表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の谷のクラフトマスター ~癒しの転生スローライフ~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/93

第三十五章 風織りの想い

 夜明け前、エマは工房で静かに布を織り続けていた。月詠みの花の蜜で染めた糸が、月光のような輝きを放っている。


 一針一針に、言葉にできない想いを込めていく。出会いの喜び、共に過ごす時間の温もり、そして――いつか訪れるかもしれない別れへの覚悟。


「エマ? こんな早くから」


 朝日が昇る頃、ルークが工房を訪れた。


「ルークさん……ちょうど、完成したところです」


 エマは、織り上げたばかりのショールを広げた。薄い月光色の布地に、風の流れのような模様が浮かび上がっている。光に透かすと、その模様が生命を持ったように揺らめく。


「これは……すごい」


 ルークが息を呑む。


「風が、布の中で踊っているみたいだ。しかも、この温かさは……」


「私の想いを、全て込めたんです」


 エマは、少し震える声で続けた。


「ルークさんは、いつか旅立つかもしれない。でも、この布には、今この時の私たちの想いが永遠に残ります」


 ルークの表情が、真剣なものに変わった。


「エマ……僕は」


「いいんです。何も言わないでください」


 エマは、微笑みを浮かべた。


「ただ、このショールを身に付けてほしいんです。そうすれば、どこにいても私の想いが、あなたを包んでくれる」


 朝日が工房に差し込み、ショールが神々しい輝きを放つ。その光は、まるで二人の心を映し出すかのようだった。


「ありがとう、エマ」


 ルークは静かにショールを受け取った。その瞬間、不思議なことが起きた。ショールが風のように舞い上がり、自然とルークの肩に巻き付いたのだ。


「風が……このショールを認めてくれたんだ」


 エマの目に、小さな涙が浮かぶ。それは悲しみの涙ではなく、想いが確かに相手に届いた喜びの涙だった。



 その日の夕暮れ時、ルークはエマを羊飼いの丘に誘った。夕陽に照らされた草原が、黄金色に輝いている。


「エマ、君に見せたいものがあるんだ」


 ルークは、エマの織ったショールを身に付けたまま、杖を掲げた。すると、夕暮れの空に不思議な光の帯が現れ始めた。


「これは……!」


「風の道だよ。風が通る道筋が、目に見える形で現れるんだ」


 空には、様々な色を帯びた風の流れが浮かび上がっていた。青い風、金色の風、そして優しい桜色の風。それらが織りなす模様は、まるでエマの布のようだった。


「ルークさん、こんな美しいものを……」


「君の布から、新しい風の見え方を学んだんだ。君は布に風を織り込み、僕は風に布の優しさを教えた」


 エマは、胸が熱くなるのを感じた。二人の技が響き合い、新しい表現が生まれたことが、この上ない喜びだった。


「でも、これが僕からの()()()()()()になるかもしれない」


 ルークの言葉に、エマの心が凍りついた。


「明日、僕は旅立つよ。北の山々で、新しい風の術を学ぶ必要があるんだ」


 予期していた言葉なのに、やはり胸が痛む。でも、エマは強く微笑もうと努めた。


「分かっています。風の民は、一つの場所に留まれないって」


「エマ……」


「でも、私は大丈夫です。あなたから学んだことは、私の中でずっと生き続けます」


 夕陽が沈みゆく中、二人は黙って空を見上げていた。風の道が、まるで二人の想いを優しく包み込むように、光を放っている。


 夜風が二人の周りを舞い、エマの銀髪とルークのショールを優しく揺らめかせる。それは、まるで祝福の風のようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ