第二十章 光の織り目
その日から、エマの工房は不思議な雰囲気に包まれるようになった。作業台の近くに置かれた小さな止まり木には、ルナが静かに佇んでいる。時折、エマの織る布地に好奇心溢れる眼差しを向けては、小さな鳴き声を上げた。
「ルナ、この模様はどう?」
エマが織り上げた布地には、月光に照らされた羽のような模様が浮かび上がっている。ルナの白い羽から着想を得たデザインだ。
「でも、まだ何か足りないわ……」
エマは深く息を吸い込んだ。前世なら、この程度の迷いはすぐに振り切って先に進んでいただろう。でも今は違う。じっくりと向き合い、本当に表現したいものを見極めたかった。
「まあ、エマったら。こんな夜更かしして大丈夫なのかい?」
マリーお婆さんが、夜に工房を訪れた。
「あら、この子は?」
「ルナっていうの。怪我をした子なの」
マリーは、静かにルナを見つめた。
「なるほど。この子との出会いが、あなたに何かを教えてくれているのね」
「え?」
「ほら、見てごらんなさい」
マリーは、エマの織りかけの布地に目を向けた。
「この布には、あなたの優しさが染み込んでいる。でも同時に、どこか迷いも見えるわ」
エマは黙ってうなずいた。確かに自分の中には、まだ言葉にできない何かが渦巻いていた。
「私、誰かを思いやる気持ちを忘れていたかもしれない……。作品のことだけを考えて……」
マリーは、静かに微笑んだ。
「だからこそ、この子があなたの前に現れたのよ。時には、誰かを癒やすことで、自分も癒やされるの」
その言葉が、エマの心に深く響いた。そうか。自分は無意識のうちに、ルナの傷を癒やすことで、前世からの心の傷も癒やされていたのかもしれない。
窓の外では、夕陽が沈みゆく空を赤く染めていた。ルナは止まり木の上で、羽を少し広げている。その姿は、まるでエマに「もう大丈夫よ」と語りかけているかのようだった。




