11_決断
2025.9.28 改稿しました。
(幹部職って……そういうこと、ですか)
先程から続く二人のやり取りの中で、晴香から聞いていた話と合わせて考えていたルナは、ようやく合点がいった。
最高級の軍人と――尤もカゲトの実力はほとんど知らないが、直接やり合える実力を持ち合わせた魔術師に、かつて私が教えて貰っていた先生はなっていた。
「……先生、この世界のこと、色々と教えてくれませんか? 私は、先生と一緒にいたい」
「いいわよ、私はね。でもね、この軍人さんが気軽に了承をするかは、分からないから、ねえ……。
ねえカゲト、ルナを私のところに引き取っても大丈夫かしら?」
リカはルナの言葉を二つ返事で引き受け、そのことをカゲトに対して了承を求めるが、提案された彼の表情は曇ったままだった。
「……俺は構わん。陛下も、急な呼びかけに応じるのであれば大丈夫であるとは思う。だが……」
「あら、帝国政府も、陸軍も、異世界に来て日の浅い彼女を、同じ境遇の者が引き取ることが、癇に障ることなのかしら」
「そういうことではない。ただ、君を惜しむ声は魔術本部の側からも、陸軍の側からも出ていることは確かだ。だから、取引したい」
「……どういう類のものかしら。現役将校として前線に行け、なんてものはお断りよ」
「帝国陸軍の魔術科も、帝国魔術学院も、魔術での実戦を教えられる人材がそう多くない。
君はその昔、学校で教師をしていたというじゃないか。それに、監軍部での経験もあるだろう。
……陸軍魔術科、もしくは魔術学院のどちらかで良い。二週間、集中講義の形で、若い魔術師を教えてやって欲しい。これではどうだろうか?」
監軍部とは、陸軍内部における教育担当部門のことである。リカはほんの一時期だが、そこでの経験があった。
「……私は構わないよ。どうせなら、両方とも合同で講義をやればいいじゃない。人に何かを教えるのは好きだし。
でも、上層部の政治的判断で許されないかも、なんてねえ……」
リカはカゲトの条件を承諾するが、尚も呆れた表情をしていた。
「一応、陛下には、現役復帰の願いを出す予定ではあるが、よいか?」
「……予備役のままではダメなのね。陸軍所属の魔術師を教えるとなれば」
「恐らく……いや確実に、な。リカのような優秀な魔術師が民間にいることは、どうしても国家としては頭を悩ませるものでね。
君が復帰することになれば、ルナがかつての君みたいに、極端な監視のされ方にはならないだろう。軍や政府も、君を買っているからか、喜びが勝るであろうよ。
それに、私の元に彼女をこれからも置いておくとなってしまえば、彼女は、彼女自身が生きるために、あの時の君と同じような境遇になるやもしれん」
カゲトの最後の言葉は、リカに決心をさせるには十分なものだった。
「……分かったわ、二週間でいいのかい?」
「ああ、無理はしなくていい。多分、学院中心になるとは思うが……講義の内容は後で来るだろう」
そう言いつつ、カゲトは予め持ってきていたと思われる書類をリカに差し出す。
「持ってきてたのかい。随分と、用意周到というか、ずるいというか……まあいいや」
一時的とはいえ、現役軍人に復帰するための復帰願と思しき書類にリカはサインし、近くにいた酒場のスタッフを呼び寄せ、暫く留守にすると伝える。
「ここ、閉じるのか?」
「閉じるつもりはないよ。暫くは店主がいない、毎日開けない酒場になるだけさ。
……それに、旅人の酒場なんて、ずっと開けるものじゃないわよ。それに、こういうもののやり方は、私にあまり向いてなかったみたいだし。元々、余生の道楽に近いものだったからね」
「そうか……こういう雰囲気、好きなんだがな」
「不定期で良いのよ、ここは。
……そういう惜しむ声は、一度も利用したことのない人には言われたくないね」
事実上、開店休業状態になるこの酒場を物悲しむカゲトに対して、リカは事実をぶつける。
「……ギルドはどうするんだ?」
「あれは、関係ないでしょ。マリが現役でも居続けることができる体制になっているし。それに、ここの弟子共の食い扶持である以上、簡単に潰す必要はないでしょ」
ルナは一人、二人の大人の中でしか理解のできない話を聞かされ続けていた。
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