第二十七章「分かち合いの心」
ある朝、エマの工房に思いがけない来客があった。
「おはよう、エマお姉さん」
ミラが、小さな籠を抱えて立っていた。籠の中には、粗く切られた野菜が詰まっている。
「これ、私が切ったの。まだ上手じゃないけど……エマお姉さんと一緒にスープを作りたくて」
エマは、胸が熱くなるのを感じた。
「ええ、ぜひ一緒に作りましょう」
二人で台所に立つ。ミラの包丁使いは不慣れだが、一つ一つの動作に真剣さが溢れている。
「ねえ、エマお姉さん。私ね、考えたの」
「どんなこと?」
「私も、誰かを温かい気持ちにできる人になりたいって」
七色の豆を鍋に入れると、優しい香りが立ち始めた。
「リリーちゃんったら、まだ野菜が苦手なの。でも、このスープなら食べられるかなって思って」
エマは、ミラの横顔を見つめた。失った家族の痛みを抱えながら、今度は誰かのために何かをしたいと願うミラ。その成長に、深い感動を覚える。
「そう。きっと、リリーちゃん喜ぶわ」
「本当?」
「ええ。だって、このスープには、ミラちゃんの優しさが入ってるもの」
香り高いスープを仕上げ、二人で孤児院へと向かう。途中、マリーお婆さんと出会った。
「まあ、いい香りね」
「ミラちゃんが作ったんです」
「そう……」
マリーは、深い理解を込めた眼差しでミラを見つめた。
「愛情は、こうして受け継がれていくのね」
孤児院では、リリーが恥ずかしそうにスープを飲み、目を輝かせた。その様子を見守るミラの表情に、かつての暗い影は見当たらない。
帰り道、エマは考えていた。前世では気付かなかった、分かち合う喜びというもの。それは与える側も、受け取る側も、同じように心を温めるのだと。
夕暮れの光の中、エマとミラは笑顔で言葉を交わしながら、ゆっくりと歩いていた。




