10.意外な一面
最後に呼ばれたのはラーシュとリンネアだ。
まるで生きた心地がしない。気分は祝賀会ではなく公開処刑……。
リンネアは小さくため息をついた。
しかし突然、彼が右腕を出してきたので、何かされるのではないかと怯えた彼女は、咄嗟に体をのけぞらせる。
「あ――」
せっかくここまで転ばずに来たのに、バランスを崩して踵でドレスの裾を踏みつけ、視界が斜めになった。
衝撃を覚悟してぎゅっと目をつぶると、次の瞬間、何かしっかりとしたものが背中に触れ、優しく支えられる感覚が広がる。
包み込むような温もりがあって、少しの間、時間が止まった錯覚に陥った。
「……っ」
ゆっくりと目を開けると、すぐ近くに厳格な表情を崩さないラーシュの顔があり、はらりと垂れた一筋の前髪がリンネアの頬をくすぐった。
その瞬間、心臓が口から飛び出そうになる。
ラーシュの腕は彼女の背中を支え、もう片方の腕は肩に触れている。完全に彼に抱き留められている状況だ。
かあっと一気に頬が熱くなるのを感じる。
「何をしているのだ、そなたは」
ラーシュは少し怒ったような、あるいは呆れるような口調で言って、リンネアをそっと床に立たせた。
「い、いえ、あの、斬られるか殴られるかなと思って避けちゃいました」
少し声が震えてしまったのは、まだ胸がドキドキしているせい。
間近で見ても、粗のない完璧な容姿はいささか卑怯では?
「そんなことをするわけないだろう。余の腕に手を添えて歩けという意味だ」
ぶっきらぼうに言ったラーシュは、再び右腕を先ほどのように差し出した。
「あ……ああ、そうだったんですね。申し訳ありません」
リンネアは、おそるおそる彼の腕に自分の手を添える。
ラーシュの氷属性オーラのおかげで、頬のほてりも急速に冷めていった。
歩き出した彼の歩調はゆっくりで、どうやら彼女に合わせてくれているらしい。
冷血漢でも意外な一面があるのだなと感心する。
「陛下の腕って温かいんですね。流れる血すら凍ってるなんて聞いたから――」
「そなたは余を馬鹿にしているのか?」
こちらを流し見た目はやっぱり鋭くて、優しさのかけらは微塵もなかった。
どうしよう、また怒らせてしまったかもしれない。