第三十三章「影を追う探求」
【紅い鋏街・第三区画】――
「……やっぱり潜伏先じゃなかったか」
詩織は手のひらを広げて空を仰ぎ、肩をすくめた。
「またまた空振りね。でもさ、こんなに派手にフェイク撒いてるってことは、やっぱり誰かに見られたくないんだろうね」
当麻は薄暗い路地の壁に描かれた奇妙な記号を凝視していた。
「この暗号、気づいたか?」
「どれ?」詩織は壁の落書きを見回す。
「この“十字の中に二つの点”だ。普通の落書きに見えるけど、俺たちの昔の合言葉に使ってた記号と似てる」
「はあ?昔の合言葉って……やめてよ、ロマンチックなサスペンスドラマみたいじゃん」
「そうじゃない、これは数字の“4”を図案化したものだ。俺たちが任務中に使ってた隠語だ」
当麻は手元の小型端末に映る暗号表を開き、壁の記号と照合し始めた。
「ここに‘十字+点×2=4’って意味がある。この街の地区区分と符号していて、“第4地区”を示してる」
詩織は鼻をひくつかせながら「だからって第三区画で空振りして、第4地区に行けっての?単純すぎるんじゃない?」
「いや、まだある」当麻は壁の隅に刻まれた細い線を指さす。
「これはGPS座標の一部だ。ここから数字を拾い、以前俺たちが接触した偽造戸籍のコードと照合する」
詩織はスマホを取り出し「ふーん、デジタルでビビるわ〜」と冷やかす。
「この座標は……ここから北に30キロの海沿いのリゾート地。薊はまさかビーチでのんびりしてるのか?」
詩織はニヤリと笑い、「いや、絶対なにか企んでるって。ま、ビーチリゾートでバカンス気取りの女には違いないわね」
【中立国・ビーチリゾート】――
二人は辿り着いた。砂浜のパラソルの下、サングラスをかけた妙齢の女が冷たいカクテルを片手に優雅に座っている。
「久しぶりだな、アザミ」当麻は低い声で呟く。
女はゆっくりとサングラスを外し、涼やかに微笑んだ。
「随分しつこく追いかけてきたわね、あなたたち」
詩織はすかさず言う。
「そのサングラス、目隠しだけど心も隠してる?いや〜、犯罪者ってやっぱイケてるアイテム持ってるわ」
アザミは吹き出しながら、「生意気ね。あなたいつからそんなキャラになったのかしら」と笑う。
当麻は苦笑しながらも、詩織の明るさに安堵を覚えた。
三人は緊迫の再会を前に、それぞれの思惑を胸に抱き、対峙するのだった。




