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転移少女は果てへと至るか  作者: 雰音 憂李
ⅱ 先生と生徒

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16_眼鏡

2025.10.17 改稿しました。

 妙な緊張感の張り詰めた中、先生の特任教官への承認式は終了し、先生の屋敷の方へ戻る頃には、夕暮れが光るようになっていた。

 屋敷へ戻るよりも先に、食事のために酒場を訪れると、玄関に何かが届いていた。

「これは……?」

「あたしが頼んでいた物だね……でも先に、ご飯にしようか」

 届いていた物は、一つの木箱だった。


 夕食を食べ終わった後、私の部屋に戻り、先生も来て二人で木箱の中身を見ようとする。

「中身は? 何が入っているの?」

「眼鏡よ……ルナの、ね」


 木箱を空けてみると、確かに眼鏡紐の付いた眼鏡がそこにあった。

「私の? 昨日の今日で、ですか? ……今は、前と違ってある程度は見えますけど。

 ……どうして視力が戻っているかは、よく分かりませんが」

 視力以外に私が自覚していたこととしては、なんとなくだが、少しだけ身長が小さくなっている気がする。一センチ程も変わるかは分からないけど。

「……それは、何かしらの奇跡が、この世界へ来るときに起きたのかも。あたしも、本当は重度の近視だったはずだし。

 ……もしかしたら、神様の仕業かも? なんてね」


 先生は答えをはぐらかすように言うが、私はあえて聞いてみる。

「でも……なら、どうして私のための眼鏡が、もうここに届いているんですか?」

「視力のことは置いておくとして……カゲトがルナの話を、正式に持ち込んできた時点で、多分そうなるだろうな……って思ってたから。

 何かサプライズをしたくて、ね。だから、一週間くらい前に伊達眼鏡でいいからって頼んでおいたの。

 あたしがこの世界に来たときに起こったことを考えて、もしかしたらルナもそれでいいんじゃないかなと思ってね」


 まるで予知能力にも見える程、先生の予測は鋭い。私が先生の元へ行きたいと言わなくても、いつか渡すつもりだったのかも知れない。

 きっと、この世界に来たのが私でなかった場合でも、自分のものとして使うつもりだったのだろう。



 貰った眼鏡をかけてみると、調整をほとんどしていないのに意外と馴染む。

 当然だが、過去に使っていたものとは、全く違う素材――恐らくべっ甲のフレームだろうか――だった。

 もう一つ違う点は、丁番がないことだった。少しごつく見えはするが、実用は可能だとすぐに感じた。


「特注したからね……あたしもかなり、無理をしたよ」

 そう言われて、少しぽかんとする。

「……昨日もここで話したと思うし、ルナも少しは実感していると思うけど、この世界は元の世界と比べると数百年単位で科学……というか、技術が発達していない。

 科学技術は、魔術が発達した分、発達していないし、その根幹の技術も発達しきれていない。

 不便と言うほどではないが、ルナもどこか気になることもあったんじゃない?」


 そう言われて、思い当たる節がないと言えばそれは嘘になるだろう。

 服も所謂和服が中心であり、西洋じみた……現代的な服装はあまり取り入れられていないと感じる。昼頃までいた式典の参列者は半数が大礼服と呼ばれた洋装の服に近いものであったが、もう半数は和装であり、市街には、和装の人間がほとんどだった。

 文字もそうだった。活版技術というものがあまり発達していないのか、カゲトの屋敷にいた頃、何も知らないのは困ると思ってか、晴香さんから与えられていた教本は活字でありながら、文字が読みづらいものもあった。


「その眼鏡も、丁番がないから折りたたみができない。その代わりに、紐があっただろう?

 それを首の後ろにかけるようにすれば、何かのはずみで眼鏡が外れたとしても落ちなくなるはずさ」

 耳の前後辺りにある長い紐を首の後ろに被るような形でかけると、不意に外れたとしても地面にガシャンと音を立てて落とすことはないと感じる。

 尤も、この眼鏡紐が切れなければ、だが。

「本当にこれ、頂いても良いんですか?」

「ああ。ルナのために作ったから、ね。もしかしたら、視界が気になっていたかも知れないし」

「……ありがとう……ございます」


 その時の私は、昨日久々に会ったときよりも泣いていたと思う。先生の、相変わらずの優しさに。

読んでいただき、ありがとうございます。


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