推しの推しを推したいが、推しの推しは誰なんだ
オタクが幸せそうだと、自分も幸せになる。
私、そんなタイプのオタクです。
「あなたの大ファンです! 」って気持ちを、言えない人同士の、お話です。
私は、緊張していた。
笑顔をキープして、何とか、質問に答えていく。
どうしてインタビューに答えるのが、こんなに緊張しているのか。
それは、…それは!
…私にインタビューしているのが、私の推しだから!
1つ質問に答える度に、推しの切れ長の目が、優しく微笑む。
この笑うと無くなっちゃう位、マンガみたいな線になっちゃう目が、私は好きだ。瞳の中に星が瞬いているように、キラキラしていく。
メモを取りながら、程よく相槌を打って、前のめり気味に話を聞いてくれる。
ああ、目がきれいだなあ。
「因みに、特に尊敬している俳優さんや、振付師さんはいますか? 」
貴方です!
目の前にいる、あ・な・たです! と即答したい!
でも、まずいよね?
まずいよね?
絶対に、まずい。
言うのは、今じゃない。やめておこう…。
ありきたりかも知れないけど、何とか無難にこなせたと思う。
正直、答えた内容も全然覚えていない。
でも、これで終わりじゃない。
次は、私が推しにインタビューできるのだ。
これを逃しちゃ、いけない!
頑張らないと!
「こんにちは。[劇団サラマンダーちゃんねる]です。今回の担当は、[檜山]でーす。そして、ゲストは、劇団ウンディーネからお越しの、女優にして振付師、[水沢 舞]さんでーす! 」
「こんにちは。よろしくお願いします。」
「あの…、」
「はい? 」
「昔から美人だとは思っていましたが、近くで見ると、本当に可愛いので、緊張しています。」
僕の推しが、目の前に!
軽い奴だなんて、思われたく無い!
でも、この感動と、出会えた喜びは伝えたい!
キモいとか、思われたら、もう、終わる!
「ええ?! お世辞でも嬉しいです! 」
満面の笑みを、ありがとうございます。
実は、「お花の妖精さん」ですか?
至近距離…、あ〜幸せ噛みしめる…。
「早速ですが、劇団ウンディーネに入ったきっかけを教えて下さい。」
「ウンディーネのお芝居を観る機会があって、その時、『こういう作品ができたら、楽しいだろうな』…と思ったのが、きっかけです。」
「劇団ウンディーネに入る前と後では、ご自身にどんな変化がありましたか? 」
「そうですね、それまでも色々なお芝居に参加したり、他の劇団のワークショップやオーディション等を受けましたが、ストレートプレイばかりだったんですね。それが、ミュージカルに参加する事で、大変ですが歌やダンスもする事で、表現の幅は広がりました。」
…知っています。
前の劇団にいた時からの、ファンですから!
とか、言ったら、引かれるかな?
引くかな?
引くよね。
また、今度チャンスがあれば、話そう。
「人間関係とかは、変わりました? 」
「そうですね…。元々、お芝居の共演者は知人だったり、お友達だったりしましたけど、ウンディーネはスタッフも含めて、家族に近い感覚ですね。」
「劇団という組織の中に入って、役割は変わりましたか? 」
「そうですね…。…得意なダンスを活かして、振付も担当できる事になりました。とても幸せな事だと、思っています。」
「振付師も担当する事になって、仕事量も増えてすごく大変だと思いますが、どうして、俳優と振付師の両方を頑張れるんですか?」
「好きで得意な事、だからでしょうか? それで皆さんに喜んで頂ける事が、私の喜びですね。」
可愛い。
この、性格の良さ!
さあ、次の質問が大事だ…!
「因みに、特に尊敬している俳優さんや、振付師さんはいますか? 」
それを聞くと、驚いた様に顔を赤らめて、俺を見つめている。直ぐに、
「う~ん、舞台に関わるお仕事をされている方達は、全員尊敬に値すると思っています。特にと言われると、今はお名前が出なくて…。」
「分かります! 皆さんにリスペクトしている感じが、素敵です! では、最後になりますが、この動画を観てくださっている方達に、メッセージをお願いします。」
…くっ!
誰が、推しの推しなのか、知りたかったのに!
そしたら、『推しの推し』ごと、推せたのに!
ああ! 僕の!
…推しの推しって、誰なんだ!?
お読み頂き、ありがとうございます。