表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転移少女は果てへと至るか  作者: 雰音 憂李
ⅱ 先生と生徒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/29

13_人格

2025.10.17 改稿しました。

 二人の話には、マリさんは呆然として全く整理の付かない様子であった。

「……すみません。ちょっと、整理したいので……自室に戻りますね」


 そう言って話を聞いていた彼女が自室へと戻っていき、先生と二人きりになると、先生は私にこう聞いてきた。

「ルナ、この世界に来て、どれくらい経った?」

「……多分、一週間くらいだと、思います。でも……」

「どうしたの? もしかして、あの子のこと?」

「はい……先程、話をしていたときにも名前を出しましたけど、レイも、ヨミも、『中』にいないんです。どうしてかは分かりません。

 でも、ここへ来る数日前から、私だったか覚えていなくて……だから、どうなのかは分からない、ですけど」

「……となると、もしかしたら、この話、まだ終わらないかもね」


 まだ終わらない、とはどういうことなのだろうか。私は理解できないでいると、先生が補足をしてくれる。

「仮にだけど、三つ分の何かが入っている容器が、何かしらが原因で突然壊れてしまったとき、一つ分だけその中にかろうじて残っていたとしても、残りの二つはどこへ行くのかっていう話……よね。

 それをルナの場合で考えると、多分だけど、ルナ以外の誰か……他の人格がこの世界に形を得て、来ていたとしても、そうおかしいことじゃないと思うわ」


 私の中に居た他の人格が……例えば、レイが、この世界に来ているかも知れない。

 それを少し考えるだけでもぞっとする。


「……マリのさっきの反応を見る限り、どうせ、カゲトにも話してないでしょ? このこと」

「……当たり前、です。私の、今までの経験上、全くの見ず知らずの人に対して、全てを馬鹿正直に話して、まともな反応が返ってきたことないから。

 ……どうせ、誰にも、完全には理解されませんので」

「だからって、ねえ……貴女も、もう大人でしょうに。

 ……嫌なのは分かるけどね。自分の昔の、探られたくないことを、わざわざ言うことは。それに、完全に理解することなんて、当事者以外にできるわけ無いわよ」

 先生は私の思いを切って捨てる。当事者同士でも理解できないことが多いものを、当事者以外にも理解を求めても無駄だと思ってしまう。


「……そもそも、こうなったのは、先生の責任にもなるんじゃないんですか?」

「どういうことよ、それ」

 気がつけば、私が心の中で思っていたことが、思わず声に出てしまっていたようで、先生が冷たい声で返してくる。

「まあ……いいわよ。少しはあたしにも責任がありそうだし。ところで、さっきの話に戻すけど、私も知らない子いなかった?」


 元々、私が先生に人格として存在していることを知らせていたのは、元々からいる主人格である私、ルナと、レイの二人だけだった。

 でも、実際には、先生には気付かれていないだけで、一つの人格と見なしうる存在は他にもう二人いた。

 そのうち一人は、私がここへ来る遥か前に統合していたが。


「ヨミのこと、ですよね?

 ……元々彼女は基本的に、表には出ない子だったので、先生が知らないのも無理はないかもです。あの子、ろくに生活できませんでしたから。

 でも、先生がいなくなった後、よく表に、出るようになってました。

 ……先生とは、私が中学校を卒業してからは、数ヶ月に一回ほどしか会ってなかったので、私たちは、先生がどう苦しんでいたのかは分からない。

 ……けど、先生が、貴女が身勝手なことをしたから、こうなっているんだと思います」


 私の、自身でもあまりにも無責任だと思うような言葉を聞いても、先生は不機嫌にはならなかった。少し、その当時を冷静になって考えていたのかも知れない。

「……ってことは、あたしがいなくなってから、ルナのもう一つの人格……ヨミが身体を使うことが増えて、彼女が精神的に、より脆くなっていったのかな」

「元々、私たちの中でも、私以上に鬱々としやすいというか、希死念慮に苛まれていたのは私も知ってました。ノートにも、沢山泣き言を書いてたのを覚えてます。

 それに、私たちは一人であろうとし過ぎた……彼女たちにも、私のフリをしてもらっていたので」

「慣れない生活の中で、一つの思いがどんどん増幅していたのかもね」

「私も、先生がいなくなって以降、色々あって不安定になることが増えて、よく中に引きこもることが増えてたので……私が四年も正気を保っていられたのは彼女たちのおかげです。多分、こうなったのは、彼女が原因なのでしょうが」


「……レイは? 彼はどうだったの」

「あいつのことは……私もあんまり知らないから。お互い、不干渉というか……あいつが、私の身体のこと、あまり好きじゃなかったから。

 ヨミが、もし”そう”なのだとしたら……まだよく分かってないですけど、先生の推測通りだとすれば、文字通り、分裂したってことじゃないですか?」

 先生は、私のふわっとした考察を聞いて、少し考え、私の方を向いて、あえて別のことを話し始める。

「貴女、どうせ何も、この先のこと、考えてないでしょ? ……この後の話だけど、私と一緒に付いてくる?」

「先生が行くところって……魔術の学校に、ってことですか?」


「そう。さっき、カゲトと話していたことだけど、陸軍の魔術部と、魔術本部っていう、所謂魔術師の総本山的存在が、同じ校舎で学校を開いているの。そこに教官として行くって話ね。

 ルナは今日まで、カゲトの差配で外出禁止だったでしょうし、この世界の人がどう暮らしているか知らないでしょ?

 ……ここ、桐都に住んでいる人が、決してこの世界での一般的な人々ではないけどね。それでも、参考にはなるんじゃないかしら。

 それに、貴女の魔力がどんなものなのかを知るためにも、行ってみる価値はあると思うわ」


「……それって、大丈夫なんですか。また、目を付けられたりしませんか?」

 恐る恐る聞くが、先生は平然と、冷めた声で答える。

「もう、とっくに目を付けられてはいるわよ。そうでもなきゃ、カゲトも、ルナの保護を対価に数週間でも良いからって、わざわざ在野の人間を復帰させようとしないでしょ。あたしは、魔術本部や陸軍とは色々あったから、危険視はされているだろうけどね。

 ……でも、簡単に向こうの評価は変わらないってことよ。持ちかけた以上、あの男は後ろ盾を買って出るでしょうし……」


 どうやら、この国の内部には、あの大将閣下以外にも、随分と先生の能力を買っている人がいるらしい。

 先生も、完全にカゲトを信用しているわけではないだろうが、使えるものは何でも使うつもりだと思った。

「……もし、私の出した条件が呑めないなら、やるつもりはないから。もしダメだと言われるなら、いっそルナを連れて逃げるつもりよ」

 許可されないならやらない。先生の姿勢は私にとっても、非常に有り難いと思う。でも、先生がこれほどに、教え子思いだったとは思わなかった。

「……先生に付いていきたい、ですけど……私はその場合、どこにいればいいんですか?」

「そこは大丈夫よ。前にも教官として少しだけ、あの場所で教えたこともあったけど、その時に用意された教官室はそれなりの広さだったし、二、三人は一緒に生活できそうだったから、大丈夫よ」


 先生は、貸与される教官室の広さとあたしの待遇次第だけど、と付け足す。どちらにしても、先生が過去に経験したことを踏まえたその言葉は、私を安心させるには十分だった。

「……もしかして、私も、授業出た方がいい、ですか?」

「……そりゃ、ねえ。とは言ったって、一応各教官の了解も必要だし、何より聴講生としての登録も必要だしね。

 だから確実にとは言わないけど、勉強できる環境が作れたら、やった方がいいわよ。

 それに、授業がないときは、私が前に、学院にいたときに作ったノートがあるから読んでみてもいいかもね……ちゃんと読めるかは保障しないけど。

 あとは、初等の魔術書は学院の図書館にあるから、それを借りてきて読むのも良いと思うわ。

 ただ、この世界の本って、言葉や表現が少し違う部分というか、どちらかと言えば、向こうで言う古文っぽいから、簡単に覚えられるものじゃないけど。

 ……その辺りも私のノートに書いてあるからね。分かんないことがあれば、時間があるときだったらいつでも聞くから」

「……ありがと。でも、また、勉強かあ」

「少しは頑張りなさい。自分を守るためにも」

 勉強、と聞いて私は少し気落ちしていた。なんというか、勉強は身が入らないというか、あまり好きではなかった。


 そんな話をしていると、太陽が完全に沈んだようで、夕陽の輝きが部屋に差し込んでいたのが、ふと外を見ると、夜空の星々がキラリと光る。

「もう、こんな時間帯ね……本来なら、夕食のために出かけるのも良いんだが、ルナもいるしね」

「どうするんですか? 今から出かけるんですか?」

「……いや、今日で暫くあの酒場もお休みだし、最後の晩餐というほどじゃないけど、どう?」

 酒場と聞いて、若干、過去のことを思い出して少し嫌になる。だが、先生と食事することは滅多になかったのもあって、前向きに捉えていた。

「顔に出てるわよ、嫌かもって。でも、何も食べないよりはマシだよ?

 それに、うちの酒場はそんなに人もいないし、そう騒がしくないわよ」

 先生はそう言って、私を引っ張っていく形で私を連れて行った。

読んでいただき、ありがとうございます。


よろしければ、評価をお願いします。

またご感想、ご意見などがあれば宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ