42_不調と予感
課外講義は座学だけで丸一日、その後に始まった、対人も兼ねた実戦用の訓練は既に四日も続いていた。
先生はスパルタながら優しく指導してくれていた。
ただ、実戦訓練を続けていく中で、私は自分の中にざわざわとした感覚が増していっていることを感じていた。
まるで、レイと会う数日前と、ほとんど同じように。
また、誰か――恐らくは私のパートナーだったあの人――が私の所に来るのかも知れない。この前、五人で話したことが現実となるかも知れない。
私の異変を感じ取ったのか、レイが今日の訓練が終わるなり私の元に寄ってくる。
「ルゥ、昨日辺りから大丈夫か? ……俺からは、訓練以外の部分で、どこか辛そうにしてるように見えるが」
「レイ…………大丈夫、って、言えたらよかったんだけどね。どうやら、ちょっと……そうじゃないみたい」
「何かあったか? ……もしかして、シズのことか?」
「……わかんない。多分、そうかも」
私の中で、何かが心の中で引っかかって取れない、そんなような気分だった。
******
それから更に二日、ルナの不調は日に日に強まっていった。
彼女の状態はこの実戦訓練に関わっている誰の目にも明らかだった。
朝から明らかに顔色が悪いルナに対し、流石のリカも止めに入る。
「ルナ……何がそう焦らせるか知らないけど、無理したって仕方ないわよ?
この先何があるか分かったものじゃないし、一番はルナ自身の身体が大事だよ。
今日は止めときな。……もしかして、何かあったかい?」
「先生……今日くらいまでなら、まだ、大丈夫。まだ、私は、これでも、大丈夫……ですから」
そう言い張るルナだったが、声に元気はなく、歩く姿すらふらふらしており、周囲にいる『旅団』のメンバーは全員が全員、彼女をどうにか止めようとしていた。
「無茶は良くないから……」
「危ねえよ、この状態で続けるのは止めておけ」
「無理するなよ、今の君では危うい」
彼らの忠告も、ルナの耳には残っていなかった。
彼女はそれでも身体の動かないなりに実戦訓練を続けるが、あまりの集中力のなさを見るに見かねたリカとマリが止めに入る。
「……もう、やめときなさい。これ以上やると、死ぬよ」
「……まだ、今日までは、大丈夫、ですから。
それに……今の自分のことは、自分で、分かって、ます、から。
これは……多分、ですけど、“もう一人”が、静音が、来るんだって……不思議と、ですけど、分かっていること、ですから」
息も絶え絶えになりながら話した、ルナの言葉に二人は衝撃を受ける。
マリがルナのためにと、椅子を持ってこようとするが、その場にルナはへたり込んでしまう。
「……は? それ、本当なの?」
「こういうときに、私が、嘘をついたことはないでしょ?」
リカは虚を突かれたようで、口が開いたままになっていた。
「この前、五人で話した通り、だよ。多分……そう、遠くないうちに、私の近くに来る。……そんな気がするよ」
レイを見つけたこともあって、ルナの勘――あれは決して勘と呼べるものかは分からない――は、馬鹿にできるようなものではなくなっていた。
ただ、レイの捜索時に役立ったルナの勘は、どちらかといえば勘ではなく、共鳴や共振とかの方が近いかも知れないが。
なんとか落ち着いたルナから状況を聞こうとして、場所を訓練用の道場から相変わらず閑古鳥の鳴く酒場のカウンターにみんなが座る。
すると、ルナの隣に座ったレイが急にうずくまって倒れそうになる。
「……い…………っったあぁ……?」
ルナとレイを囲むように他のみんなが心配してくるが、大丈夫だから離れて欲しいとレイはよろけながら立ち上がる。
「もしかして、レイも、分かった……? シズのこと」
ルナはレイに聞くが、帰ってきた言葉は曖昧なものだった。
「……いや? でも……かなり、近いかもな。タイムラグを考えると、あと数日、かな」
「二人とも……どうして、そう思うのよ。
シズ、さん……静音さん、でしたっけ? その人が、何でこの世界に来るって分かるのよ」
まるで理解できないとでも言わんばかりに、マリが声を上げる。しかし、それに返す二人の声はやけに冷静だった。
「多分……忘れてないだろうから、もうすぐだと思う」
「元々、約束……だったしな」
二人はどこか遠い目をしながら、これから来るであろう彼女のことについて思いを馳せる。
「約束?」
「うん……もし、互いのどちらかが死ぬなら、一緒に死ぬ……どちらかを看取ってね」
事情を知らない『旅団』のメンバーは、約束の内容をルナから聞き出そうとして、ルナが淡々と答えた、それに絶句する。
「まるで殉死みたい、ね」
リカが解説のようなものを挟む形で言う。
彼女たちの関係性としては、殉死という言葉は、決して適切ではないが、どういうものか分かりやすくするための、ものの例えとして選んでいた。
「そう……ですね。でも、殉死は、主従という関係が基本的にはあるじゃないですか」
「これくらい、比喩だって分かりなさいよ。でも、本当に……呆れるくらいの共依存、よね」
リカはそう言ってため息をつく一方で、珍しいモノを見るような目で、『旅団』のメンバーであるイツキがルナの方ヘと向いて、話しかけてくる。
「随分と面白い関係性ね……。ところで、ルナ、その子がどこら辺に来るか分かったりする?」
「……それが分かったら、レイのときも苦労してない。分かるなら、もはや超能力者だよ……魔術とは、また別種のね。
でも、これは私のただの推測だけども、今ならこの周辺……大体、この桐都から一日で向かうことの出来る程度の距離だと思うの。
だけど、場所を移したら多分、前提が変わる……まるで私を追うかのように、付いてくるかもね」
「ルナは磁石にでもなったのかしら?」
「いや? でも、あのシズならありえる。私はそう思う」
などと雑談じみた話になれば、若干だがルナの顔も翳りが取れてきた。
リカはそれを見て一安心していると、一人の男がバタリと、閉店中なはずの酒場の扉をバタリと開けてやってくる。
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