表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の谷のクラフトマスター ~癒しの転生スローライフ~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/93

第九十章「木霊の手紙2」


 職人の森は光の谷の西側に広がる、素材の宝庫だった。木工職人や染色師たちが材料を求めて訪れる神秘的な場所で、年季の入った木々が静かに佇む聖域だった。


 エマは森に足を踏み入れた。初夏の森は明るい緑に満ち、木漏れ日が地面に斑模様を描いている。いつもなら心が安らぐ光景だが、今日は奇妙な緊張感が彼女を包んでいた。


「もしかして、本当に三日前の自分に会えるのかな……」


 森の奥へと進むにつれ、木々の間から漂う光が変わっていくのを感じた。まるで時間の流れが緩やかになったかのように、周囲の空気が重くなる。


 そして林道の先、小さな開けた場所で、エマは足を止めた。そこには若い木の精霊が立っていた。人の形をしているが、肌は淡い緑色で、髪の代わりに小さな葉が風に揺れている。目は深い森の色をしていて、そこには太古からの知恵が宿っているようだった。


「待っていた」


 精霊の声は風のささやきのようでありながら、はっきりとエマの耳に届いた。


「あなたが、手紙の差出人? でも、三日前の私……という意味がわかりません」


 木の精霊は静かに微笑んだ。


「時間は川のように一方向に流れているわけではない。時に渦を巻き、時に分岐する。あなたは三日後、また同じようにここに立ち、今度は手紙を書く側になる」


 エマは眉をひそめた。理解しがたい言葉だったが、心のどこかでその意味を感じることができた。


「なぜ私を呼んだの?」


「あなたの心の中には、言葉にならない想いがある。それを形にしてほしい」


 エマは自分の心の奥を探るように、胸に手を当てた。言葉にならない想い??それは確かに彼女の中に眠っていた。前世から引きずる何か、あるいは今世で感じている何か、自分でも説明できない感覚。


「どうやって形にすればいいの?」


「あなたの手と心が答えを知っている」


 木の精霊はそう言うと、手を伸ばした。その手のひらには小さな種が置かれていた。


「これは何の種?」


「言葉を超えた種だ。これを育てながら創りなさい」


 エマは種を受け取り、不思議な温かさを感じた。その瞬間、精霊の姿は薄れ、代わりに一陣の風が森を駆け抜けた。残されたエマは、手のひらの小さな種を見つめながら、何を作るべきなのか思いを巡らせた。


---


 工房に戻ったエマは、窓辺に精霊から受け取った種を植木鉢に植えた。何が育つのかわからないが、何か特別なものであることは感じられた。


 そして、「言葉にならない想いを形に」という課題に取り組むことにした。


「言葉にならないものを、どうやって形にするの?」


 エマは前世での制作を思い返した。当時の自分は常に言葉で説明できるものを作っていた。クライアントへのプレゼンテーション、企画書、脚本??すべて言葉で明確に伝えることが求められていた。


 しかし、光の谷での創作は違う。素材と対話し、時に自分でも予想しなかったものが生まれることがある。そこには言葉を超えた何かがあった。


「言葉を超えた織物……」


 エマは素材選びから始めることにした。羊飼いの丘で取れた最高級の羊毛、月詠みの花の蜜で染めた糸、そして森の木々から集めた柔らかな葉。これらを組み合わせれば、特別な何かが生まれるかもしれない。


 作業を始めると、エマはいつものように織機に向かいながらも、今回は頭で考えるのではなく、心で感じることに集中した。何を作るかという明確な計画はなく、ただ手が導くままに糸を選び、織り進めていった。


 一日目が終わる頃、窓辺の植木鉢から小さな芽が出ているのに気がついた。たった一日でこんなに育つものなのだろうか。エマは不思議に思いながらも、これも試練の一部なのだろうと受け入れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ