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三原堅太郎⭐振り返る

作者: らすく

 まさか自分がこうなるとは・・・。

 彼の人生設計は狂ってしまった。

 男は50代独身。中小企業に勤め続けて30年。

 真面目な勤務態度もあり、会社ではなかなか信頼された存在であった。

 このまま定年を迎え、独り身の老後を過ごすものと思われた、がしかし・・・。彼は末期ガンを告知された。

 彼の名は三原堅太郎。己の人生を振り返る旅に出る事にした。

 

 新幹線のホームに並ぶのは久しぶりである。彼は週末の休み、と言えば読書三昧であった。

 三原は会社の上司と相談し、2週間の有給休暇取得を認めて貰ったのだった。

 もっともそれは退職を考える準備をかねてのものであるが。

 新幹線は北へと走った。何故ならそこが彼の生まれ故郷だからである。

 目まぐるしく動く光景を眺めながら、これからの身の振り方について彼は考えてみた。

 多分このまま会社は退職するであろう。そして懐かしい故郷で穏やかに息を引き取るのだ。


 時間が過ぎるのはあっという間だった。駅は鉄道管理局があるだけあって、規模は大きい。だか昔に比べて、大きく変わった印象は無かった。別に急いでいるわけではないので、彼は駅の中をゆっくりと歩いた。

 どうしてだろうか。彼は気がついてしまった。駅から表に出ることに違和感を覚えた。

 「お!三原か?」

 聞き覚えのある声が耳に入った。

 

 「やっぱり三原じゃないか。」

 「ああ・・・。」

 その顔に覚えはあるが、直ぐに名前は出てこない・・・。高校の同級生だ。

 「本当に久々だな。二十年ぶりくらいか。」

 男はそう言うのだが、実際はもっと年数が経過しているであろう。そして三原堅太郎は気が付いた。旧知の人間がもう一人目の前にいたことを・・・。

 「三原くん。」

 「・・・・あ・・・。」

 気の利いた言葉が出てこない。彼女もまた、三原の高校時代の同級生。

 「元気にしてる。」

 「うん。」

 彼女に対して三原は相槌を打つのみであった。しかしそうゆう三原の性格は学生時代からであり、そこを熟知している彼女は嫌な顔はしていなかった。

 「また飲みに行こうや。」

 「じゃあまたね三原くん。」

 三原の同級生であり、夫婦の二人は社交辞令ともとれる言葉を残し去って行った。そんな二人を見送り、いや正確に言うと彼女を見送り、三原堅太郎は振り返るのであった。

 ===== 彼女との初恋の日々を =====


 ===== ズズズ =====

 心地よい辛さの麺を啜り、その味を懐かしんだ。これは冷麺と言うものである。

 「ご馳走様。」

 「有難う。」

 店の主人は齢を取っていた。

 実を言うと、この店は三原が学生の頃に度々通っていたのである。

 どうやら数十年も経つと、店の主人は三原の事は覚えていなかったようだ。

 気が付いていたのかいなかったのか、三原堅太郎はその事を確認するつもりは無かった。

 なぜなら彼は故郷を捨てて関東に出たのだから・・・。


 ===== 三原堅太郎は実家の前にいた =====

 暫く三原は佇んでいた。

 素直に玄関のチャイムを鳴らす気持ちになれなかったのだ。

 「おじさん、誰?」

 「うっ・・・。」

 気が付くと男の子が傍にいた。そのとき三原は悟った。この子が自分の甥であるという事を・・・。

 そして・・・。

 ===== ガラッ =====

 玄関が開かれた。

 「・・・・お兄ちゃん・・・・?」

 そこには中年の男性が立っていた。もっとも三原堅太郎に比べたらまだまだ若い、と言えるのであるが・・・。

 「久しぶりだね・・・。上がってよ・・・。」

 戸惑いながらも中年男性は三原堅太郎を家に上げた。

 このことから彼は三原の事を、決して憎んではいないと伺える。


 ===== 三原堅太郎と弟は畳の部屋にいる =====

 「お兄ちゃん。今はこの健太と二人暮らしなんだ。」

 そう言って弟は、その子供の頭を撫でた。どうやら弟は晩婚だった様である。

 「嫁さんは・・・・?」

 遠慮気味に三原堅太郎は、弟の伴侶について尋ねた。すると・・・。

 「出て行ったんだ・・・。」

 「そうか・・・・。」

 そもそも三原堅太郎は故郷を出て以来、全く実家とは連絡を取っていなかった。この弟も当時小学生であった。ほぼ両親とは絶縁関係となった。故に弟の結婚式にも出ていないし、両親の葬式にも出ていない。三原堅太郎には自覚があった・・・。自分は実家に帰る資格がない、という事を・・・。

 「せめて線香だけでも挙げさせてくれないだろうか。」

 「も、勿論だよ・・・。お兄ちゃん。」

 その弟の態度は当時の小学生の頃とは、全く変わっていなかった。

 三原は仏壇の前で線香を挙げ、静かに目を瞑り手を合せていた。彼が両親に対しての申し訳の無さを感じているのは、傍にいた弟には分かっていた。

 小一時間昔話をしたのち、三原堅太郎は実家をお暇するとの意向を弟に伝えた。すると・・・。

 「お兄ちゃん・・・。お兄ちゃんさえよければ、また一緒にここで暮らさないかい・・・?」

 末期がんである兄を前に、弟は正直に気持ちを出したのであろう。しかし・・・。

 「俺はここには戻れないよ。悪いな、こんな兄貴で・・・。」

 「お兄ちゃん・・・。」

 その弟の顔は、とても寂しそうだった。

 そして三原堅太郎は実家に別れを告げた。


 ===== 三原堅太郎は駅のホームにいた。彼は元々日帰りで帰るつもりだったのである =====


 ===== 休暇を終え 三原堅太郎は職場に復帰した =====

 「三原さん、これお願いします。」

 「おう、分かった。」

 「三原さん。」

 「ん?なんだ?」

 ・・・・・・、いつもと変わらない忙しい職場・・・。だが彼にはこれが性に合っていた様である。


 ~~~~~ 三原堅太郎の幸せは、皆からの信頼であった。彼は働き続けたのであった。体調が許す限り・・・・。 ~~~~~


                      ~ 三原堅太郎⭐振り返る ~ <完>

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