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転移少女は果てへと至るか  作者: 雰音 憂李
ⅳ 静かなひととき、されど

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41_軍事参議官会議

 元帥府一階の奥、大講堂。


 普段は使われることのないその場所に、陛下の命により軍事参議官と元帥府議官が、桐都に残っていない軍団長の三人以外の全員が揃っていた。

 カゲトは新任の東部方面軍団長兼軍事参議官として、前北東方面軍団長の竜野信次陸軍大将は専任の軍事参議官として、そこに臨席していた。


 唯一人、議場の一段上に鎮座する皇帝陛下は、何も語られず、沈黙を貫いていた。


「諸君、此度は我等の求めに集結して頂き、有り難く思います。

 此度、ベクシュトレン(Bekstolen)公国首都・ベネルーシェ(Beneruhxe)より早馬にて、書状が届いた次第にございます。

 それによれば、公国は魔帝国により侵攻を受けたる由。

 その勢い凄まじく、首都にまで至るかとのことにございます。このことによりて公国は我等に救援を急ぎ要請せられたる由。

 この救援に際し、此度は我等方にて議論致したく、此度の招集に至りました。よって、ご助言願いたく存じます」


 この議場をまとめ上げる議長にして、帝国の軍事の事実上頂点に立ち、軍事権を陛下より事実上委任された軍事卿、大我常房陸軍元帥が長々と公国からの情報と状況について述べる。


 陛下がこの場において発言されることはない。ただその情勢を見守るのみだった。

 重苦しくなる議場の雰囲気を最初に破ったのは、老元帥と呼称されている、帝国創設の英雄とさえ目される重鎮だった。


「公国は独立、いや帝国創設よりの、長年のご友人であり、帝国の盾となる要衝でもあります。

 ……しかし、此度ばかりは、現状に残る軍隊では、対応は……厳しいと思案するものであります。

 先の事件で、第四師団……いえ、公国と直接国境を接する北東方面軍団はまともに使える状態ではありませぬ。

 そうとなれば、他の地域の軍団より師団を一時的に出征させる、あるいは……軍事行動の出来る武装ギルドを出征させる。

 現実的な方策としては、この辺りではないでしょうか。……尤も、武装ギルドがどれほど帝国の役目にかなうかは、儂でも計りかねますが」


 老元帥の言葉には、この場にいる陛下以外の全ての人間が苦い表情を浮かべる。

 先の件によって北東方面軍団を粛清した陛下が悪い、ということではない。あまりにも時期が悪すぎたのである。

 北東方面軍団は核となる第四師団を中心に粛清の嵐が吹き荒れており、その煽りを受けたためか、隣接する北東方面と同じく公国と国境を接する東部方面軍団も人事異動によって軍団長が未だ着任していないカゲトへと交代したため、すぐには行動できなくなっていた。


「しかし、彼ら公国には持ちこたえて貰わねば、我等も全面戦争へと向かうほかなく、その備えを十全にせぬことには……」


「そもそも即応できる部隊は中央近辺には居らぬ!」

「遠方の軍を動かすのは……まず、北方は万一魔帝国による侵攻がある場合の抑えをしてもらわねばならぬ故に難しいだろう。

 西部は……そもそも遠すぎて間に合わぬ。南方は数年前の傷がまだ癒えておらぬ故にこれも難しい、か」

「そもそも師団長の多くは、四月に着任したばかりだ。いくら即応できたとして、従うのかどうか……」


「……近衛は動かせぬのだろう?」

「近衛は陛下を守る最終の手。それを最前線にわざわざ向かわすのか!? そもそもそれには陛下の出馬が必要にもなる。

 それを行うならば、第一師団が優先されるべきだ! ……中央管区すら現状では即応体制になっていないと言うのが何よりも痛恨ではあるがな」

「どちらにせよ、近衛も第一師団も、帝国首都の最終防衛線であることには変わりないだろう。それを動かすわけにもいくまい」


 議論は深まれど、解決の糸口は見えない。だが、すぐに正規軍を出征させることは不可能だ、というのが、ここにいる議官全員の共通認識であった。


「では……俺から一つだけ提案を」

「カゲト、勿体ぶるでない。さっさと言え!」

「俺の方から一度働きかけて、『旅団』が動いてくれないか聞いてみます」


 カゲトがそう言った瞬間、議場は静まりかえる。

 彼の言う『旅団』とは、軍隊の一形態の旅団ではなく、リカ・アン=リーゼ・アイネの率いる武装ギルド『藍碧の旅団』のことであった。


 リカ自身はそれを語りたがることはないが、彼女は、帝国内では正しく英雄であった。

 先の戦争……その結果起こった帝国による大陸の事実上統一の功労者。彼女の叙爵もそれに応じたものであり、ある種、特別視されていた。

 その一方で、彼女は束縛を嫌い、この前久々に講師として復帰したのを除けば、三年近くも軍を離れており、実質的には隠居同然の状態であった。


「竜里大将、あの御仁は、軍に戻された方がよく働くかと思案いたしますが……」

「それは……無理だ。もし無理矢理に復帰させようとすれば、市中で何をされてもおかしくない。

 彼女を慕う人間もいるのだから、収拾がつかなくなる。

『旅団』そのものが敵となる。……それでも良いならば、聞いてみるが」


「……ならば、どうするのでございましょう」

「少々手荒かも知れませぬが、動かす方策は、ない訳ではございませぬ。

 とはいえ、これも数日はかかるやもでしょうが」

「数日ならば師団を動かすよりも早いわ。公国の防衛線へ手早く向かわせられるならば、なお良い」


 カゲトの提案は、間に合うかどうかすら分からないという部分までをも含む言葉だった。

 しかし、彼ら議官にはそれよりも可能な限り至急の救援を行わねば、という感情が優先され、事実上容認されたようなものだった。


「となれば、彼ら以外の武装ギルドにも働いて貰わねば、帝国内にも角が立つであろう。

 なんせ辞めた士官の三分の二ほどがそういった所に行くというのだから」

「……では、こういう形ではどうでしょうか?

 武装ギルド諸衆に、間に合う人間のみでいい、各自招集の上……いや、各自で向かって貰う形ではどうだろうか。

 観戦武官は彼らに付けねばならんが、そればかりはどうにもならんことだろう」


「……それだけだと、公国の領民に手を出す可能性もあるでしょう」

「万一そうなる場合は、褒美もないと、むしろ認可を取り消してしまえば宜しい。そう伝えれば、下手な考えも起こさぬだろう」

「では、その方向で宜しいか」

 議長の決断に、全ての議官が賛意を示したことにより、議場は解散となった。


 ******


 議場が解散となって数時間後、カゲトは再び宮城にて陛下に拝謁していた。

「……難儀なことよ。カゲトが東部方面への転出が決まって早々、このような災難に見舞われるとは。

 とはいえ、早々に赴任し、迎撃が可能となれば、朕の心も安んじられるだろうよ」


「陛下の御言葉、その理由こそ、御察し致しますが、それを俺や侍従官長のような身内の者、或いは陛下の侍従官以外には、臣下には、何卒聞かれませぬよう……」

 カゲトは陛下の呑気にみえる言葉を制そうとするが、陛下はそれを一笑に付す。

「カゲト、案ずることではない。このような些細な言葉で人心が離れようか」


「陛下の人徳は俺も理解しているつもりですが、戦争は人心を荒ませますから。

 しかし、今回の議決により、彼女らは桐都を離れることになるため、暫くは桐都に平穏が訪れるやもしれませぬな。

 彼女やその傍の者はともかく、末端は危険な連中も居りますから。

 その上、俺もまた暫く、桐都を離れますから」


「何を言うか。カゲトも、彼女らも……偉大なる帝国の臣民であり、帝都たるこの街の住人であることには変わりない。

 武装ギルドの間の諍いはともかく、誰が貴様を悪し様に言うのか。

 ……尤も、カゲトを功大なりと朕が認めたからに、それを陰でしか文句を言えぬ小心者ばかりじゃと思うがな」


 陛下……当代の皇帝・桐武帝守忠はカゲトの言葉で一瞬激昂しかけたものの、一々怒ってもいられないといわんばかりに穏やかに収めた。

 陛下の心情は、下手に探ってはならぬとはいえ、陛下の身内をなじられたということに、相当の怒りがこもっているとカゲトは感じていた。

 即位以前の陛下ならば、どうなったことだろうかとさえ思う。


 今の陛下は基本的に感情を多く出すことはない。

 それが知れ渡ることによる影響は計り知れないものであると知っていたからだった。


「では……」

 カゲトが宮城より辞去しようとすると、陛下から一通の書状を手渡される。

「これは、『旅団』へ渡すとよい。ああいう見得を切ったんだ。万一、貴様一人の言葉では動かぬ場合も考えねばならぬからな。勅命では動かざるを得まい」

「陛下より、直々の勅旨……御下賜のこと、此度のことについて大変喜ばしく思います。それでは、こちらを御預かり致します」

 涙は見えないものの、カゲトは感激していた。

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