第二十六章 「分かち合いの喜び」
夏の日差しが陽炎を揺らめかせる午後、エマの工房には嬉しい知らせが届いていた。
「エマさん! ミラが笑ったんです!」
孤児院のマルタ先生が、目を輝かせて報告に来たのだ。
「本当に……?」
「ええ! 昨日のスープの後から、少しずつ周りの子とも話すようになって。今朝なんて、庭で小さな花を見つけて、キャッキャッてはしゃいで笑ったんです」
エマは胸が熱くなるのを感じた。七色の豆が、確かにミラの心を温めてくれたのだ。
「それだけではないんです」
マルタ先生は続けた。
「他の子供たちも、みんな変わってきているんです。喧嘩が減って、お互いを思いやる言葉が増えて……」
エマは静かに目を閉じた。七色の豆には、確かな力が宿っている。それは単なる空腹を満たすだけでなく、心の飢えをも癒す力。
「先生」
エマは決意を込めて言った。
「私、みんなのために特別な食事会を開きたいんです」
その言葉に、マルタ先生の目が潤んだ。
「エマさん……」
「子供たちに、温かな思い出を作ってあげたいんです」
計画は、すぐに村中に広がった。
「私たちも手伝うわ!」
リーゼがレースのテーブルクロスを、アンナが特製の食器を、クララが羊乳のチーズを提供すると申し出てくれた。
「この子たちも、きっと喜ぶわ」
マリーお婆さんは、薬草園で育てた香り高いハーブを差し出してくれた。
「命の恵みは、分かち合うことでより豊かになるものなのよ」
お婆さんの言葉に、エマは深く頷いた。前世では、全てを一人で抱え込もうとしていた。でも今は違う。村人たちと想いを分かち合い、その輪が子供たちにまで広がっていく。
準備の日々は、エマにとって新しい発見の連続だった。七色の豆は、調理法によって様々な表情を見せる。スープだけでなく、パンに練り込めば虹色に輝くパンに、サラダに加えれば宝石のような彩りに。
そして、ついに食事会の日を迎えた。
孤児院の庭に、大きな円卓が設えられた。リーゼの編んだレースのテーブルクロスが風に揺れ、アンナの陶器が柔らかな光を反射している。
「わぁ……!」
子供たちが庭に出てくると、歓声が上がった。テーブルには虹色に輝く料理の数々。その中心には、エマ特製の七色スープが湯気を立てている。
「みなさん」
エマは静かに、しかし暖かな声で言った。
「今日は、私たちの心をつなぐ特別な食事会です。どうぞ、たくさん食べて、たくさん笑って、そして……」
言葉の続きを探していると、ミラが小さな声で言った。
「家族みたいに、過ごしましょう?」
エマは思わず涙が込み上げてくるのを感じた。
「そうね、ミラちゃん。私たち、みんな家族なのよ」
みなが微笑みながら頷いた。
「じゃあ、みんなスプーンを持って!」
「「「「「「はーい!」」」」」」
「では」
「「「「「「いただきまーす!」」」」」」
そこには和やかな団欒の空気が静かに広がっていった。




