35_五者面談
陸軍大将竜里景直が率いる一行は、龍朱帝国の首都・桐都ヘと戻る道すがら、とある街の宿屋に立ち寄り、泊まっていた。
今までは一晩だけ泊まっていたが、今回だけは、カゲトが珍しく二晩の宿を取ると行っていた。
何故だろうか、とルナとレイは考えていると、カゲトが二人を呼び、話を聞こうとする。
「ルナ、レイ……貴様等と改めて、話がしたい。今日はいいか?」
「……まあ、俺は」
「……いいですよ。でも、三人だけですか?」
「いや、オスヴィン以外は全員参加する。本当ならば、全員で事情を聞く方がいいのだろうが。
……あいつがいると、どうも話が拗れそうでな」
「……やっぱり、先生たちも来るんだね」
「分かってたのか? ルゥは」
レイはルナのことを、昔からルゥと呼んでいた。お互いが一人の身体にいたときから。
「何となく、ね。だって、私やレイの話だけだと、どうもややこしく感じるでしょ?」
「まあ、そうだとは思うけど、さ……」
「なんだ? そんなに五者面談が嫌か?」
「そうじゃねえよ……単純にむず痒いんだよ。俺のことを聞かれるのが」
「まあ、レイは……そうだよねえ。私の言葉、覚えてれば良かったもんね」
ルナが毒づく。二人は別人格だが、聞かれることは基本的にルナ……『小坂瑠奈』としての自分であり、レイがレイ自身のことを語るのは初めてだった。
「……まあいい。ルナ、レイ、このままでよろしく。俺が二人を呼んでくるから待ってろ」
そう言うなり、カゲトはその場を立ち去っていった。
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「よし、集まったな」
「珍しいねえ、あたし達まで呼ぶ必要、本当にあったかしら?」
「師匠は、二人のことを知っている、数少ない……いや、二人を除いて唯一の人ですから。その情報が正しいかどうかはさておき、必要でしたよ」
「それに、前回、俺とルナだけでは……あまり話してくれなかったというのもあるし、な」
大人三人が談笑する中、二人の子供はガチガチに固まっていた。
「では、ルナには一度聞いたから、先にレイの方から聞こう」
「何を聞くんだ?」
「簡単に、君の過去……というか、ここに来てからのことを、まず聞きたい」
レイは首をかしげる。
「一応、あの連中とも話はしたんだろう? ……俺をあの場所に連れて行った、あの連中と」
「それは……まあな。でも、君の話を聞きたい。あの場所で、何があったのかを」
カゲトに言われるがままに、レイはすらすらと話し出した。
「最初に気がついたのは、あの湖の近くだった。でも、身体が金縛りに遭ったみたいで、全く動けなかったんだ。すぐに気絶したんだろうな。
その後、俺の意識は……何となくだけど、ルナの中にいたんだと思う。ルナがその頃、どう感じていたか分からないけどな。
そんでもって俺の身体は知らず知らずのうちに、あの施設に移送されていて、次に気付いたのは、その施設だった。でも、どうしてか知らないけど、声が出なくて、彼らとは意思疎通を取れなかった。あいつらは、なんか知らないけど……実験するみたいな話をしていたのは覚えてる」
「実験……?」
「何をしたいのかは分からなかった。ただ、俺のことで、なのかは分からないけども実験する、と言っていたことだけは、鮮明に覚えてる」
「まあいい……話を続けてくれ」
カゲトに促され、レイは再び話し始める。
「……それで、どうなるのか分からないのが嫌で、俺は逃げ出したんだよ。あの施設自体も、少し居心地悪かったしな」
「それで、その後、一ヵ月弱ほどか……? どうやって一度も街へと行かずに生き延びられたんだ?」
「それは……はっきり言って分からん。たまたま、生き延びられたことが、奇跡だとは思う」
カゲトの質問に対し、レイはあっけらかんとした様子で答える。
「……ちょっと待って」
ルナは何かが繋がったのか、レイの話に割り込んでくる。
「……レイは多分、というか、ほとんど確実に、私の気力を抜いていたよ。だって、私ずっとしんどかったもん」
「……そうなのか。ときどき俺の屋敷に帰ってきていたときに、見たルナがぐったりしていたのは、そういうことか」
「なら、あのときのことも、そして、この前の二人の力も、何となく……説明つくわね」
リカはそう言いながら、戦慄していた。
あのときのこと、とはルナの魔術学院の日々における回復力の低下であり、本来はもっと出力が出ていてもおかしくはなかったということだろう。
「……一つ、聞いていいか?」
カゲトが手を上げて、レイに質問する。
「なんだ? ……俺が、なんであの森にいたか、か?」
「……ああ。流石に、変だとは思ったからな。三週間以上、野放しになっていたとはいえ、俺たちが来るまで、隠れきっていたのは確かだ。
どうやって、あの場所まで来たんだ?」
「それ、かあ……あんまりよく分かんないんだよな、それ」
「どうしてだ?」
「無我夢中、だった……そうじゃないの? レイは昔からそう。私の中で、無茶してたのは大体レイだし」
ルナが昔、実際にあったことを理由に、レイの行動をそう分析する。
「それは……ルナが言えたことかよ」
「ルナが言える話じゃないでしょ?」
ルナの言葉は藪蛇だったようで、二人とも大して変わらないわよ、とまで、リカに言われてしまう。
「……で、どうすんだよ。これ以上、俺が喋れることはないぜ?」
「そう……だな」
「それに、これ以上話すって言ったって……ルナの昔話しか俺はできん」
「昔話?」
「ああ。昔話、だな」
ルナは震えていた。
ルナは、好きではないのだ。彼の話す、ルナの昔話が、どうしようもなく嫌いだった。
「ルナ……分かったよ。止めろってことだろ?」
「言う前に止めなさいよ。この馬鹿」
「何でお前の話で止めなきゃいけないんだよ。ルナが自分のことを言いたくないのはずっと前からだけどさ、だったら代わりに話してもいいじゃんか、俺が」
「……死にたきゃいいわよ?」
「やだよ。なんで俺の身体が、ようやく手に入ったのに……」
「だったらレイは、余計なこと言わなけりゃいいんじゃない」
喧嘩になりそうになっていた二人をリカが仲裁する。
「だってよお……こいつ何にも喋んねえじゃん」
「ルナからすれば、余計なことを喋られるのがいやなのよ」
「それを言うなら……知っていて欲しくないこともあるのよ。レイはそんなことないって言うかもしれないけど」
「……んだよ。俺が話すと余計なことまで言うって?」
「いつもそうじゃんか。それに、カゲト以外は私たちの事情を知っているしね」
「……そうなのか。カゲトだけ知らないのは気になるけども、一番面倒くさい人間には言いたくないわな」
レイの軽はずみな発言に、カゲトが眉をひそめる。だが、文句を言おうとする前に、マリに制止される。
「閣下、言いたいことは分かりますが、私ですら分かりかねる内容なのです。閣下に話されたとて、同じような表情を浮かべるだけだと思います」
「だがなあ……ルナ達の過去が、リカも含めて、魔力の色に反映されている可能性もある。
勿論、絶対そうだというわけではないし、それを話すことが傷に障るなら、無理に言えとは言わないが」
「……だったら、拒否するわ。私には現状、何一つメリットがないもの」
「……だと思ったよ」
カゲトが笑いながら言うが、目は全く笑っていなかった。
ルナたちはカゲトが怒っているように見えたのか、空気が凍る。
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