14_予言
2025.10.17 改稿しました。
あの後、私は酒場で、食事を取りながらではあったが、先生にこの世界についてより深く教えて貰った。
先生と一緒にいることで少し楽になったのだろうか、カゲトの屋敷にいるときよりも少しだけ眠ることができた。
翌日、先生には相変わらず心配されながらも朝食を摂っていた頃、一通の手紙が届いた。
手紙の封紙には、『端州侯爵 元帥府大将』と記されていた。それを見て先生は差出人を察していた。
封紙を開きその中身をみると、随分と急ながら、私たちに、帝国の首都たるこの桐都の心臓――宮城へ参内せよ、ということであった。
皇帝への謁見もあることから、どうやらカゲトも付いてきてくれるらしい。
「……もう、目を付けられていたんですか?」
「昨日も言ったでしょ? あたしは先の戦争で、既に能力を見られてるからね……魔術以外の面も。
ルナは、カゲトが陛下に報告した段階で、大方目を付けられてるわ。あたしが……言ってしまえば、やり過ぎたから。
……といっても、今回は何かがあった訳でもないんだけどね。あたしが昨日の取引の結果、教官をやることになったでしょう?
それの認証式をやるらしい……だから来てくれって。変よね、たかだか一教官相手に認証式をやるなんて。
……カゲトは多分、お目付役みたいなものね、お互いの」
「お互いの?」
私たちを文字通り――どうやら先生も同じようだった――保護したのはカゲトであるから、その役割は分かる。
だが、皇帝側の保護者的立場とは、どういうことなのだろうか。
「……これはあくまで推測にはなるけど、彼らには、あたしたちを呼ぶと決めたのに、どこかであたしたちへの警戒感があるんだろうね。
ルナやあたしが何をやるか分かったもんじゃない……政府や宮中は、少なくともそう考えてるってことでしょ。
一方で、あたしたちからすれば、余計な諍いなんかに巻き込まれる気はないし、あたし自身、これ以上はやらないと最初から言ってる。
だから、陛下の妹を……あのプリンセス様を妻にしているカゲトも出席することになった、と思う。
……ある種の緩衝材のような役割として、ね」
若干のいらつき、というか言葉の節々に棘が見えたが、あえてスルーする。
とはいえ、皇帝の義弟かつ私たちの保護者枠として、カゲトが適任であることは理解した。
ただ一点、引っかかるのは、何故私まで呼ばれたのだろうか、ということだった。
「なら、どうして私も呼ばれたんですか?」
「……ルナも呼ばれたのは、それだけ覚えておきたいってことかもね……政府、いやこれは陛下か。
カゲトがルナのことを最初に話した段階で、貴女のことをひと目見ておきたいと思ったんでしょうね」
この世界は、元の世界と比べて科学技術が発展してないみたいで、映像はおろか写真の撮影技術すらないらしい……そう、昨日のうちに聞いていた。
だからこそ、この国の皇帝陛下は、私に何か思うことがあって、ひと目会って、見ておきたいということだと思う。
「でも……訳が分かりません。『青い炎』というだけで、陛下が、魔力の使い方すらまだろくに知らない小娘と会おうという気持ちになるなんて」
「……彼ら、というか皇帝陛下は、外から来たあたしたちを、ある種の特異点と捉えてるみたいよ」
特異点とみられていることに、私は困惑を隠せなくなる。だが、その顔を見た先生は、呆れた声で言葉を続ける。
「……こんな与太話の類のこと、まだカゲトは言ってなかったのね。
あたしもカゲトから聞いた話だし、御伽噺みたいなもので、全く以てそれが本当のことだとは思ってないんだけどね。
……この世界は魔力や魔術があるでしょ。そうなれば、生まれながらにして魔力を持つような人間の魔術師だけじゃなく、魔力を生まれながらにして操ることのできる魔女というものもいる訳だ。
それが、何でも、帝国内のどこかにいるらしい。場所はカゲトも知らないみたいだから、恐らく宮中のごく一部か、陛下くらいしか知らないのだろうけど、ね。
……その魔女が、どうやらとある予言を残しているらしい」
「それが、私と何の関係が?」
「あたしたち、よ。彼の魔女曰く、『外の世界より、次なる魔女は来たる』ということ、だそうだ。
……たまたまだけど、あたしたちは別世界から“何故か”この世界に来た。それが、この魔女の残した予言と、あまりにも合致し過ぎている。
カゲトによれば……だけど、今の陛下は、この魔女の予言を随分と信奉しているらしくて、あたしたちがそうなんじゃないか……つまりは、あたしたちが魔女になり得る存在なのではないか、ということを気にしているんじゃない? あたしには何を言っているか全く分かんないけどね」
推論を述べていくにつれ、段々と言葉が雑というか、投げやりになっていく先生。しかし一息つくと、先生はまた話し始める。
「ともかく、魔女かどうかはさておき、ルナの人となりと私の状況を、陛下以下政府や宮中の人間も知っておきたいから……ってことじゃない、かな」
「……私のことを、ですか」
「勿論、相手の真意は分からないわ」
先生の推論を聞く限り、何となくだが私を縛ろうとしているように見える。
「……顔に、『嫌』って書いてあるわよ。分かるけど、ね。でも、少しは割り切りなさい」
「……そりゃ嫌ですよ。これ以上、勝手に、何かに縛られるなんて」
「なら、今度、一人で旅でもしてみるかい? 今のところは、帝国内なら、国境地帯に行かない限り、基本的には安全だから。
もし一人が嫌っていうなら、あたしのところから、誰か一人は貸してあげても良いけど」
「旅、ですか」
急な提案に驚かされる。元々お互いにインドア……少なくとも私はそうだったから、出てくることのない発想であった。確かに、この世界を何も知らない私にとって、この国の中を巡ることは大変でありながらも、有意義になる気がする。
ただ、先生のところ、というのはよく分からなかった。なんのことだろうか。
「……と、いっても、最近は国境地帯以外にも、魔獣が出現しやすくなってるみたいだし」
「師匠、ルナさん。カゲト様がお二人をお迎えに来られました」
この先の話をしていたら、先生のお弟子さんの一人がそう告げてくる。先生はその言葉を聞いて頷き、立ち上がる。
「……それじゃ、この話はまた後でね」
この世界は、少なくとも元の世界……私が生きていた場所に比べ、随分と物騒だと感じた。魔獣とというゲームでしか聞いたことのないものは、どういうものなのだろうか。まだ聞いてみたいこともあったけど、もう迎えが部屋の外に来ていた。
再び、あの馬車に乗って、城下町から、今度は城内へと向かう。
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