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2.身代わりのための特訓

公爵様から説明と依頼を受けた父は私が修道院へ行くことを快く承諾した。

修道院へ入るための支度費用と寄付金は公爵家が全て出すという条件の他に、子爵家への特別な手当ても出るようだ。


降ってわいたような幸運に、父と義母は満足気だ。


元々私は見せかけの跡取り娘でしかない。父も後妻の娘である妹を本当は跡取りにしたいのだということは以前からなんとなくわかっていた。


私はその事で虐げられることもなく、いつかその日が来ることを予期して心の準備をして来た。


家人もみなわかっていたけれど、誰もその事を口にしなかっただけだった。


私のひとつ下の義妹フランソワは泣いて詫びたが、私の便宜上の婚約者であるゾーイ男爵令息も、義母も「ありがとう」と私を送り出した。




ハウアー公爵家にロレッタ様の婚約者であるフィレイソン侯爵令息が招かれた。


私は一応彼の顔や声を知っておいた方が良いと、応接間の隠し小窓から覗くことを許された。

こちらからは見えるけれど向こうからは見えないように加工されたスペースだった。


フィレイソン侯爵令息は中肉中背のやや神経質そうな青年だ。

奔放なロレッタ様のお気に召さないタイプではあるだろうなと思えた。


公爵様から事情説明を受けて、婚約者に逃げられた22歳の彼は婚約破棄を受け入れた。


「ロレッタがデビュタント前で良かった」


彼はそれだけ言うと公爵邸を去った。ロレッタ様への未練は微塵も無いようだ。


金髪碧眼で見目も悪くないので、新しい婚約者はすぐ見つかるのではないかと思っている。

後年、彼が同じく婚約者を失った王女殿下と婚約することになるとは誰もまだ知らない。




ロレッタ様の兄イーサン様には「君が本物のロレッタだったら、どんなに良かっただろう」と言われた。


公爵様までうんうんうなずいている。


ロレッタ様、あなたって一体······!?


銀髪と蒼い瞳が似ているだけの公爵令嬢に、私は共感することができそうにもないわ。


ロレッタ様の身代わりとして、ロレッタ様の交友関係や普段の彼女の習慣や特徴的な仕草、癖などに食い違いを防ぐために、公爵邸でロレッタ様についての予備知識を身につける期間を設けられた。


筆跡も似せて書けるように特訓した。


また、私はロレッタ様よりも痩せていたのでもう少しふっくらした方がより似る筈だと、食べる量を増やすように言われた。


公爵家の料理や菓子はどれも素晴らしく美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまうので、意識して太る努力はしなくても自然に肉づきは良くなった気がする。



彼女の専属侍女や護衛らから教えを受けるなか、ロレッタ様の評判は家人の間でも良くないことがわかった。


皆、「ロレッタ様は」と溜め息混じりに語るからだ。



家人にここまで嫌われるお嬢様って······、一度お会いしてみたいわ。



ロレッタ様は、自分の侍女や護衛も連れずに駆け落ちして大丈夫なのだろうか?

駆け落ちの相手である侯爵令息様の従者がロレッタ様の面倒を見ているとしたら、さぞかし難儀そうだ。


駆け落ち相手が根をあげてとか、愛想つかされて帰ってくるとかは無いのかしら?



なんとか私はひと月の特訓期間を終えた。



「ではよろしく頼む」

「お任せくださいませ」


私はロレッタ様の侍女と護衛と共に憧れの聖フランシーヌ女子修道院へ向けて出発した。

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