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5.刺客

不測の事態に備えて更に護衛を二名増やされた。私達は二台の馬車で向かうことになった。


不測の事態······、王都から馬車で四日の道程の修道院へ行くだけなのに。


ロレッタ様が修道院に行くということが一部の人には知られていて、ロレッタ様は何かしら思惑のある人達の標的になってしまっているように思う。

既に安全な身代り役とは言えなくなっている。


新たに加わった騎士のフリード様は治癒魔法が使えるらしい。

それは治癒魔法が必要になる事態も想定しているということよね。


護る方も護られる方も命がけということよね?


もう一人の騎士クレオス様も特殊能力を持つ人のようだけれど、それが何かは私には教えられていない。


それにしても、皆様美々しい方ばかり。流石公爵家!?

それともこれも全てロレッタ様のお気に入りの方々なのかしら?


ロラン様は金髪碧眼、フリード様は黒髪碧眼、クレオス様は栗毛の緑眼、そしてアマンダさんは銀髪紫眼。


それぞれが美しく、しかも強い。まさに美の饗宴!? なんという贅沢。


本当にロレッタ様って、何が不満なのだろうか?

それとも不満はないけど、単に欲望のままに行動しているだけなの?


それに比べて私は地味だなぁ。まあ、修道女になるのだし、そこは別に関係ないわ。


出家前にこんなに眼福でありがたいとしか言いようがない。



馬車もグレードを上げてもらえたのか、前回の行程よりも早く、そして乗り心地も良い。揺れが少なくて疲れにくい。


そのおかげか悪路でも馬車酔いもしないで済んだ。


ここまでの配慮に公爵様には感謝しかない。


私達は前回の宿とは別の所へ泊まることになった。



***



深夜、物音がして目が覚めた。


剣がぶつかり合う音が聞こえ、咄嗟に身構えた。


「ぐっ···」

「ロラン!」


ドアの外でアマンダの緊迫した声が響いた。ロラン様が怪我を負ったのだろうか。


ドアが勢い良く開かれて、複数人が部屋へ雪崩れ込んできたような気配がした。

私は急いで灯りをつけ、 護身用に渡されていた小剣を握りしめて構えた。


フードを被った敵らしき者が三名ほどいた。アマンダとフリード様達は激しく敵とせめぎあっている。


ロラン様は治癒魔法で回復したのか、部屋へ駆けつけるとすぐさま応戦に加わった。


「こちらへ」


クレオス様が私の手を引いた。


「エディット様、そいつはクレオスではありません、離れて!」


アマンダが叫んだ。


「え?」


フリード様がダガーを男の腕に放った。


「ウッ···」


男が怯んだ隙に、手を振りほどいて男から遠ざかった。


では、本物のクレオス様はどこに?


二人、三人と敵は次々に斬り倒されてゆく。

残り一人をロラン様が壁際に追い詰め、ドサリと刺客が床に崩れ折れた。


「くそっ······!」


クレオス様を装った男は窓ガラスを打ち破って外に逃げた。


すかさずフリード様はダガーを数本放った。手応えがあったので敵は傷を負った筈だ。


フリード様は指笛で呼び出すと、追跡用の青い猫を放った。猫には翼がついていた。



「エディット様!」


アマンダが駆け寄り、私に怪我などが無いか確かめている。紫の瞳が凛々しく輝いていた。


「クレオスをすぐに見抜けなくて申し訳ありませんでした」


フリード様が謝罪した。


「どうやって気がついたのですか?」

「臭いです」


青い飛び猫が異変に気がついたのだ。



命がけで守ってもらって本当に申し訳なく、そしてありがたくてしょうがない。


何かお礼ができたらと思い、夜明け前の宿の厨房を借りてビスケットを焼かせてもらった。


聖フランシーヌ女子修道院で作られているものに似せたものだ。


「このようなものしかお礼ができないのですが······」


ビスケットは疲労回復と守護を込めて焼いた。


「エディット様が焼いたのですか?」

「はい。私の母は聖フランシーヌ修道院の聖女のうちの一人でした。だからそのレシピに近いものになっていると思います」


私の母を見初めた父が無理矢理還俗させて婚姻し、その結果私が生まれた。

きっと母は父を愛してはいなかったと思う。母はまだ若く、18歳でこの世を去った。

私は母親の面影も知らず、形見のノートにレシピが記されていたのを見つけて自分で覚えたのだ。


「とても香ばしくて美味しいです!」

「疲れが吹き飛びますね」

「ではエディット様は聖女の血を引いているのですか?」

「はい。でもフリード様の治癒魔法のようなちゃんとしたものではなくて、おまじない程度のものです」

「だから、修道女になりたいのですね?」

「そうです」


ロラン様とアマンダは、年若い私がなぜ修道女になりたがるのか、今まで理解できなかったようだ。


ハウアー公爵様に自分の血統を伝えなかったのは、王族や権力を持つ人に利用されたくなかったからだ。

私が行く予定の聖フランシーヌ女子修道院は、母がいた時代とは違って、聖女の力を持つ者は正当に護られ、権力に利用されることなく独立した場所になっていると聞いている。


「私は母ほどの力は無いので、普通の修道女ですよ」


私も自分で疲労回復の祈りを込めたビスケットを頬張った。


修道院のビスケットは、大聖女のような力のある聖女達によって作られているので、奇跡を起こすほどの効果があるのだろう。


私の作るものは日々の疲れを癒す適度の効果しかない。


それでも修道女として何か手伝えるのならそれで満足なのだ。




青い物体が眼前を横切って、フリード様の前で止まった。


フリード様が昨夜放った青い飛び猫だった。


「お帰り、ご苦労様。疲れが取れるからお前もお食べ」


フリード様は私の焼いたビスケットを青い飛び猫に一口差し出した。


猫は口から蠢くものをベッと吐き出して、その代わりにビスケットを口に入れた。


吐き出され、分厚い絨毯の上で蠢いていたものは、男性の姿になった。


「やあ、クレオス」

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