表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/31

第22話 あいつすっごく馬鹿ですわ


 ――先頭の馬車を遠くにみやり、俺たちは困惑していた。


「ハーッハッハッハッハッハ!」


 自称勇者の高笑いが晴天によく響いていた。


「我こそは……! えっとなんだけ……予言されしー……あ、そうだ、予言されし真実の勇者様だ! 命が惜しけりゃナカマを置いてここから立ち去りな! さもなけりゃこの選ばれし勇者の剣――なんだっけ、えっと……『銀月の剣』! の錆にしてやるぜっ!」


 フェルとジュジュを携えて屋根の上にのぼると、さっきのようなことを声高らかにのたまうやからがいた。


 全身に黒い鎧兜を着込み、ご丁寧にマントまで装着した姿は、夏空の下で暑苦しそうだった。


「って言ってるけど、どう思うロシナ?」


 馬車の中のロシナに問いかけると、


「――勇者様!? わ、私も見てみたいです!」


 興奮したお姫様の声がくぐもって聴こえてきた。

 

「……はぁ。本物の勇者なわけがないですわ……おねえさま、ちょっと冷静になられて」


「ん。魔力もなにも感じない。それだけで、神に選ばれた存在とは言えない」


「で、でも、民衆を導くとされる『銀月の剣』を持っているんですよね? 闇夜でさえも切り裂き、魔王を封印したとされる勇者の剣――見たいです! 私も見ます!」


 ロシナの興奮は高まるばかりだった。


「落ち着けロシナ。そんなに凄い剣ならなおさら見せびらかすわけがないだろ」


 そしてたぶんその剣はおまえんちにあるはずだ。


「で、でも、『星見たち』の予言ではこの旅で勇者に出会えると……」


 ああ、そうか。ロシナはその使命を人一倍重く受け止めているのだ。


「勇者かどうか見分ける確実な方法ってないのか?」

 

「あ、それなら!」


 ロシナは戸からひょっこりと顔だけを出した。


「『勇者の証』である紋章が、体のどこかにあるはずです。たしか生まれつき備わっているものだと!」


 勇者の証――そう聴いて、自分の腕を包帯の上から撫でてしまう。


 ギルド追放の印を刻まれた俺とは、真反対の存在だ。

 

 ロシナとジュジュ、フェルには見せていないし、これからも見せるつもりもない――役立たずの証。

 

「……それを知っているのは王族だけか?」


「はい、『星見たち』の予言でしか語られていません」


 それなら話は簡単だ。


 脱がして確かめればいい。


「ジュジュ、いっしょに来てくれ」


「は~? 季節は夏真っ盛り、乙女の肌が荒れましてよ。わたくしは涼しいところでおねえさまといちゃこらしてますわ~」


「……午後のティータイムで焼き菓子を譲るよ。おねえさまと仲良く分ければいい」


「あら、交渉なんて頭の良いマネができるようになられたのですわね? 田舎術士にしては上出来ですわ」


「いちいちマウント取らないと話を進められないのか!?」


「お兄さん。ぼくも行く」


「助かるが、ロシナを頼む。自称勇者のいう『仲間』の動きが気になる」


「わかった」


 素直にうなずき、フェルは馬車に戻った。


 俺とジュジュは屋根伝いにぴょんぴょんと駆け、先頭の馬車へたどり着く。


「今から十数えるうちにナカマを解放しなけりゃ、あふれでる勇者パワーで馬車をひとつずつぶっ潰していくぞー! それでもいいのかー!? ほんとにやっちゃうぞ! ほんとのほんとだぞー!?」


 屋根の上に隠れてこっそりと覗き見ていたが、なんというか、あまり頭のよくないセリフだった。まるでことばを覚えたての子供のような……。


「どの馬車に仲間がいるかもわからないのに? お馬鹿じゃなくって?」


 シラっとした目で蔑むジュジュに、今回ばかりは頷いてしまう。


「で、どうなさいます?」


「呪術で鎧を脱がせられるか?」


「……はあ。どうしてそんなことをお尋ねになって?」


 ジュジュは銀の触媒をつけた腕を、自称勇者に向かって伸ばしていた。


「――もうやってましてよ」


 ぴん、と。空気のなかに琴線のようなものの張りつめる音がした。


 一瞬体を硬直させた自称勇者は、操り人形のようにぎくしゃくと動き出し、


「あ、あれ? なんだ? なんだなんだ?! うわーっ!」


 ――しかし、


「フンッ!」


 気合のこもった声を発し、手足の自由を取り戻した。


 ジュジュの『操作』の術はすんでのところで弾かれてしまったらしい。


「な、ななななーっ!!?」


 ジュジュが白目をむく勢いで驚きの声をあげた。


「ジュジュの呪術から逃れた……!?」


 俺も予期しない光景に戸惑う。


「お、おかしいですわ……そんなことができるのは同じSSSクラスの者同士だけ……まさかあいつ、本当に勇者でして……?」


「……ジュジュはここにいてくれ」


 俺は馬車から地面に降り立った。


「あ、ミレートさん!」


「そこで観察して、気づいたことがあったら教えてほしい。危険だと判断したら、すぐにフェルを呼んでくれ」


 そう言い残し、俺は黒い鎧兜の前に出た。


「お? なんだキサマ、この勇者様と戦うのか!? それともナカマを連れてきてくれるのか!?」


「仲間ってのはあの魔術士たちのことか?」


 相手に探りを入れようと思ったのだが、


「ああ! あいつらはおいしい肉をくれたからな! 全員ナカマだ。しかも馬車をぶっ壊したらもっと肉をくれるって言ってた! だから壊す! ぶっ壊す!」


 ……あまり賢くないということくらいしか分からなかった。


「なんか、その……本当に勇者なのか? 仲間にこき使われてないか?」


「コキツカウ?」


「……勇者ってほら、パーティーのリーダーだろ? それなのに、仲間から肉を貰うために敵を倒すっていうのは……ちょっと変じゃないか。尊敬されてないっていうか……」


 パシられているというか。


「そ、そうなのか……? でも、肉もらえたからソンケーされてるだろ?」


「う、うーん……その仲間とはどこで会ったんだ?」


「……」


「きみはいつから勇者を名乗ってるんだ?」


「……」


「その剣はどこで……」


「……」


「あの……勇者サマ?」


「……ん? あ、肉のことを考えてた!」


 ……。


 ……とりあえず勇者ではなさそうだった。


「ミレートさん……!」


 ジュジュのひそひそ声が馬車の上からきこえてきた。


「どうした!? なにかわかったのか……?」


 俺も声を低くして聞き返すと、ジュジュの神妙な声が返ってきた。


「あいつすっごく馬鹿ですわ……!」


「……うん」


 もしかしてそうなのかもしれないと思っていたところだ。











------------------------------------------------------



お時間いただき誠にありがとうございます!


ブックマーク登録&いいね!&『★』の評価して下さると、読んで下さる人がいるんだ!と思ってとても嬉しいです。


ぜひぜひ、「面白い!」と思って下さった方は、お願いします!


(山田人類)



 


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ