第七十七章 裏庭の小さな奇跡
早朝の空気が澄み渡る光の谷で、エマは裏庭のハーブを収穫していました。露が宝石のように輝く中、月詠みの花の根元に不思議な実を見つけます。拳ほどの大きさの果実は、七色の光を帯びており、触れると微かに脈動していました。
マリーお婆さんが朝の挨拶に訪れ、その実を見て目を丸くします。
「まあ! これは伝説の『虹の実』ですよ。とてもめずらしいものです」
お婆さんの話によると、虹の実は満月の夜に一瞬だけ完熟し、その時間を逃すと一晩で腐ってしまうのだそうです。しかも、完熟の瞬間は果実ごとに異なり、見極めが難しいとのこと。
エマは村の子供たちに声をかけ、観察記録をつけることにしました。毎日、朝と夕方に集まって実の様子を確認し、色の変化や香りを細かくノートに記していきます。
「エマさん、実から小さな虹が出てる!」
子供たちの目は輝いていました。トビアス、エリカ、ハンスの三人は、順番で当番を決めて熱心に観察を続けます。
一週間が過ぎた頃、エマは実から漏れる光に規則性があることに気づきました。光の強さが波のように変化し、その周期が徐々に短くなっているのです。マリーお婆さんに相談すると、きっとそれが完熟時期を予言する合図なのだろうと。
「満月まであと三日です。その時を逃さないように」
エマと子供たちは交代で夜も実の観察を続けました。ついに満月の夜、実は七色の光を強く放ち始めます。
「今です!」
エマの声に合わせ、マリーお婆さんが「祝福の雫」をかけると、実は柔らかく輝きながらすっと枝から離れました。甘い香りが庭いっぱいに広がります。
その夜のうちに、村人たちが集まって虹の実のお披露目会が開かれました。エマはマリーお婆さんの指導で、実を薄くスライスして特製のパイ生地で包み、伝統的なフルーツパイを作ります。
「こんな美味しいものを食べたのは初めて!」
子供たちの歓声が上がりました。パイを口に入れると、七色の光が体の中に広がっていくような不思議な感覚。それは確かな幸せの味がしました。
翌朝、エマが裏庭を見回ると、月詠みの花の周りに小さな芽が出ているのを発見。どうやら、虹の実の種が新しい生命を育み始めていたのです。マリーお婆さんは、これも村全体で見守っていこうと提案しました。
「自然の恵みは、みんなで分かち合えばもっと豊かになる」
その言葉通り、エマの裏庭は村の宝物となり、季節ごとの観察会が新しい伝統として根付いていきました。子供たちは毎日のように訪れては、新しい発見を報告します。
光の谷の空に浮かぶ月を見上げながら、エマは思います。小さな奇跡は、みんなの心に寄り添うことで、もっと大きな幸せになっていくのだと。




