18_魔術図書館で
2025.11.17 一部表現等追加・修正しました。
十数分歩いて図書館に着くと、その中を見て回ろうとする前に、私たちの周りには人だかりができてしまっていた。
ほとんどは先生と話したいようにみえる客人、もとい教授・教官陣であった。
他の生徒とは全く違う……言うなれば、分かりやすい服装をしている私たちが、何らかの理由でここに来るだろうと見越して、彼らもこの場所へ来ていたのだろう。
「おやおや、リカ先生……と、ルナさん、でしたでしょうか? この子が例の……」
「……それ以上は、ダメですよ、学長先生。
ルナはたまたまここにいて、ろくでもないことに巻き込まれようとしていた。そして、未だにその状況は変わらない。ただそれだけですから」
学長先生と呼ばれたこの男は、先生を見るなり話しかけてきた。会うなり機密らしき情報を喋ろうとするこの初老の男を先生は口で制止する。
だが、彼もそれは理解しているのか、それ以上のことは喋ろうとしなかった。
「ええ、分かっていますとも。彼女が貴女と同じような状況に陥ってしまうことを、貴女は危惧していることは。
それに、何よりも私たちは彼女を……ルナさんを、一時的にですが預かる身。ここで下手を打ってしまえば、私たちの信用がなくなってしまいますから」
この男はどこに対しての信用が、とは言わなかったが、恐らく私たちにだけではない。少なくとも私はそう考えていた。
「……とはいえ、気になるものです。リカさんも、そしてルナさんも。
珍しい色の属性というのは、何かしらの特殊な経緯がないと発現できないのでしょうか? ……気になりますね」
学長先生は、私たちの持っている色の属性を、どうやら羨ましく思っているみたいだ。何故そう思うのかは、私にはまだよく分かっていない。でも、そこまで特別視するものなのだろうか。
だが、そう思われるのは、そうそう起こることではないからだろう。
「まあ……その、魔術の属性と色の関係に関しては、学長先生以下、所謂普通の魔術師全員の言い分もある程度理解しますが。
きっと、私たち以外でも、起こりうることだと思いますよ。
今はまだ、私たち以外にいない……それだけですよ。私たちが特別だなんてことは、ないと思います」
どうやら先生は、私と同じように思っていたみたいだ。尤も、厳密にはどこまで同じ様に思っているかは分からない。
ただ、私たちは決して特別な存在ではないし、たまたま、何かが介在したことで生きているだけ。
そして、何かの介在によって、私たちの魔術の色が違うようになった……私はそう思っていた。
「尤も、誰がそれを発現するかは……“サイハテ”と呼ばれる大魔女様さえ、分からないことだと思いますが」
「サイハテ様は、色に関しては、何も残していませんから。その色の違いについて、解明に何ら寄与する……できるものではないと思います」
「なら、暫く無理じゃないかしらね。私たちと違う、本物の魔女の後継者が来ない限りは、ね」
「こほん……ともかく、リカさんも、ルナさんも、これから暫く、宜しくお願いします」
学長先生はわざとらしく咳払いして、一礼する。すると、足早にその場を去って行く。やはり、学長となれば、それなりには忙しいのだろう。
「さて……勉強、しよっか。
といっても、ここで私が一から教えようとすると図書館に迷惑がかかるから……とりあえず、初等級の魔術書だけ借りていこっか」
「どうして、ですか?」
「ルナだけ……しかも私が直接、だなんて、少しでも見られてみなさい。
私はなんだかんだこの世界で……帝国内では有名人になっちゃったから。嫉妬されちゃうかもよ?
それに、有名人ってのは難儀でね。教えていることが分かったら、あれだけいた他の教官たちも、どういうやり方なのか、聞きたくなるってものでしょ?
寄ってたかって来るかも……いや間違いなく来るね」
そう言われると、先程から少し喋っているだけでも、残っている教官たちは私たちの会話に対して、聞き耳を立てているのが何となく分かる。
先程、学長先生に声をかけられていたこともあって、随分と私にも興味を持つかもしれないと思うと、少し寒気がする。
既に、先生の動向が学内の注目の的となっているのは、納得できることだった。
そのような状態で、先生が一人のために一から魔術の基礎を教えるとなれば、悪目立ち所ではないだろう。
「……分かりました。多分、他の魔術師の学生たちも教えて欲しいとなってしまうでしょうし。
でも、それは教官室にいるときに、誰かが来たらバレるのでは?」
「それは多分、大丈夫よ。意外と教官室ってその辺りはしっかりとしてるし。
それに、他の子に比べてルナが全然理解できてないとなれば、何となく察するでしょうし。
……あと、もしここで勉強するとして、貴女は、この中で集中できるの?」
「……無理、ですね」
あっさりと認めると、先生は苦笑していた。
「全くもう……そこは、何も変わってないのね。じゃ、ちょっとだけ、そこで待っててね」
先生は近くにあった座席を指さして、私はそこに座って待っているように言われる。本棚の方へ振り向けば、先生の姿は人混みに紛れて消えたようになっていた。
暫くして、先生は数冊の本を携えて帰ってくる。五分もかからないくらいで戻ってこれたのは、先生も過去に読んだことがあったからだろうか。
「お待たせ。じゃ、次の場所、行こっか」
「今度はどこですか?」
「私たちがこれから暫く過ごす所よ。私の教官室、ね」
手を取られ、私たちは慌ただしく図書館を出て行く。
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