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転移少女は果てへと至るか  作者: 雰音 憂李
ⅰ 目覚めた世界、此処は何処

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4_参内と根回し

2025.9.28 改稿しました。


 ルナを晴香に預けたカゲトは、その足で帝国の心臓とも呼べる場所へ赴いた。

 宮中は“これ”をどのように聞くだろうか。そもそも、俺の文書を通じて、元帥府から陸軍省へもこの話は伝わっているのだろうか。

 今回の手続きは元帥府を通したルートであったが、そもそも元帥府へ列せられることになったのは今回の辞令であり、実際には未だ発効していないものだ。

 しかし、元帥府入りが決まっている時点で、このやり方は問題ないはずだと信じて、まず、皇帝の最側近たる侍従官長(じじゅうかんちょう)の元へ向かった。


 ******


 侍従官府の長官室に着けば、皇帝陛下とさほど変わらぬ顔の男がいた。

「……陛下は“あれ”があった四年前より、変わられた。随分と弱くなられた。その原因は……貴様にもある」

「だから陛下への面会は後にしろと? 随分とひどい物言いだな……四年前と同じような者、二例目が発見された。

 そのことを陛下へ奏上するために来たというのに、弟君様は帰れというのか」


 年上ではあるが、彼の姉が俺の妻である以上、彼は義弟に当たるため、弟君様と呼んでいる。

 しかし、目の前にいる弟君様は俺のことが随分と嫌いだ。それが故に、随分ときつい言葉を俺に使う。

「……そもそも、何時(いつ)だと思っておるのか。件の内容は、元帥府より寄越されてはおるが……夜も更けきった頃合いに参内とは。

 深夜の参内……陛下との面会が難しいことは、とうの昔に知っていよう」

「そう言うなら、むしろ褒めてくれよ。僅か二日であの距離を帰って来ること自体、無茶ではあるんだから」

「……まあいい。このような時間に、決して急な参内がなかったわけではない。ここで待ってろ」

「……弟君様であれば、必ずではないのか」

「当たり前であろう。俺と兄上は全く違う、別の人間だ」

「……分かったよ、弟君様」


 四角四面なその姿に半ば呆れつつも、弟君様もとい、侍従官長海軍大将・安達(あだち)信綱(のぶつな)に許可が下りるのを待つ。

「それはそうと、貴様は陛下に会おうというのに、何故、平服姿なのだ」

「……あ」

「今より宮内(くない)に許可を取ってくる。その間に、貴様は屋敷にでも戻って大礼服に着替えてこい」

 どうやら、今回の件が重大であるが故に、随分と慌てすぎていたらしい。


 ******


 屋敷――晴香やルナのいる城下の屋敷ではなく、城内にある竜里家の上屋敷にて着替えを済ませた俺は、宮内より許可が取れたことを確認し、陛下の元へ向かう。

「陛下、このような時分となり、大変申し訳ありません。元帥府附(げんすいふつき)軍事参議官(ぐんじさんぎかん)、前第五師団長陸軍大将、竜里景直にございます」

「して、この時間に何用だ? カゲトよ」


 このような時間の来客にもかかわらず、宮中の(あるじ)は、あくまで柔和な対応をする。

「転移者を……“二例目”を、保護いたしました」

「……また、カゲトの傍に、か。では、どうするつもりであるか」

「本件、全て、この景直の差配に、任せていただきたいと存じます」

「で、あるか。……本来は参議官の会議や省議へ諮るべきだが、許す」


「陛下!? 景直では余りにも分不相応ではありませんか」

 また弟君様は余計なことを、と思うが、既に許可をうけた以上は変わることがない。

「弟君様、陛下が許すというのに、何を」

「ただし、条件を付ける。先の件の者……碧氷(へきひょう)の魔術師と、此度の(くだん)の者を、必ず引き合わせよ」


「は……?」

 陛下からの提案に、思わず俺は変な声を上げる。

 碧氷の魔術師――Rica(リカ)Ann(アン)Riese(リーゼ)Eine(アイネ)と、ルナを引き合わせる?

 一体、陛下に、何の思惑があるのだろうか。何か陛下は気付かれているのだろうか。

「思うに、何かあると思うのだ。夢枕に見たわけではないがな。もしかすれば、碧氷の魔術師は此度の件に、どこかで関わってくるのではないか」

「「はあ」」

 普段は全く合わないはずの俺と弟君様の声が重なる。

「と、とにかく、此度の件、承知いたしました」

「……先の件があるでな、魔力の石版は使え。もし魔術を使えるのであれば、何としても手の内に収めておく必要がある……それに」

「それに?」

「かの“サイハテ”も、予言がある、からな」

「……承知いたしました。失礼致します」

 願わくば、俺が彼女たちを平和な世で、平民として、平穏に暮らさせようとしていたことに、陛下が気付かれていたのかは分からない。

 ただ、“サイハテ”の予言があるということを俺に言い含めることには、気にかかった。


 ******


 陛下への拝謁を終え、向かったのは元帥府だった。

 未だ専用の執務室は設けられていない。しかし必要な作業が増えたが故に、城内の屋敷へと戻らずに来ていた。

 今回の、梅州はアルヴェイで起こったルナの件は、“前回の件”のこともあり、受け入れられるのは早かった。

 元帥府入りが内定しているため、その庁舎にいること自体が変ではなかったが、時間帯的には日付も変わる頃ということもあり、少し変な目で見られていた、と思う。


 元帥府の庁舎一階の広間の中でマリと合流し、一通の手紙を渡す。

「マリ、これを今度リカに会う……家に帰るときに渡してくれ。詳細はまだ話せないが、陛下からも御墨付きを頂いている」

「了解しました……が、師匠は易々と動くことはないでしょうが」

「……分かっているよ。この件、彼女は簡単に関わろうとはしないだろう。

 だが……いずれは会ってもらわねば困る。また今度、ルナの調査が終われば、また改めて送るよ」


 陛下からの勅命と化した言伝もある。彼女の提示する条件も考慮すれば、難しいことだろうが、必ず果たさねばならないことだろう。

読んでいただき、ありがとうございます。


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カゲトの立場と陛下の思惑、さらに碧氷の魔術師や“サイハテ”の予言が絡んで一気に政治色が濃くなります。ルナがただの少女では済まされない展開に胸がざわつきました。
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