ネメガ星人とわたし
わたしはメガネをかけていることにコンプレックスがある。
メガネがなければもっとかわいくなって、みんなからチヤホヤされると思うのだが、残念ながら視力が両目とも0.01なのだ。
コンタクトレンズにすればいいじゃないかという声が聞こえてきそうだ。しかし、あれはめんどくさがり屋のわたしには無理なのだ。毎晩寝る前に外して──とか、出来るわけがない。大抵はお酒に酔っていつの間にか寝ているわたしに、そんなことが出来るわけがない。
なぜ、わたしがこんなどうでもいい独白をしているか?
ある偉い人が『メガネの魅力について200文字以上400文字以内で語れ』と宿題を出してきたからだ。
その人が誰かとかはどうでもいい。まぁ、うちの会社の社長なのだが、べつにうちはメガネ製造会社とかでもなく、硝子瓶会社だけどガラスをメガネのレンズにするわけでもないのに、わたしにそんなことをレポート用紙に書いて提出しろなどという意味がわからない。これは一種のセクハラなのだろうか? メガネに対するコンプレックスがあるわたしに、こんなものを書けだなんて。メガネの魅力だって? な、何も思い浮かばない。
そんな独白をしながら午後の住宅地を歩いていると、空からUFOが降りてきた。
碧色の、べっ甲フレームのメガネみたいな、コンパクトなUFOだ。
それはわたしの目の前の公園に着地すると、パタンとフレームを畳む動作で扉が開いた。
「お困りのようですね、お嬢さん」
そんなお腹から響くタイプのイケボとともに、背の高いナニカが、鼻あてのような扉を開いて現れた。
「ま……、眩しいんですけど!」
わたしは思わずそう言った。
碧色の強烈な光が、迷惑なほどに眩しかったのだ。
そのひとは、言った。
「わたしはネメガ星はジーズ国のスーパーメガネアドバイザーで、ガネメと申します。貴女のメガネに引かれて来ました」
「メネガ星人のガメネさん?」
「ネメガ星人のガネメです」
碧色の後光のような演出が徐々に消えると、そのひとの姿があらわになった。
タキシードを着た、黒髪の美青年だった。碧色のかっこいいメガネをかけている。
「貴女はご自分の……いや、メガネの魅力をわかっていないようですね」
彼は言った。
「とても綺麗だ。とてもかわいい。あなたは。しかし、それはその黒縁のメガネによって魅力がブーストされているのです。それをわかっているのですか」
「そうだったんですね?」
よくわからない話なので適当にうなずいた。
「しかし、その黒縁のメガネでは、まだまだ貴女の魅力をブーストしきれていない」
彼は一本のメガネを、スチャッとどこからか取り出した。
「これをかけてみてください」
「いいです」
わたしは手を顔の前で優雅に振って、帰ろうとした。
「いいから!」
彼はしつこかった。
「これをかけてみてくださいってば!」
しつこさに負けて、かけてみた。
彼がここぞとばかりに大きな手鏡を取り出す。
「どうです?」
得意げに、彼が言う。
「ご自分の魅力が最大限にブーストされたでしょう?」
鏡の中には、虹色の派手なメガネをかけたわたしがいた。
あまりにみっともなくて、小っ恥ずかしかったので、すぐに外してお返しした。
「だ……、ダメでしたか?」
彼がオロオロした。
「こっ……、この私が選んだのに?」
「ハハハハハ!」
いきなり、背後から別の男のひとの笑い声が起こった。
「おまえは下手か? ガネメ! そんな派手なメガネでは、その美しいひとの魅力をむしろ殺してしまうではないか!」
「あっ……、貴方は!」
彼が大袈裟に振り向き、その男のひとの名を呼んだ。
「我が永遠のライバル……メガ・ネイ・チヴァ!」
「これでミキちゃんは俺のものだな」
眼鏡市場さんは言った。
「そんなセンスのないおまえにパリの帰国子女のミキちゃんは釣り合わん!」
でも言っては悪いけど、最初のネガメさんだかメガネさんのほうがかっこよかった。
眼鏡市場さんは王子のような派手な服装に身を包んだ、ローリー寺西男爵みたいなひとだった。しかもメガネをかけてない。
「お嬢さん、俺のメガネをかけてみな」
寺西さんがおすすめのメガネを差し出してくる。
「コイツをかければアンタの魅力はブチ上がりだぜ!」
その昔、ミシェル・ポルナレフさんがかけていたような、黒いレンズのはまった白い縁の、レトロフューチャーな感じのメガネだった。わたしがかけたらウルトラマンの出来損ないみたいになりそうだったので、視線をそらしてそのまま帰った。
アパートの部屋に帰るとネメガ星人のなんとかさんが先に帰っていて、お茶を飲んでいた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
メガネの趣味は悪いけどわたしのことをお嬢様と呼び、褒めてくれる。
まぁ、いいかと思ってわたしは彼と暮らしはじめた。かっこいいし。
わたしに勧めてくるメガネのセンスは壊滅的にダサいが、彼は自分の魅力を最大限に引き出すメガネをいつもかけている。
あのレポート、彼を見ていたらなんとか書けそうだ。