第二十四章 「虹色の芽吹き」
春の陽射しが庭を温めはじめた朝、エマは不思議な輝きに気付いた。裏庭の菜園で、見たことのない芽が出ていたのだ。
「これは……?」
しゃがみ込んで覗き込むと、その芽は七色の光を帯びていた。月詠みの花でさえ見せない、神秘的な輝き。
エマは静かに目を閉じ、前世の記憶を探る。だが、このような植物を見た覚えはない。
「おや、芽吹いたのね」
マリーお婆さんが、庭の垣根越しに声をかけてきた。その表情には、どこか懐かしそうな温かみが浮かんでいる。
「マリーお婆さん、この芽は何なのでしょう?」
「それは『虹色の恵み』よ。母なる大地が選んだ者にだけ、芽吹きを許す特別な作物」
エマは息を呑んだ。確かに、この芽からは普通の植物とは違う、温かな波動が伝わってくる。
「選ばれた、ですか……?」
「そう。あなたの中に、新しい命を育む資質を見出したのでしょうね」
マリーの言葉に、エマは複雑な感情を覚えた。前世では、創作に没頭するあまり、植物や動物……命を育むことなど考えもしなかった。それどころか、自分の命さえも大切にできなかった。
「でも、私にそんな資格が……」
「エマ」
マリーが、優しく、しかし凛とした声で言う。
「命を育てることに、資格なんて必要ないのよ。大切なのは、その心構え」
エマは静かに頷いた。そうだ。今の自分には、確かに変化が訪れている。畑仕事を通じて命の尊さを学び、村の人々との交流で心が温かくなっていく。
「この子、大切に育ててみます」
エマがそう言うと、芽が一層輝きを増したように見えた。
「ふふ、喜んでいるみたいね」
マリーの言葉に、エマは思わず微笑んだ。
その日から、エマの日課が一つ増えた。朝一番に芽の様子を見に行き、優しく語りかける。不思議なことに、芽は言葉を理解するかのように、日に日に健やかな成長を見せた。
「すくすく育っているわね」
ある朝、水やりをしていると、茎が急に大きく伸び、小さな蕾をつけ始めた。その様子は、まるで子供が手を伸ばしているようで、エマは思わず胸が熱くなる。
(前世では、こんな風に命の成長を見守ることなんてなかった……)
創作に追われる日々の中で、見過ごしていた大切なもの。それが今、確かな形となって目の前で育っている。
昼下がり、エマは作業の手を止めて空を見上げた。渡る雲の形が、どこか赤ちゃんの寝顔のように見える。
エマの心に、新しい感情が芽生え始めていた。




