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転移少女は果てへと至るか  作者: 雰音 憂李
ⅲ もう一人の『私』

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27_『特殊事象』対策部

 元帥府とマリさんが呼んだこの建物は、平屋だったカゲトの屋敷に、二階と三階の部分が増築されたような、和風の建物だった。

 私たちは現役の軍人ではないからか、その玄関口の前に馬車を停め、待機をさせられていた。

 先にマリさんは玄関口へと向かったが、どうやら私たちのことで職員との話し合いをしているように見えた。

 

「……ですから、彼女ら二名は竜里大将閣下の呼び出しに応じたものですから、通していただきたい」

「少佐殿、それは本来禁則事項に値することでございますから、府内には入らず、馬車の中で待っていただくことが筋であるかと思います。

 将官待遇となっている無等級魔術師様はともかく、何一つ身分のない一市民を、それがたとえ陛下の覚えがあったとしても、機密だらけのこの空間に入れられる筈がありませぬ。ですから、潔く門前にてお待ちいただく、或いは、お引き取り願いたく思います」


 わざとらしく開け放たれた、馬車の扉から彼らの声が聞こえる。

 どこか馬鹿にされたように聞こえてしまい、私を危うく思った先生から軽く宥められる。

 だが、マリさんはその対応に、普段では聞いたことのない声を出して激高していた。

「貴様らは、此度宮城にて諮られている件を何も知らぬのか!

 本来、陛下の命令によって庇護されなければならない、あの娘に彼女が、関わりのある可能性があるのだ。

 ……そうでなくとも、彼女自身が機密であることを知らぬのか?」

「……そう、仰いましても、規則は規則であります故……」

「ならば、貴様らの失態で、特別な才を持つ、帝国の宝になるかも知れない者を、二人も手放す可能性がある。

 ……その上で、そう答えるのか。それで、仮にそうなった場合、貴様は責任を取るつもりはあるのだろうか?」


 マリさんの気迫に押されて玄関の職員の男がしどろもどろになっていき、ついには返答が帰ってこなくなった。

 ……そもそも、敬語を使う時点でマリさんの方が上位者であることは間違いの無いことだろうに、その相手に対して、規則を盾に刃向かっても良いのだろうか、と言う疑問はあるが。

 女性の将校であるということで割り引かれている感覚があるのと、マリさんの上官であるカゲトがああだから、というのもあるのかも知れない。

 それでも、彼女の剣幕は、そういったものを消したうえで、怯えさせていた。

「……了解、しました。しかし、用事のある場所以外に……対策室以外には、通すようなことはしないで下さい」

「分かっているわよ、それくらいは」

 慌ただしく職員たちは動き、門が開く。馬車の傍までマリさんが戻ってくると、私たちにも降りてくるように言う。

「良かった……あれらがまともな見識を持ち合わせていてくれて。あんまりな態度だと、何が起きたか分かりませんから。

 例えば、藍色の炎で元帥府が炎上だなんて、ね」

 随分と、私の殺気は分かりやすかったみたいだった。


 ******


 元帥府の庁舎の中を、マリさんの案内に従って、真っ直ぐ、目的地に向かって進んでいく。

 どうやらカゲトの執務室……「特殊事象」対策室は、三階建ての屋敷造りの二階にある広間の一つがあてがわれている、ということだった。

「ここが、対策部の会議室になります。

 前に一度、師匠はここに入ったこと、ありましたよね?」

「……厳密には、此処じゃないけどね。カゲトが部長を務める特対って、カゲトがいる、属している場所に臨時で作られたのよ。

 ……元々は、だけどね」

「まあ……そう、ですね。師匠が軍を一度辞められた後、すぐに解散して、ルナさんが見つかったのをきっかけに、今回の形になりましたから」

「でも、顔触れは変わらないんでしょ?」

「はい。彼らはあれ以降ずっと、カゲト様の参謀衆に属してますから」


 そんな風に先生とマリさんが話していると、「『特殊事象』対策部」と縦書きで書かれた看板が、その横に立てかけられている、大きなドアを見つける。

「現在の対策部室が、こちらになります。と言っても、そんなに仰々しく構える必要は無いですけどね」

 ドアが開けられると、軍服の男が三人、敬礼の態勢で待ち構えていた。彼らがここ、特殊事象対策部の部員なのだろう。

「少佐殿、お疲れ様です。閣下は未だ戻っておりませんが……」

「そう……まだなのね。随分と会議が長くなっているのね。

 短期間に二つの事例、しかも期間としては報告が届いたのが遅いだけで、実際は三週間空いているわけでもなく、ほぼ同時期となれば……そりゃそうよね」


「ところで少佐殿、彼女らは今回の事象にも関わるのでしょうか?」

 一人の部下らしき男からそう問われると、マリさんはさも当然かのように頷く。

「そうよ。まあ師匠……もとい無等級魔術師になったリカ様はお前達も知っているだろうが、師匠は、昨日まで魔術科将校や魔術学院生を相手に講義をしていた。

 そして、もう一人は、この前のアルヴェイでの当事者でもあり……ある意味では今回の話の要にもなるかも知れない、ルナ・アンネ=リヴィールさん、です」

 マリさんの紹介に合わせて先生がお辞儀するのを見て、私も彼らにお辞儀する。

 彼らも敬礼をし直し、ユストゥス・ベルゲングリューン大尉、ルッツ・フロイント中尉、オスヴィン・シュポーア中尉の順に自己紹介をしてくれた。


「それで……マリ、私たちに何をして欲しいのかしら? 荒事は二人とも嫌よ」

「それに関しては、大将閣下が戻られて次第、閣下自身が話されるかと思います。我々は、今回はどう動くのか、詳細を頂いておりませんので」

「私も少ししか聞いてませんけど……ただ、彼女は北方にいるのではないかと、仰っておりました。

 その彼女を保護する為に、私たちも動く可能性はあります」

 マリさんに聞いたと思ったが、マリさんよりも先に、留守を守っていた中では最先任者であろう、ユストゥス大尉が答え、それを受けてマリさんも答える。

 先生は重ねてカゲトの所在も聞くが、そこに関しての回答は、芳しいものではなかった。どうやら、宮殿の中で、今も会議を行っているらしい。

「しかし、妙ですね。第四師団長の召還もあったとは。いくら現地の師団の不始末があったっていっても、ここまでかかるなんて、尋常のことではないでしょう」

「恐らくですが、陛下がこれまでの失態と不始末を責めに責めて、師団長閣下がひたすら詫び言を重ね続けているだろうとは、想像つきますがね」

 ここ、特対の副長格である――マリさんはあくまでカゲト個人に附属する副官であって副長ではないという――ベルゲングリューン大尉が髭を触りながらシュポーア中尉の見解に対して私見を話す。


 この会議室の椅子を借りて、よく分からないながらに皆の話を聞きながら待っていると、一人の男が、血相を変えてこの部屋へ飛び込んでくる。

「申し上げます! 第八師団より報告あり!

 此度の事象の保護対象と思しき少女を栄州は境町の付近にて発見したとのこと!」

「報告ありがとう、リーツ中尉。早速で悪いが、宮殿へも報告を頼む。我々も、もし続報があれば、閣下の元へ向かう故、宜しく頼む」

 リーツ中尉と呼ばれた男がもたらした情報は、件の少女――恐らくレイだろうか――の所在が判明したことを報せるものだった。

 ベルゲングリューン大尉はすぐに宮殿へ、陛下とカゲトに対して伝えるように指示を飛ばす。

 彼は指示を受けると、すぐにこの部屋から立ち去り、次の報告先へと向かっていった。


 私は一つだけ、先程の報告の中で分かっていないことを聞いてみる。

「……栄州って、どこですか?」

 武官達は呆れた表情を浮かべるが、先生は、私の現状が彼らにも分かるように少しの注釈を加えながら、その疑問を解いていく。

「ルナは結局、魔術以外のほとんどの教養をあまり学ぶ時間がなかったものね。

 ……この国の状況がまだ分かっていないのは、無理もないよ。栄州というのは、この帝国の最北端に位置する州。州っていうのは地域の単位でいいと思うわ。

 ここからだと……栄州まで、どれくらいだっけ?」

「最低でも、四日程はかかるかと。距離にして、およそ一千里」

 一千里ともなれば、前に教えて貰った距離感覚と重ね合わせると、四〇〇キロメートルほど……四〇〇キロメートル!?

 あまりにも遠いと、特にこの世界の移動方法では感じてしまい、若干顔が引きつる。


「何で、そんな場所に……レイが、いるんですか?」

「……レイというのか、彼女の名前は」

 いつの間にか、黒い大礼服に大量の勲章を携えた衣装を身に纏った男……この対策室の長が、この部屋へと入ってきていた。

「悪い、待たせた。改めて、今回起きた『特殊事象』の件に関して、話をしたいと思う」

読んでいただき、ありがとうございます。


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