表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rache・Witch  作者: 晶ノ
ミラウ アーヴァント編
58/79

泣くことを、忘れた少女

辺り一面に 焦げた匂いが充満する 焦げた匂いが肺を焼く。

煙が、世界の輪郭を飲み込んでいく。


アーヴァントが口が避けるほど大きく口を開けて笑い出す ミラウはそんなアーヴァントを見て 少し引きつった表情を見せている 瑠美は全身がヒリヒリして 溶けそうな程燃える痛みが しんどい



ローブはボロボロになり 溶けてしまってる場所もちらほら見受けられる 全身が痛くてしょうがないが 何とか立ち上がる


「そういえば お前の両親、どっちも死んだんだったな」

アーヴァントが笑う。

それは冗談のような声で、心底楽しそうだった。


「ヴィラの仕事だったんだよ。

 あの日、俺もいた。」


瑠美の肩がわずかに揺れる。


「家はよく燃えたな。木造ってのは燃えやすい。

 煙の中で、お前の親父が咳き込みながら、必死で娘の名前呼んでた。

 “瑠美を助けてくれ”ってな。」


彼は少し目を細める。

まるで、懐かしい思い出でも語るように。


「でも面白かったのはその後だ。

 母親がな、足を焼かれながらも玄関まで這ってきて、

 “まだ……息をしてる……”って、笑ったんだ。

 笑ったまま、煙の中に沈んでいった。

 あれ、いい顔してたぜ。」


空気が静かに凍りつく。

アーヴァントの唇が歪む。


「お前さ、あの時泣いてたんだろ?

 小さな声で、“行かないで”って。

 俺、ちゃんと聞こえてた。

 可愛かったよ。あの泣き声。」


彼は片手を広げ、指を鳴らす。

焦げた匂いが再び漂う。


「それでも生き残った。

 すげぇよな。生き残って 今さら復讐か?」

彼は喉の奥で笑い、首を傾げる。


「でもさ、もしまたあの日に戻れるなら、

 今度はお前も一緒に焼いてやる。」


その言葉に 瑠美の胸の奥が冷たく氷り、蹴られているように痛む


赤が視界を飲み込む。呼吸のたび、肺が燃える。


指先が小刻みに震える


瑠美は俯いて しゃがんでしまう 頭を両手で抑えて 髪の毛をグシャグシャする


夜だった。

雨は降っていなかったのに、空には稲妻が走っていた。

雷が鳴るたびに、家の中の影が震える。


「瑠美、静かにしてなさい」

母の声がした。震えていた。

父は玄関の前で、何かを構えていた。

その背中が、異様に大きく見えた。


外から、笑い声が聞こえた。

「誰か、いるの……?」

瑠美が呟いた瞬間、窓ガラスが砕け散った。

火の粉が舞い込む。

焦げた木の匂いが、胸の奥を焼いた。


「ヴィラの者だ!」

父が叫んだ。

その声と同時に、轟音が走る。

壁が崩れ、炎が唸りを上げた。


母が瑠美の腕を掴んで走る。

「いい? 絶対に後ろを見ちゃだめ」

けれど、瑠美は振り返ってしまった。

父の身体が、炎の中で傾いでいた。

その瞳が、瑠美を見ていた。

何かを言おうとした唇は、音にならなかった。


世界が崩れる音がした。

「逃げて……!」

母が叫ぶ。

彼女の足は、すでに焼けていた。

焦げた匂いと血の匂いが混ざる。


「いやだ……いやだよ……!」

瑠美が泣き叫ぶと、母は微笑んだ。

痛みに歪んだ顔で、それでも笑っていた。


「瑠美だけは、生きなさい」


その瞬間、屋根が落ち、光が全てを包んだ。

雷だった。


稲妻が家を貫き、炎が弾け飛ぶ。

風と灰の中で、母の姿が消える。

何も聞こえない。

世界が真っ白に染まる。


瑠美はひとりで立っていた。

足元には、焼け焦げた布切れ。

母のローブだった。


声が出なかった。

泣き声も、悲鳴も、どこか遠くに置いてきたみたいに。


雷の光が遠くで鳴っている。

それが、瑠美の中に残った“唯一の音”になった。


そして

感情は、そこで止まった。

もう泣けなかった。

もう笑えなかった。


残ったのは、ただひとつ。

「ヴィラを殺す」という約束。


両親の苦しむ叫び声 私だけを逃がして 自分達が犠牲になったあの日 焦げた匂い 血の匂いが 鼻の奥で感じる


耳元と頭の中で 苦しんでいる時の声が 叫びが 騒がしい


喉の奥で何かが出そうな気がする 凄い勢いできたせいで 嗚咽する 何かが出てきた それが何かはボヤけていて見えない あれ 何も見えない 視界が赤い 背中に、誰かの手が触れた。


灰の中から伸びた手が、背中を撫でた。

そのぬくもりが、現実に引き戻した。


「瑠美、もういい」

その声は低く、震えていた。

瑠美は答えなかった。

代わりに、視線だけを落とす。


彼女の指先には、もう光はなかった。

けれど皮膚の下では、まだ小さく雷が鳴っていた。名のない感情がそこにあった。


アーヴァントに自分の凍りついた目で 視線を向ける

風が吹いて、焦げた匂いが消える。

その匂いの奥に、血のような甘さが混じっていた。


瑠美は胸の奥を押さえた。


涙は出なかった。焼けた瞳の奥で、ただ雷が鳴っていた。


そして息を吐く。

その息が白く滲むほど、冷たい空気の中で。


あの日の匂いは、まだ消えない。

そして、瑠美の中の雷もまだ止まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ