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光の谷のクラフトマスター ~癒しの転生スローライフ~  作者: 霧崎薫


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第五十六章 星を編む夜

 満月が輝く静かな夜、エマの工房に不思議な出来事が起こった。古い織機から漏れ出す星明かりのような光に、エマは思わず足を止めた。昼間まで普通に使っていた織機なのに、今は淡い光を放っている。


「これは……」


 エマが恐る恐る近づくと、織機から星屑のような光の粒子が舞い上がった。それは風に乗って淡く揺らめきながら、空気中に漂っていく。


 光の粒子は月光を浴びるにつれて、より鮮やかな輝きを増していった。まるで天の川が工房の中に降りてきたかのような光景。エマは思わず息を呑む。


「なんて美しい……!」


 その時、織機が自ら動き始めた。杼が光を集め、それを糸のように紡ぎ始める。エマはただ見守ることしかできない。織機は星々の光を集めて、一本の輝く糸を紡ぎ出していく。


 そこへ、マリーお婆さんが静かに姿を現した。


「やはり来ていたのね」


 マリーお婆さんは満足そうに頷く。


「織機が星を紡ぐ夜。特別な織り手にしか訪れない神秘の時よ」


 エマは驚きの表情を浮かべる。


「特別な……織り手……?」


「そう。すべての光は一つの源から来ているの。それを理解した織り手だけが、星の糸を紡ぐことを許される」


 マリーお婆さんの言葉に、エマは深く考え込む。前世では、自分一人の才能や技術を追い求めていた。しかし、光の谷で過ごす中で、すべては繋がっているという真実に少しずつ気付いていた。


 織機は相変わらず星の光を紡ぎ続けている。エマはゆっくりと織機に近づき、そっと手を添えた。


「あたたかい……」


 織機から伝わる温もりは、生命の鼓動のようだった。エマは目を閉じ、織機と一体となって星の光を感じ取ろうとする。


 すると不思議なことが起きた。エマの意識が広がり、宇宙の果てまで続く光の波動を感じ取れるようになった。一つ一つの星が、同じ光の源から生まれた兄弟のように感じられる。


「私たちも、この大きな光の一部なのね」


 エマの呟きに、マリーお婆さんは静かに頷いた。


「その通り。分かれているように見えて、本当はみんな一つなのよ」


 夜が更けていく中、エマは織機と共に星の光を紡ぎ続けた。できあがった布は、夜空そのものを織り込んだかのような深い青色で、無数の星々が織り込まれている。触れると、温かな光が広がっていく。


 夜明け近く、最後の一織りを終えたエマは、深い達成感と共に、新たな理解を得ていた。自分もまた、この広大な宇宙の営みの中の一部なのだと。


 その後、エマの織った「星の布」は不思議な力を持つことが分かった。身につけた人の心に、宇宙の深い調べが響き、無限の可能性への気付きをもたらすのだ。


 しかし、それは始まりに過ぎなかった。星の光との出会いは、エマの創作により深い次元をもたらすことになる。光の谷の人々は、エマの作品を通じて、自分たちもまた大きな光の一部であることを感じ取っていったのである。


 そして、満月の夜が訪れるたびに、エマの工房からは微かな星明かりが漏れ、優しい光が谷全体を包み込むのだった。それは魂の深い調べを奏で、光の谷に新たな物語を紡ぎ出していく。


# 間奏曲「星の囁き」


 それから数日後、エマは工房で「星の布」を見つめていた。布の中で星々が静かに明滅している。


「不思議ね……織っている時は、まるで宇宙の一部になったような感覚だったのに」


 エマが布に触れると、かすかな音色が響いた。まるで星々が語りかけてくるかのように。


 そこへ、見習いの少女リリーが訪ねてきた。


「エマさん! 噂を聞いて来ました。星を織り込んだ布があるって本当ですか?」


 エマは微笑んで布を見せる。リリーは目を輝かせた。


「わぁ……本物の星みたい!」


「ええ。でも、これはまだ始まりなの」


 エマは布を広げ、リリーと一緒に星々の輝きを眺めた。そこには、まだ見ぬ物語が織り込まれているように感じられた。


# 第二楽章「星の記憶」


 満月が再び近づいてきた頃、エマの工房に変化が訪れる。「星の布」が、まるで生き物のように呼吸を始めたのだ。


 布から放たれる光が、工房の壁に様々な光景を映し出す。遠い星々で起きている出来事、はるか昔の記憶、そして未来への予感……。


 エマはその光景を見つめながら、新たな作品のインスピレーションを得ていく。星々の記憶を、現代の織物に織り込んでいくのだ。


 マリーお婆さんは、そんなエマの姿を見守りながら、静かに微笑んでいた。


「始まったのね。星々との本当の対話が」


 エマの織る布は、次第により深い物語を語り始めていった。それは、宇宙の記憶と人々の想いが織りなす、新しい次元の創作だった。


# 終章「永遠の織り手」


 星の力を理解したエマは、より深い創作の境地に達していった。彼女の作品は、単なる布を超えて、見る者の心に永遠の調べを奏でるようになっていった。


 光の谷の人々は、エマの作品を通じて、自分たちもまた壮大な宇宙の物語の一部であることを感じ取っていく。それは、分断を超えて、すべてが一つに繋がっているという深い気付きをもたらしていった。


 こうして、星を編んだ一夜の出来事は、エマと光の谷の人々に、新たな次元での創作と存在の可能性を開いていったのである。


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