第四十章「笑顔の仮面、泣き顔の真実」
「ごめん……スロフ」
その男の名は当麻の脳裏にずっとこびりついていた。
あの夜から三日が経ったが、彼の胸の奥のざらついた何かはまるで解ける気配を見せなかった。
依頼は思いがけず早く舞い込んだ。内容は「特殊部隊の殲滅」。敵は、虐殺の報告が後を絶たない傭兵団『黒い冠』。しかし、驚くべきはその傭兵団の中に、“人道的活動をしていた看護師たち”が混じっていたことだった。
「人間の盾か……いや、きっと自分の意思で巻き込まれてるわけじゃない」
詩織が表情を曇らせた。
「殺すしかないのか?」
当麻は答えなかった。沈黙が肯定を物語っていた。
標的の村は焼け落ちていた。地雷を仕掛け、周囲を囲んだ敵は明らかに迎撃の準備をしていた。
「おいLethal、左から回り込め!プランAバックアップ用のBの準備を頼む」
「了解、でもせめて“お願い”くらい言っても良くない?」
「――お願いだから、殺られてくるな」
「そっちは心配しなくていい。アンタのほうが死に急ぎ体質なんだから」
そう言って彼女は軽やかに走り去ったが、その目には揺れるものがあった。
村の中心で交戦が始まった。
敵の銃撃をかいくぐり、当麻は次々と傭兵を無力化していく。が、ある家屋で“人道支援のために帯同した看護師”と出会う。
「お願い、撃たないで……私たちはただの――」
パンッ。
味方が背後からその女を撃った。
敵に寝返った傭兵は、味方さえ処理するよう命令されていたのだ。
「なんなんだよ、これは……」
当麻は吐き気を覚えた。
一方詩織は爆薬を仕掛けていたが、途中でピザの配達ドローンに遭遇する。
「ピザ!?今このタイミングで!?」
勝手に注文されたピザを手に取ると、配達ドローンが「Thank you!」と礼を言って飛び去った。
「お礼言われちゃったよ……いやいやこんな戦場でマルゲリータとか誰の注文だよ!」
仕掛けた爆薬の上でピザを食べようとするも、チーズがのびてコードに絡まり起爆スイッチがピッと点滅。
「あ、やべ」
咄嗟にピザで起爆スイッチを挟み込んで爆発を止めた。
「ピザ……お前、命の恩人だったのか……」
敵は全滅。看護師の死体が転がる中、当麻は立ち尽くしていた。
「正義って……何なんだろうな」
「そんなのとっくに崩壊してるよ」
詩織はピザ箱を抱えながら言った。
「……どうせ世界が壊れてるなら、せめて一緒にピザくらい食べようよ」
当麻は顔をしかめながらも、その言葉に少しだけ肩の力を抜いた。
「そうだな」
「あとで買い直しに行こ。今度はちゃんとサラミのやつ」
「あとでって……戦場帰りにピザの話すんの、お前ぐらいだぞ」
「いいでしょ、世界がクソなんだから、笑い飛ばさなきゃやってらんないでしょ」
その夜、二人は隠れ家で静かにピザを食べた。
殺したくなかった命、救えなかった存在、すべてを背負って。
「笑ってるけど、目が笑ってないぞ、詩織」
「当麻もね」
互いの傷は癒えない。
だが笑えるうちは、まだ戦える気がした。




