第1話 冒険者ギルド、永久追放!?
――酒場
「おいミレート! 酒持ってこいよ!」
俺の参加する討伐隊のリーダーから激怒の声が飛んでくる。
それもそのはずだ。
今日の魔物討伐はひどい結果だった。
「えーっと今日の報酬は……」
討伐隊の弓術士であるミカが指折り数える。
「スライム5匹。スピードスライム5匹。レッドスライム5匹。イカヅチスライム1匹……みんなで分けても、ここの酒場の代金くらいにしかならないわね」
「それもこれも、お前のせいだぞミレート!」
リーダーのイグナスは、怖い顔をさらに怖くして迫って来る。
「男のくせに前衛の戦士じゃなくて後衛のヒーラーなんてやりやがって! そんな臆病な心構えで、よくも冒険者ギルドに登録なんてできたもんだなあ!? ミレート!?」
「そ、それは俺の天職がヒーラーだから……ていうか、報酬には関係ないんじゃないか……?」
「そもそも、君にはヒーラーの才能もあるかどうか怪しいものですけどね」
イグナスのとなりで静かに酒を飲んでいたクールな男、メルロが眼鏡をくいっと直しながらうなずく。
「瞬時の回復能力はたしかなものですが、毎回『大回復』してくれるわけでもありません。『中回復』をちまちまと後ろから詠唱しているだけで、ときには『小回復』のときもあります。あなた、魔力をケチっていませんか?」
「おいミレート!? ほんとかよ!?」
リーダーのイグナスのひたいに青筋が浮かんでいる。彼はスキンヘッドにしているので、浮かび上がった血管がくっきりとよく目立った。
「そ、それは、本当だよ。でも、理由があって……話せばわかるんだ。『大回復』にはリスクが……」
「あーあ」
と、紅一点のミカがテーブルに頬杖ついてため息を吐く。
「ヒーラーってたまにしか会えないレアジョブだって聴いたから、酒場で仲間を探してたきみのことをパーティに誘い入れたけど、なんかがっかり。敵に攻撃されてもびくともしないような体にしてくれたり、傷ついてもすぐに全回復してくれて、きれいなお肌のまま戦闘を終わらせてくれるかと思ったのになぁ……味方の体力よりも、じぶんの魔力のほうが大事なの?」
「い、いやだから……回復をケチっているわけじゃなくて……」
「もういい!」
だんっと酒をテーブルにたたきつけて、イグナスは目を見開いた。
「ミレート。お前はクビだ」
「ま、まってくれ……!」
「しかも、ただのクビじゃねえ。メルロ」
顎で指図をうけたメルロは、眼鏡を持ち上げた。
「はい。ミレートさん、あなたにはこの契約反故の拘束を受けてもらいます」
「け、契約反故……!? な、なにそれ!?」
「うっわー。ふたりとも、それマジでやるの~?」
ミカがドン引きした声でいう。
「それってあれでしょ。しばらくは冒険者ギルドのクエストには参加できなくなるし、パーティに参加しようとすると自動的に除外されるっていう、かなりヤバい拘束呪術でしょ~?」
「ええ。冒険者ギルドから信頼を置かれたパーティにしか許されていない呪術であり、呪術士である私にしか扱えないものです。さらには、この呪術を解くことができるのも私だけです」
「おうおう、やっちまえ、メルロ!」
「ま、ままま、待ってくれ!」
俺はあわててテーブルに体を乗り出す。
「本当なんだ、ヒーラーって言っても万能じゃない! 詳しく説明するには長くなるし、信じてもらえないかもしれないけれど……」
「『追放』」
低く、おどろおどろしいメルロの声がそう告げた。
瞬間、俺の右手の甲に赤い紋章が浮かび上がる。じゅぅっと音を立て、焼きゴテのように熱を押しつけられる。苦痛に耐え、目を開くと、そこには拘束の紋章の痣が濃く刻まれていた。
「こ、これは……」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 傑作だな! ミレート、これでてめえはもう二度と冒険者ギルドの依頼を受けられねえし、どこのパーティにも受け入れてもらえねえ! お前の冒険者としての人生は、ここで終わっちまったんだよ! ひゃひゃひゃひゃ!」
「笑い方キモ」
ミカがため息とともにつぶやく。
「まあ、身の程をわきまえるにはちょうどいいでしょう」
メルロはどこまでも冷静にいう。
「ミレートさん。もう二度と、冒険者を名乗らないでください。この世を魔王の支配から解き放ち、すべての魔物を葬り去るという誇り高き任務は、あなたのような卑怯者には重すぎます」
暗くなる視界のなか、最後に聴こえてきたのはイグナスの歪んだ声だった。
「ま、冒険者ギルドにも所属しないで、たったひとりで冒険をしたいなら、止めねえけどよ……お前はたぶんスライム一匹倒すあいだに、百億回は殺されちまうだろうな......ひゃひゃひゃひゃひゃ……!!!」
世界が、まっくらに染まっていく……。
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