第二十一章 癒しの調べ
日を追うごとに、ルナの翼は確実に回復していった。同時に、エマの織る布にも、少しずつ変化が表れ始めた。
朝もやの立ち込める工房で、エマは黙々と織り続けていた。織機を踏む音が、静かな調べのように響く。
「不思議ね、ルナ」
エマは、止まり木で眠るフクロウに語りかけた。
「あなたが来てから、私の布に温かみが増したって、みんなが言うの」
確かに、以前の作品には無かった柔らかさが、布地に宿り始めていた。それは月光のような優しさと、羽のような軽やかさを兼ね備えた、独特の質感だった。
「エマ! いい知らせよ!」
リーゼが、突然工房に飛び込んできた。
「羊飼いの丘で、特別な羊毛が採れたの。月光に当てると光るんですって!」
「まあ……」
エマの頭に、新しいアイデアが浮かんだ。月の光を帯びた羊毛と、ルナから教わった優しさを織り込んだ布。それは、きっと特別な「癒しのショール」になるはず。
「ねえ、リーゼ。クララにも相談したいことがあるの」
三人で計画を練り、羊毛を月光に晒し、エマ独自の織り方で布を織り上げていく。その過程で、エマは気付いていた。
前世の自分は、常に一人で完璧を目指していた。でも今は違う。仲間と共に創り上げることの喜びを、心から味わえるようになっていた。
「エマ……」
ある月夜、ルナが不思議な声で鳴いた。その声には、旅立ちの予感が込められていた。
「分かっているわ」
エマは、完成間近のショールを手に取った。
「あなたの傷が癒えたように、このショールも、誰かの心を癒やせるものになったと思う」
ルナはゆっくりと羽を広げ、その大きさを見せた。もう飛べるようになったのだ。
エマは工房の窓を開けた。満月の光が、銀色の光帯となって差し込んでくる。




