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Rache・Witch  作者: 晶ノ
ミラウ アーヴァント編
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八村刃

吾郎が動こうとすると 自分の両手両足に巻きつく冷たい感触が全身に伝わる。

 ——鎖、だ。


 動こうとした瞬間、鉄の音が響いた。

 両手首も足首も、金属の鎖にしっかりと固定されている。

 力を込めてもびくともしない。

 さらに嫌なことに、体の奥から湧き上がるはずの魔力の流れが……ない。


(魔力が……枯れてる……?)


 胸の奥が冷たくなった。

 魔法が使えないというのは、ただの不便ではない。

 それは、戦えないという意味だ。

 自分がただの人間になったも同然だった。


 視線を横に向けると、隣のベッドでも瑠美が同じように拘束されていた。

 細い腕に食い込む鎖が痛々しい。


「瑠美まで……。一体、なんでここまでするんだ?」


 かすれた声でつぶやくと、部屋の隅から気だるげな声が返ってきた。


仕方ないやろ。ここまでせんかったら、オマエら勝手に外に出てたやろ?

 傷が癒えるまで大人しくしとき。」


 その声はどこか軽いのに、底に鋼のような冷たさがあった。

 椅子に座っていたのは、先程自分たちを救った男——スーツ姿の教師。

 ただ、今はその柔らかさが微塵もない。


 視線ひとつで空気が重くなり、呼吸すら窮屈に感じた。


 吾郎は反論しようと口を開いたが、腹の奥から鈍い痛みが走った。

 あの斬撃の傷だ。まだ開きかけている。

 抵抗する気力など、とうに残っていなかった。


視界の端で瑠美がゆっくりと目を開けた。


「……ここは……?」


「瑠美、しばらくじっとしてろ。今動くな、傷が開く。」


「い、今すぐ戻らないと……!アーヴァントが……!」


 瑠美は鎖を引きちぎろうと必死にもがく。

 だが、金属が軋む音が虚しく響くだけだった。

 その瞬間、空気が変わった。

 男が無音で立ち上がり、瑠美の前に立つ。


 そして——その顎を軽く掴んだ。


「やめとき、嬢ちゃん。今、動いたら……俺が殺すかもしれへんで。」声は低く、淡々としていた。

 けれど、その瞳には一切の冗談がなかった。

 まるで、ほんの少しの反抗でも許せば、次の瞬間に命を奪うという確信を帯びている。


 空気が凍った。

 吾郎の喉が勝手に鳴る。

 動けない。声すら出せない。

 目の前の男が「敵ではない」とわかっていても——本能が「恐怖」と判断していた。


「とりあえず、自己紹介するわ 俺の名前は八平刃 八平先生とでも呼んでもろて構わんで」


「あと、敬語使い敬語 一応俺も担任なんや 少しぐらい敬意込めてくれ」


「そ、それは……どうもすみません。」

 吾郎は無意識に敬語で返していた。

 恐怖と緊張が、理性を圧していたのだ。


「俺たちは……いつまで休めばいいんですか?」


 八平は少し考え込むように視線を天井にやった。


「そうやなぁ……ざっと一週間や。

 一週間ぐらい待てるやろ?——嬢ちゃんは怪しいけどな。」


 その視線が瑠美に向く。

 瑠美はまた鎖を引こうとしていた。

 八平は額を押さえ、深くため息をついた。


「はぁ……ほんまアホなことしてんなぁ。やめとき。

 今動いたら、さすがに死ぬで?」


 途端に瑠美の全身が激痛に襲われる。

 声も出せずに、ベッドに沈み込んだ。

 額に冷たい汗が浮かぶ。


「ま、そんな訳で君たちはちゃんと休憩取りなや。

 ちなみにここは、お前らが泊まるはずやったホテルやで。

 予約確認したら、ちゃんと一致しとったわ。」


「……ホテル、ですか?」


「そうや。安心せぇ。ちゃんと鍵は掛けといた。」


 吾郎は言葉を失う。

 助けてくれたはずの男に、今はまるで“監禁”されている。


 八平は立ち上がり、ドアノブに手をかけた。


「ほな、一週間後にまた話そうか。

 それまで……勝手なことは、すんなよ。」


 扉が閉まる。

 静寂が戻る。

 外の世界から切り離されたような、異様な静けさ。


 鎖の冷たさが、やけに現実的だった。


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