第二十九章 「永遠の祝福」
秋の気配が漂い始めた朝、エマの庭で小さな奇跡が起きていた。七色の豆の茎から、新しい芽が出始めたのだ。
「まあ……!」
エマが驚きの声を上げると、マリーお婆さんが庭の垣根越しに微笑んだ。
「母なる大地が、あなたを認めてくれたのね」
「認めて……?」
「その豆は、真の母性に目覚めた者にだけ、次の世代への種を授けるの」
エマは息を呑んだ。確かに自分の中で、大きな変化が起きていた。子供たちと過ごす時間、命を育む喜び、誰かを想う温かさ。それらが全て、かけがえのない宝物になっていた。
その日の午後、孤児院からの訪問者があった。
「エマお姉ちゃん!」
ミラが、小さな籠を抱えて駆け込んできた。
「見て! 私たちも畑を作ったの!」
籠の中には、子供たちが育てた野菜がびっしり。不揃いだけど、一つ一つに愛情が込められているのが分かる。
「みんなで育てたの?」
「うん! だって、エマお姉ちゃんが教えてくれたでしょう? 命を大切にすることの素晴らしさを」
エマは、思わず涙が込み上げてくるのを感じた。子供たちの中に芽生えた優しさは、確実に次へと繋がっていく。それは、母なる大地から授かった最も尊い贈り物なのかもしれない。
「ねえ、お姉ちゃん」
ミラが、七色の豆の新芽を見つめながら言った。
「私も大きくなったら、エマお姉ちゃんみたいに、誰かの心を温められる人になりたい」
エマは、静かにミラを抱きしめた。
「あなたはもう、立派にその道を歩み始めているわ」
夕陽が工房を赤く染める中、エマは庭の新芽に水を注ぎながら、前世の記憶を懐かしく思い出していた。完璧を求めるあまり、命を削っていた日々。でも今は違う。
自分の中に流れ始めた母性の温もりは、決して枯れることのない泉のよう。それは前世の母から受け継ぎ、そしていつか誰かに手渡していくものなのだと。
風が吹き、七色の豆の葉が優しく揺れる。その葉と葉の間から、夕陽が美しい光の粒となって降り注いでいた。
(ありがとう、母なる大地)
エマは静かに空を見上げた。
(そして、ありがとう、お母さん)
工房の窓辺に、最後の一滴の雫が輝いていた。それは涙のようでもあり、祝福の雫のようでもあった。その中に、確かな未来が映し出されているように見えた。
新しい芽が、エマの想いに応えるように、静かに、しかし力強く育ち始めていた。それは永遠に続く、母から子へ、子からまたその先へと続く愛の証。
エマの心に、確かな温もりが灯っていた。




