40_勅命と危機
「カゲトには、東部方面に行って貰いたくてな」
信綱の誘導に従うまま、宮城の中心、御目見得之間に祗候したカゲトは、桐武帝・守忠より開口一番、そう告げられていた。
「本当ならば……翌年の予定だったのだがな。カゲトが如何に帝国の功臣たりといえど、序列をそう簡単には崩せぬ。
陸軍としても、本当はカゲトのような人間は北東方面が適任と判断していたのだがな……それも、全て先の件で吹っ飛んだ。
あれのせいで、北東方面軍団は統制を強化する必要がある。
幸い東部方面の軍団長はそれが抜群に巧い彼奴がおるでな……あの男の代わり、穴埋めという言い方は宜しくないか。
ともかく、カゲトには、多少の苦労もして欲しくてな」
北東方面軍団は主幹師団である第四師団の師団長が更迭されたのを始め、多数が粛清に巻き込まれたことで、酷いことになっていた。
それを建て直すために、前東部方面軍団長であるアルフレート・デングラー陸軍大将が新たな北東方面軍団長兼第四師団長に就任することが決定していた。
責任を取る形で更迭された前北東方面軍団長の竜野信次陸軍大将は軍事参議官に補任され、軍事参議官として一年を過ごすだろうと思われていたカゲトが、空席となった東部方面軍団長へと就任することになった。
「陛下、お言葉ですが、俺のような軍令違反の多い人間が、領土防衛及び帝国主権線の回復に関する最前線たる東部方面へ赴くは、如何なものかと。
俺のような者を、重用されるのは、如何でございましょうか」
カゲトはあえて主君に問う。陛下の真意を知るために。
「……カゲト、何を言うか。貴様の軍令違反など、朕が知らぬはずもないだろう。
そんなものは、貴様が挙げた功に比べれば、些末なことよ。朕はそれを承知で、貴様にこの重職を任せると言うことを決めたのだ。
……同時に聞いておくが、連れて行く副官はやはり……今までの通り、なのか?」
「はい……あの旅団との繋がりを切るにはあまりにも惜しく、状況によっては帝国の命運を左右しかねませぬ故。
彼女がいることで、旅団との連絡が円滑になれば、帝国も楽になるだろうかと」
異世界より転移してきた少女たち――そのうち一人は女性といえる年齢だが、今は気にしないでおく――は、何れも『旅団』に所属していた。
そして、彼女たちが帝国に簡単に従うことはないだろうとカゲトは考えていた。それ故に、簡単に手綱を手放す訳にはいかないとも考えていた。
「ふむ……特対の者共は、貴様等二人が居らぬようになって、困惑するやも知れぬな。
……新たな指揮官を迎える必要もある、か。ならば……暇になったあの男にでも任せるか。カゲトもそれで良ければだが……どうだ?」
「……相変わらずでございますな。あの組織は俺と、その副官が居らねばまともに機能しないというのに。
梅州の師団長の時にわざと空席にしたのもそうでございましたが、とうとう中央に居ない俺の代わりに、誰かを立てるとは」
「そもそも特殊事象対策部は、朕の肝煎りのものだ。未だその役目を終えて居らぬ以上、残さぬ訳にもいかぬだろうよ。
尤も、軸とならねばならぬ者が中央を離れるは、仕方の無いこととはいえ、困りものではあるが。
……それに、処遇に困る御仁でもあるからな、前の北東方面軍団長は」
本来鍵となる……ならねばならぬカゲトは東部方面に転出し、その副官たるマリも基本的にはカゲトに従うだろうと考えられている。
強制力はないものの、マリは三人を、『旅団』を呼べる可能性を持っていた。
今までのことがある以上、次に同様の件が起こるとすれば、今度は何一つ権限を持たないカゲトの周辺に来てもおかしくはないと陛下は考えていた。
「……承知しました。改めて、此度の辞令、受領させて頂きます」
「大陸の東方は、未だ魔族の影響により安定しておらぬ。軍団司令部のある鈴都も含め、荒廃している地域がほとんどだ。様々な対応を要求されるだろうよ。
……身を以て、勉強して欲しい」
陛下のお言葉に、カゲトが伏して応えていたところに、バタン! と扉が開けられる。
汗だくになったどこかの官人が、陛下に駆け寄って大声で述べる。
「陛下! 公国より早馬あり! 公国首都、魔帝国より侵攻を受けたる由! 至急、救援を求むとのこと!」
事態は、風雲急を告げていた。
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