終わり
初めて投稿します、お手柔らかに
この世界では、ほとんどの人間が魔法を使える。
それは希望であると同時に、暴力だった。
正義のために魔法を使う者もいれば、
欲望や支配のために、その力を平然と濫用する者もいる。
善と悪の境界は、すでに曖昧だった。
誰もが魔法を持ち、誰もがそれに呑まれていた。
1992年、日本にひとりの少年が生まれた。
風間風太。
世界が、まだ彼の存在を恐れていなかった頃の話だ。
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風太は、生まれながらにして異常だった。
赤ん坊の頃から、周囲の空気が微かに震えていた。
両親は、ただ笑って「すごい子だ」と喜んだが、
魔力量はすでに大人を凌駕していた。
3歳で初めて魔法を発動。
その時点で、政府機関の魔法観測衛星が彼の存在を“例外”として記録していた。
そして1999年、7歳の誕生日を迎える直前。
風太は念願だった魔法小学校への入学を控えていた。
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「…ついに魔法学校に行けるんだ…!」
東京都渋谷区。
風太は古い地図を片手に、入学式の会場へと向かっていた。
その目は、子供とは思えないほどまっすぐに未来を見ていた。
この世界の魔法使いには、階級がある。
最高ランク「C」は、世界に6人。
最下位の「S」は、魔法を持っているだけの凡人。
その数、約50億人。
風太の夢はひとつ。
「Cランクの魔法使い」になること。
つまり、世界で最も危険な存在になること。
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「…ここで、合ってるはずなんだけど」
細い路地。地図を確かめながら、風太は立ち止まった。
人通りはない。
周囲は静まり返り、異様なほどに風の音も消えていた。
その瞬間。
――ガサ。
茂みの奥から、小さく何かが動く音。
風太が反応するより早く、複数の気配が周囲を囲んだ。
「……!」
逃げようとした瞬間、何かが背後から風を裂いた。
心臓に、冷たい鉄の感触。
続けて首元に鋭い刃。
風太は声すら出せないまま、その場に崩れ落ちた。
血の匂いが、春の空気を塗り替えていく。
犯人たちは一言も発さず、そのまま闇へと消えた。
あまりにも唐突に、あまりにも無意味に。
風太の人生は、終わった。
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それはただの殺人ではなかった。
あの少年が「存在してはならなかった」ことを、世界が証明した瞬間だった。
そして――
30年の時が、静かに流れた。