笑い、吾郎が頷く。


「よし……行くぞ!」

「応ッ!」


光と音が混じり合い、再び戦場が輝く。

八村がワープして現れるたび、三人の連携が光を放つ。


そして――

衿の歌が夜空に響き渡るたび、倒れかけた心が立ち上がっていく。




⚡️続き:『狙われた歌声』


衿の歌が響くたびに、空気は澄み渡っていく。

瑠美たちの魔力が安定し、動きが鋭くなっていく。


「ふん……癒しの歌か。面倒な術やなぁ」

八村の声が、虚空の中で響いた。


次の瞬間、空間がねじ曲がる。

八村の姿が消え――現れたのは、衿のすぐ背後だった。


「なっ――!」


八村の右手が、衿の首を狙って伸びる。

だが、その刹那。

吾郎が岩壁を出現させ、二人の間に割り込んだ。


「させるかッ!」

岩が砕け、衝撃波が吹き荒れる。


衿はよろめきながら後退し、瑠美の方へ走る。

歌が止まりかけ、光が弱まっていく。


「……やばい、歌が途切れたら……!」

遥斗の額から汗が落ちた。


「お前ら、ほんまアホやなぁ」

八村は笑う。その顔にはもはや“教師”の影はなかった。

「支援役を狙うのは、戦の基本中の基本やろ?」


再びワープ。

今度は真上――!


「上かッ!」

瑠美が雷光を放つが、八村はさらに空間を歪めて回避。


空間の断層から、黒い刃のような魔力が伸び、

衿の胸元へと迫る――


「やめろォッ!!」


吾郎の咆哮。

岩の盾が炸裂し、刃と衝突。

その隙に、瑠美が雷を足に纏い 床を蹴り 衿を抱え、飛び退く。


「衿、もう無理はしないで!」

「でも……歌わないと……!」

「いい、今は守れ!」


雷が弾け、瓦礫が舞う中、吾郎と遥斗が八村に立ちはだかる。


「瑠美を……そして衿を守る。お前には絶対、触れさせない」

吾郎の瞳が静かに燃える。


「チッ……ほな、次はそっちや」

八村の口角が歪んだ。

彼の体が再び光に包まれ、無数の残像が現れる。


「ワープ連撃フェイズブレード――!」


空間ごと切り裂く殺気が迫る。

三人は歯を食いしばりながら、反撃の構えを取った。


八村の姿が残像と化し、空間を縦横無尽に駆ける。

そのたびに、鋭い風切り音が耳を裂いた。


「来るぞ――!」

吾郎が叫ぶ。


目に見えぬ速度。

しかし、吾郎はすでに八村の“癖”を読んでいた。


「ワープ直後は、魔力の歪みが残る……そこだ!」


地面が震え、岩壁が一斉に隆起。

まるで檻のように空間を囲い込む。

八村が現れた瞬間、その岩牢に閉じ込められた。


「なっ、これは――!」

八村が舌打ちをする。

すぐさまワープしようとするが、岩肌に黒い符が刻まれている。


「《封陣岩ロックシール》――お前のワープは、ここでは通用しない」

吾郎の声は冷たく、しかし誇らしげだった。


「よくやった、吾郎!」

遥斗が草の蔓を伸ばし、八村の体を絡め取る。

「《緑縛りょくばく》――動くなよ!」


八村の腕と脚が縛られ、動きが封じられる。

魔力が漏れ、空間の歪みが収束していく。


「チィ……ガキどもが!」

八村が力任せに暴れるが、吾郎の岩が補強され、遥斗の蔓がさらに絡みつく。


「今だ、瑠美!」


瑠美が立ち上がる。

雷光が再び掌に宿り、空気が焼けるように熱を帯びた。


「……あんたを、ここで止める」


雷鳴が轟いた瞬間、瑠美の雷撃が放たれる。

八村を包む結界が一瞬で崩壊。

爆発的な閃光が廊下を照らした。


「ぐああああッ……!」


八村の体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。

煙の中で呻く声が聞こえたが、やがて沈黙した。


「や、やったのか……?」

遥斗が息を切らしながら呟く。


吾郎は警戒を解かず、じっと煙の中を睨む。

「……まだだ。あいつの魔力は完全には消えていない」


その時、背後で再び衿の歌が響く。

穏やかで、温かい旋律。


♪「傷ついた翼よ、もう一度、空を――」


歌声に導かれるように、三人の体が淡い光に包まれる。

その光が、心の奥にまで届くような錯覚。


瑠美は拳を握りしめ、震える声で呟く。

「……もう、絶対に負けない。これ以上、誰も失わない」


静寂の中、雷が再び鳴り始める。


静寂。

焦げた壁の隙間から、煙がゆっくりと上がっていた。


「……終わったのか?」

遥斗が呟く。

瑠美は汗を拭い、警戒を解かずに視線を前に向けていた。


「……違う、まだ――」


その言葉を遮るように、バチッ――と音が響いた。

まるで何かが“生き返る”ように、空気が一変する。


煙の中から、低い笑い声が漏れ出す。


「……ははっ、やるやんけぇ……ホンマに、痛かったわ」


八村の体が、ゆっくりと立ち上がった。

服は焼け焦げ、片腕は炭のように黒くなっている。

だが、その瞳だけは――異様な光を宿していた。


「……まだ立てるのか……!?」

吾郎が息を呑む。


「お前ら……ええわ。久々に“本気”出したろか」

八村の声が低く響く。


その瞬間――空間が震えた。

床も壁も、まるで鏡のように歪み、八村の周囲に無数の自分の残像が現れる。


「ワープの応用や。“並列位相パラフェイズ”っちゅうやつや。

同時に存在できる俺が、何人もおる――もう、捕まえられへんで」


残像の一つが笑い、もう一つが逆方向で同じ声を発する。

どれが本体か、もう判別できない。


「嘘……空間が二重に重なってる……!」

瑠美が歯を食いしばる。


「遥斗、吾郎――下がれ!」


しかし、すでに遅かった。

次の瞬間、八村の拳が吾郎の腹部を貫き、もう一人の八村が瑠美の首を狙って現れる。


「どないした?さっきの勢いはどうしたんや?」

嘲るような声が、四方八方から響いた。


「くそっ、どれが本物か分からねぇ!」

遥斗が蔓を放つが、全てすり抜けて空気を切るだけ。


「……これは、マズい」

吾郎が血を吐きながらも立ち上がる。


「せやろ?せやから言うたんや。俺は“教師”やけど本職は“処刑人”なんやってな」


八村の笑みが歪み、背後の空間がさらに黒く染まっていく。


「ほな次は、全員まとめて消したるわ」


空間が割れる音。

その裂け目の中から、紫色の光があふれ出した。


瑠美は咄嗟に叫んだ。

「みんな、伏せろッ!!」


轟音。

爆発。

そして、光。


轟音が響き渡った。

爆発の中心で、床が割れ、壁が砕け、廊下の天井が崩れ落ちていく。

灰と煙の中で、三人の姿がかき消された。


「……ぐっ……! 動けねぇ……!」

吾郎が片膝をつき、血を吐く。

瑠美も腕を庇いながら、歯を食いしばって立っていた。

雷の光が弱まり、もう消えそうになっている。


八村の笑い声が響いた。

「終わりや……お前ら、よう頑張ったで?せやけど、結局“正義”は勝たんのや」


光が、闇に飲み込まれようとしたその瞬間――


――歌声が、聞こえた。


「……君の命は……ここにある……」


柔らかく、しかし力強い音。

まるで風が祈りを運ぶように、静かに、確かに広がっていく。


「……衿……?」

瑠美の震える声。


瓦礫の向こうで、光が揺れていた。

崩れた壁の上に立つ衿。

傷だらけの姿で、それでも彼女は胸に手を当て、歌い続けていた。


♪「痛みの果てに、もう一度光を」


歌声に呼応するように、床から無数の光の粒が浮かび上がる。

それらが瑠美たちの周囲に集まり、やがてひとつの光の結界を形成した。


「な、なんやこれ……!」

八村の眉が歪む。

ワープしようとした瞬間、空間が反発し、弾き飛ばされる。


「歌魔法・《聖律結界セイクリッド・アリア》――

 “祈りの旋律”が、貴方たちを守る」


衿の声が震えながらも、強く響く。

結界の内側で、瑠美の傷がゆっくりと癒えていく。

吾郎の砕けた腕にも血が戻り、遥斗の瞳に再び光が宿った。


「これは……すげぇ……」

「衿……お前……」

「もう、守らないで。今度は、私が守る番だから」


衿の目に宿る涙は、もはや悲しみではなかった。

それは決意――“仲間を救う力”の象徴だった。


八村が叫ぶ。

「ふざけんなッ!歌で俺を止められると思うなッ!」


彼が再び空間を裂くが、結界はそれを拒むように震え、

逆に八村の足元から光が爆ぜた。


「なっ……!?」


瑠美が雷を纏い直す。

「今度は、こっちの番だ」


吾郎が拳を握りしめ、遥斗が蔓を伸ばす。

結界の光が彼らの魔力を増幅し、まるで全員が“ひとつの心”で戦っているようだった。


「行くぞ これで終わらせる!」


雷と岩と草が交錯し、八村へと向かっていく。

その中心で、衿の歌が止まらずに響き続けた。


♪「君の願いが、未来を創る……」


瑠美の雷が直撃し、爆発音と共に煙が立ち込めた。

八村の身体は床に叩きつけられ、動かない。


「……終わった、か?」

吾郎が息を荒げながら言う。


遥斗は慎重に八村へと歩み寄る。

「さすがに、これだけ食らったら——」


その瞬間。


──バチッ。


空間がひずむ音。

次の瞬間、八村の身体が一瞬で消えた。


「……っ!?消えた!?」

遥斗が叫ぶより早く、背後に低い声が響く。


「油断したなぁ……。ワープ魔法、なめたらアカンで?」


気づけば、八村は瑠美の背後に立っていた。

服は焦げ、口元から血を流しながらも、不敵な笑みを浮かべている。


「雷の直撃、まあ痛かったわ。けどな、死なんで。お前ら、俺を誰やと思っとんねん」


その言葉と共に、八村の掌が淡く歪む。

空気がねじれ、空間が黒く割れた。


「“次元断層ディメンション・ブレイク”」


亀裂から吹き出す衝撃波が、瑠美たちを一気に吹き飛ばした。


「ぐっ……!!」

瑠美は壁に叩きつけられ、喉を押さえる。


吾郎が咄嗟に前に出て、岩の壁を展開しようとするが——

八村のワープはその前に発動し、吾郎の真正面へと転移。


「間合い取るの、遅いわ」

八村の膝蹴りが吾郎の腹を直撃する。


「がっ……!!」


瑠美が咄嗟に雷を放つが、八村は再び空間を歪ませ、その場から消える。


「無駄や無駄。ワープの座標は無限や。どこからでも殺れる」


八村の声が四方から響く。

空間の中を縦横無尽に跳躍しながら、まるで“空間そのもの”が敵になったかのようだ。


瑠美が必死に立ち上がる。

その耳に——柔らかな歌声が届いた。


「……衿……?」


遠くの廊下から、衿が両手を胸の前で合わせ、祈るように歌っている。

声は震えながらも澄んでいて、空気の粒が淡い光を帯びて揺らめいた。


その旋律が瑠美たちを包み込む。

雷の火花が蘇り、吾郎の岩壁が再び形成される。


「……これは、魔力が……回復していく……!」

瑠美の瞳に、再び光が宿った。


八村が不敵に笑う。

「ははっ……歌で回復? 面白いやん。なら、それごと潰したるわ!」


しかしその時——

雷と岩の光が交差し、瑠美と吾郎は同時に構えた。


「ここからが本当の地獄だよ、八村……!」

「覚悟してもらおうか、裏切り者」


空間が再び軋み、三人の魔力がぶつかり合う——。


空間が歪み、八村の身体が瞬間移動するたびに、光が閃く。

瑠美の雷がその軌跡を追い、吾郎の岩壁が逃走ルートを塞ぐ。


「はっ、三人がかりか? ずいぶんと必死やなぁ!」

八村が薄く笑い、床を蹴って瞬時に背後へ回る。


「後ろだ、瑠美っ!」

吾郎が叫ぶが、すでに雷が迸っていた。

「分かってる!」


雷光が空気を裂き、八村の腕をかすめて焼く。

焦げた匂い。

八村が舌打ちしながら距離を取る。


「ちっ……やるやんけ、子どもらが。」


「子ども扱い、やめてくれる?」

瑠美の声が冷たく響く。

電撃が髪をなびかせ、彼女の瞳に白い光が宿る。


その瞬間、吾郎が地面に拳を叩きつけた。

「逃げ場を、封じる!」


地面が波のように隆起し、周囲を円状に囲む。

岩壁が八村を中心にそびえ立ち、逃走空間を狭めていく。


「くそっ……転移の座標がズレとる!」

八村が苛立ちの声を漏らす。


だがその時、背後から風が吹いた。

「……雷鳴を導く風。」


遥斗が両手を広げ、草と風の魔法を同時に展開する。

「《翠嵐連鎖すいらんれんさ》!」


風が旋回し、八村の動きを縛るように渦を巻いた。

雷と風が共鳴し、空気が唸る。


「行け、瑠美!」

吾郎が叫ぶ。


「任せて!」


雷光が爆ぜ、風と土を突き抜けて一直線に八村を貫く。

八村は腕で防御を試みたが、光は容赦なく彼の体を焼いた。


「ぐっ……あああああっ!!」


電撃に包まれ、八村の身体が後方へ吹き飛ぶ。

壁に激突し、煙が立ち上がる。


「終わりよ、八村——!」

瑠美が息を荒げながら叫ぶ。


「雷、岩、風——三重の連携リンク……これで落ちろ!」


吾郎の拳が地面を砕き、遥斗の風がそれを押し上げ、瑠美の雷がその衝撃を導く。

三人の力が一点に集中し、八村の周囲に閃光が炸裂した。


爆音。

視界を焼く光。


そして——

煙の中で、八村が膝をついていた。

「くっ……まさか、ここまでとはな……」


それでも八村は、笑っていた。

「けどなぁ……まだ終わりちゃうで——!」


彼の足元の空間が、黒く歪む。

転移の魔法陣——だが、瑠美たちの視線はすでにそこを捉えていた。


次の瞬間、雷・風・岩が一斉に走る——。


八村は策略を立てて それを実行に移す



八村の周囲に走る空間の歪み——それは転移魔法の予兆だった。

だが、今度は三人とも、その動きを完全に見切っていた。


「——逃がさない!」


瑠美の声が雷鳴に重なり、稲妻が奔る。

雷が八村の周囲を包み、電磁の檻を形成する。

転移座標の構築を妨げる高密度の雷気——もはや八村は空間跳躍を封じられていた。


「やるやんけ……でも、そんなもんで俺を止められるかぁッ!」


八村が吠え、拳に魔力を込める。

空気が裂けるような衝撃波が放たれるが、そこへ——


「甘ぇんだよ!」

吾郎が前に出た。

両腕を交差し、地面から瞬時に巨大な岩の壁を隆起させる。

衝撃波が直撃し、岩壁に亀裂が走る。

しかし、吾郎は踏ん張って退かない。


「瑠美! 行けッ!」


「了解!」


雷鳴が再び轟き、瑠美が疾風のように飛び出す。

彼女の雷撃が岩壁の亀裂を伝い、八村の目前に一閃。


「——雷閃・穿らいせん・うがち!」


八村の胸元に、稲妻が突き刺さった。

だが八村は歯を食いしばり、そのまま掌を地面に叩きつける。


「……“空間爆裂スペース・バースト”ッ!!」


爆風が炸裂し、瑠美の体が吹き飛ぶ。

しかしその後方で、風が渦を巻いた。


「もう一人、忘れてない?」

遥斗の声が静かに響く。


彼の足元から無数の草の蔦が伸び、風を纏いながら八村の四肢に絡みついた。

「《翠嵐封縛すいらんふうばく》——!」


風と蔦が融合し、八村の身体を完全に拘束する。

抵抗しても転移もできない。


「くっ……こんな、ガキどもに……!」


「ガキじゃない。仲間だ」

吾郎の声が響く。


その瞬間、瑠美の雷が再び光を放った。

雷が吾郎の岩壁を伝い、遥斗の風がそれを押し上げる。

三つの魔力が一点に集まり、凄まじい輝きを放つ。


「——雷・岩・風、三重連撃トリニティ・ブレイクッ!!」


閃光が世界を白く染めた。

八村の叫びが爆音にかき消され、空間が揺らぐ。


爆心地に残ったのは、黒く焦げた地面と、崩れ落ちる八村の姿だけだった。

彼の瞳から光が消え、膝から崩れ落ちる。


「……バカな、俺が……この程度の……ガキどもに……」


「この程度? 違う。私たちは——“生きるため”に戦ってる」

瑠美が静かに言い放つ。

その言葉に、吾郎と遥斗も頷いた。


八村の身体が完全に動かなくなり、静寂が訪れる。


稲光の残滓が、まだ夜の空気の中でゆらめいていた。

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