第四十一章「織りなす想い」
冬の足音が近づく頃、着物の布地が少しずつ形を成し始めていた。月光を織り込んだ白地に、夜桜の花びらが浮かび上がるような模様。それは、まるで月夜の情景そのものを布に封じ込めたかのようだった。
「ユーリアさん、この模様は……?」
エマは、ふと気付いた。布地の端に、小さな文様が浮かび上がっている。
「ああ、それは彼が好きだった千鳥の模様よ」
ユーリアの声が、いつもより柔らかく響く。
「春の夜、月明かりの下で千鳥の声を聞きながら、プロポーズされたの」
エマは、布地に浮かぶ千鳥の模様をそっと撫でた。その小さな文様の一つ一つに、確かな記憶が刻まれているのだ。
「私も……織り込みたい想いがあります」
エマは、風の模様を織り始めた。ルークが教えてくれた風の道を思い出しながら、布地に風の流れを表現していく。
「素敵な模様ね」
ユーリアが、優しく微笑んだ。
「風の中に光が踊っているみたい」
「ルークさんが見せてくれた風の道なんです。いつか、きっと……」
言葉を途切れさせたエマの頬を、月の光が優しく照らしていた。
その時、工房の戸が静かにノックされた。
「エマ、まだ起きているの?」
マリーお婆さんだった。
「こんな夜更けに申し訳ありません」
「いいのよ。それより、見せたいものがあるの」
マリーは、古びた箱を差し出した。開けてみると、中には繊細な金糸が収められていた。
「これは……?」
「ユーリアが最後に使おうとしていた糸よ。月の光を集めて紡いだ特別な金糸」
エマは息を呑んだ。箱の中で金糸が、かすかに脈動するように輝いている。
「まあ……」
ユーリアの声が、感動に震えていた。
「こんな所に、残されていたなんて」
マリーは、ユーリアの存在に気付いているかのように、静かに頷いた。
「想いは、決して消えないもの。百年の時を超えて、また光を放つ時が来たのね」
三人の周りを、月の光が静かに包み込んでいく。その光の中で、金糸は一層鮮やかな輝きを放っていた。
「さあ、織りましょう」
エマとユーリアの声が、重なり合うように響いた。新しい夜の仕事が、始まろうとしていた。




