第十三章「砂の国の祝祭」
昇る陽が砂丘を黄金に染め上げ、熱波が空気をゆらゆらと揺らす。中央アジアの小国「アル=サリム」は、オイルマネーによる虚飾と、乾いた大地に広がる貧困と暴力が同居する地だった。
Lethal Weaponはスコープ越しに、彼方の集落を覗きながら口を尖らせる。
「ラクダと機関銃が同じ画面に収まる国って、ここくらいじゃない?」
隣でサーマル双眼鏡を覗いていたGodSlayerが淡々と答える。
「都市部は観光向けの仮面。問題はこの辺境地帯だ。“灰の獅子団”が武器取引の中継地にしている集落、《アス・バルル村》が今回のターゲットだ」
「で、その獅子団のボスが“アミール・シャヒード”ね。元将校で、今は違法兵器と子供兵を使って内戦を煽ってるクズ」
「依頼人は国連下部の監視機構。報酬は10万ドルと装備補填。今回は“派手にやって構わない”そうだ」
Lethalは唇を歪めた。「……了解、じゃあ“地獄の花火大会”ってことで♪」
二人は丘の陰で装備を確認する。GodSlayerはMk17 SCAR-Hにサプレッサー、LethalはP90と短距離用榴弾を数本。熱探知に強い遮熱クロークをマントのように羽織る。
夜。アス・バルル村では、古代神殿の遺跡を利用した“祝祭”が行われていた。祭壇には銃器やスーツケースが山のように積まれ、集まった男たちは口々に祈りを捧げていた——正確には兵器取引の“成功祈願”だった。
熱探知回避クロークを纏ったGodSlayerは、背後の砂丘から静かに接近し、見張りを一人ずつナイフで葬っていく。喉を裂かれた男は、声すら上げる間もなく砂に崩れた。
一方、Lethalは神殿裏の地下通路から侵入。床に座り込んでいる子供兵の集団を発見し、素早く閃光弾を投げる。
「眩しいだけだから安心して寝てなさいねぇっ☆」
目を潰された警備兵が銃を乱射する隙に、Lethalは一人ずつ膝下と喉を確実に撃ち抜いていった。弾が貫いた肉が爆ぜ、血が神殿の石壁を赤黒く染める。
「一、二、三……あっ、右足しかない子は数えづらいなぁ……」
内臓を抱えて呻く兵士の横を軽やかに通り過ぎながら、Lethalは階上へと続く石階段を駆ける。
一方、神殿の中枢では、アミール・シャヒードが白装束に身を包み、大型ドローンを前に取引を進めていた。
「このドローンは市街地への精密爆撃が可能だ。君たちの政敵を“神罰”に見せかけて一掃できる」
「その分、高くつくな」ブローカーの男が眉をひそめる。
「だが……その価値はある。爆薬はロシア製、GPS誘導。君の敵は、顔ごと消える」
そのとき——
シャヒードの護衛が一人、銃を持って倒れ込んだ。
「何だ?」
続けざまに、壁の影から現れたGodSlayerが、狙撃銃で次々と護衛を撃ち抜いていく。頭蓋が弾け、眼球が壁に張り付く。脳漿を啜るハエの羽音すらかき消されるような静寂が続いた。
「侵入者だッ!仕留めろ!!」
神殿全体に警報が鳴り響くが、時すでに遅かった。
Lethalが爆破ボルトを神殿天井の梁に撃ち込み、一気に瓦礫を崩落させる。
「神さまのおうち、ちょっとだけリフォームしちゃうね♡」
落ちた石材が数人の兵士を圧殺し、シャヒードの前には二人の傭兵が並び立つ。
「貴様らは誰だ……!?どこの軍だ!」
Lethalが微笑んだ。「名前なんてどーでもいいでしょ?大事なのは死に方よ。ね、GodSlayer?」
GodSlayerは短く答える。
「——あの世で言ってろ」
銃声が再び神殿を揺るがす。シャヒードの護衛が左右から迫り、雨あられのようにAKの弾が飛び交った。
GodSlayerは倒れた柱の陰に滑り込み、SCAR-Hのストックを肩に押しつけながら連続射撃。遮蔽物の奥にいた兵士の胸郭が爆ぜ、肋骨と肺が外気に晒されて転げ落ちる。
Lethalは足場の悪い階段を蹴るように降りながら、P90を片手に跳弾を利用した射撃で敵兵の首筋を穿つ。飛び散る血が彼女の頬を斑に染める。
「よっ、首飛ばし成功~♡ ついでにボーナスつけてくれない?」
「ただでさえ安請け合いなのにクライアントも対応できないだろ」GodSlayerは淡々と応えるが、声にわずかな笑みが混じる。
シャヒードは神殿の祭壇へと後退し、手元の起爆装置に手を伸ばした。
「ここにはC4を二百キロ設置してある!この神殿もろとも貴様らを……!」
その瞬間、Lethalの銃口が閃いた。起爆装置を持ったシャヒードの手首が吹き飛び、悲鳴が上がる。
「うるさいなぁ。せっかくの遺跡を台無しにする気?」
シャヒードは倒れたままなくなった腕を押さえるが、GodSlayerが無言で近づき、短剣を一閃。喉を貫かれ、彼は息を引き取った。
戦いの火は静かに消えた。
生き残った子供兵たちは、Lethalが持ち込んだスモークと音声再生装置によって混乱の中、拘束されることなく解放された。死体の山の中、沈黙と風だけが神殿を満たしていた。
「依頼完了。証拠写真、位置情報……送信完了」
GodSlayerが衛星端末を操作し、国連へ任務達成を報告する。
Lethalは砂塵まみれになった髪をかき上げながら、振り返る。
「ねえ……私たち、どこに向かってるんだろうね。戦って、殺して、でも何も変わらない。壊れてるのは世界なのか、私たちなのか」
GodSlayerは少しだけ迷ったように言葉を探し、それでも彼らしい短い言葉で返した。
「向き合うしかないんだ」
それだけで、Lethalは苦笑する。
「そっか。じゃあ今日も、正気保つために、またジョーク言わなきゃね。次の地獄でもよろしく、相棒」
神殿の奥、風が吹き抜ける小さな裂け目から、二人は砂漠の彼方へと姿を消した。
その背に、血と銃火の記憶が静かに焼きついていた。




